(289)「STP」の流れに竿をさす【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年7月8日
マーケティングの基礎の中でよく使う概念にSTPというものがあります。Segmentation(細分化)、Targetting(絞り込み)、そしてPositioning(位置取り)という英語の3つの単語の頭文字を繋いだものです。
マーケティングの世界は奥が深い。筆者が大昔苦戦した頃とは射程も考え方も大きく変わり、益々カタカナ用語が増えている。だが、基本はそれほど変わっていない。
初めてマーケティングを学ぶ学生には、マクロやミクロの各種分析だけでなく、例えば、4P(Product, Price, Place, Promotion)などという長年呪文のように言われてきた独特の用語も相変わらず、通り抜けなければならない関門だ。
こうした基礎的な枠組み(フレームワーク)の1つに、冒頭で述べたSTPがある。例えば、新製品のマーケティングを進める場合、世の中という漠然とした市場をどう細分化するか(例えば、年齢別とか地域別とか)、その中のどの層(例えば、単身世帯か子供がいる世帯かなど)に焦点を絞るか、さらに、その絞った対象の市場に対し、自分達の組織はどのようなポジション(例えば、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャー)を確保していくのか...、というような形で活用することが多い。
このようなことを様々なところで話しながら、ふと気が付くと自分自身の生活そのものがこうした流れに巻き込まれてきたことに気が付くことがある。
例えば、大学受験を考えてみよう。今では大手受験予備校が全国全ての大学の学部学科ごとに偏差値という数字を用いてランク付けを実施している。大学や学部別偏差値の一覧表などは筆者が高校を受験した半世紀前から存在したが、それがより精緻化し、何十万人もの受験生は、MRIの断層写真のように細かく「輪切り」されている。これが先のSTPのS、つまり受験生の細分化である。
さらに、受験生は自らの希望と実際に所属する「輪」を基本にどこの大学を受けるかを考えるが、大学側も概ねどのレベルの受験生が受けてくるかがわかるため、大学の内容を様々な形でアピールする。
昨今ではコロナの影響でバーチャル・オープン・キャンパスなども盛んだ。そこでは所属教員による短時間の模擬講義も無料かつオンラインで視聴可能である。学費を負担する親にとっても、実際にどのような教員が担当しているのか内容を確認する良い機会でもある。自分の出身校のバーチャル・オープン・キャンパスを受験生の頃の気持ちに戻って体験して見るのも良い刺激になる。これがSTPのT、つまりターゲティングである。
さらに、行先を定めたら、次は推薦入試か、一般入試か、前期か後期かなど、入学手法における選択を考えるが、これは受験生としては最後のP、ポジショニングに相当する。
このようなことを考えていると、日本中の受験生が多かれ少なかれ、STPの流れに沿った形で自分の進路を決めているように見えてくるから不思議だ。本当は、意思決定は偶然の出会いや、親や友人との会話、さらには各家庭の状況など多くの要素を踏まえ各個人の熟考の上でなされるのだろうが、何となく決まった大きな流れに乗せられているようにも感じられる時がある。言い換えれば、是非は別として、思考を放棄しても一定の流れにさえ乗ればそれなりのところに運んでもらうことはある程度までは可能だということだ。これは就活も同じかもしれない。
さて、何十年もの時間を社会人として過ごしてみてわかることは、あの「輪切り」などその後の人生への影響は本当に少ないということだ。もし、影響があるとしたら、それは「輪切り」そのものではなく、「輪切り」された後、個々人が具体的かつ継続的にどう「行動」したかの方がよほど大きい。
空腹の時にそれを嘆き続けていても空腹は満たされない。食料を得るために、何等かの行動を起こすしかないことと同じである。もっとも、当面、目の前の空腹を何とかしなければならないことはそのとおりだが、人生は一回の空腹を満たせばそれで終わりではないこともしっかりと理解しておくに越したことはない。
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今日は大学院の学生達が良いフィードバックを沢山出してくれました。「思考」のレベルが最初の頃からかなり深く変化しているのがわかると嬉しいですね。
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