(296)どちらをどう信じるか【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年8月26日
「一寸先は闇」という言葉がありますが、食料問題も同じかもしれません。片方に現在と将来の「食料危機」に警告を発する多くの報道や報告があり、もう片方にはやや傾向が異なる報告などが出ています。さて、どちらをどう信じたら良いのでしょうか。
OECD(経済開発協力機構)とFAO(国連食糧農業機関)が合同で出している「OECD-FAO Agricultural Outlook 2022-2031」という報告書がある。これはインターネットを通じて無料で入手できる(注1)。食料・農業関係の長期予測は日本の農林水産省をはじめ複数の国や機関などで出しているが、米国農務省とOECD-FAOのものは、この分野に興味を持つ場合、最低限押さえておくべき基本である。
この報告書は極めて簡単に言えば、OECDが先進国、FAOが途上国をカバーし、世界の農業の将来動向を予測したものだ。10年という時間を遠い将来と見るか、近い将来と見るかは視点や立場により異なるが、民間企業などでは3~5年の中期計画が中心の日本社会では長期見通しと考えて良いであろう。
英文363頁のPDFファイルはさすがに読むのは大変だが、ありがたいことに日本語によるサマリー(注2)がある。さらにありがたいことに、最新の報告書では新型コロナウイルス感染症の影響と、ロシアによるウクライナへの侵攻の影響について、より具体的に「ウクライナにおける生産量が減少し、ウクライナとロシア両国からの輸出量が減少する」(以下、引用は日本語サマリーから)と明言されている。
ところで、こうした長期見通しを見る場合に重要な点は前提である。前提がわずかでも変わると、10年の間には結果が大きく異なるからだ。
例えば、この長期見通しにおける農産物価格の前提は、「平年並みの気象条件、マクロ経済、政策を前提とした需給要因の相互作用」である。ここでは各々の項目の詳細は述べないが、興味深く、かつ重要なポイントを1つだけ述べておきたい。
「現在の農産物価格の上昇は一時的なものと予測され」ており、「2022/23年度は高値で推移するかもしれないが、その後、実質的には長期的な下落傾向となるものと予想される。」
これはサマリーにも記述されている。現在、農産物だけでなく、食料品や輸送運賃などさまざまなものの価格が上昇しているが、これはあくまで一時的なものであり、今後、「平年並みの気象条件、マクロ経済、政策」が継続すると、2023年以降の価格は長期下落傾向になるという。例えば、英文報告書の71頁を見れば、2022年以降、農産物価格は大幅に減少し、その後はゆるやかに減少していくグラフが示されている。
一方、示されている前提を裏から読めば、気象条件が平年並みでなく、マクロ経済、政策も平常時とは異なる場合には、価格は長期下落傾向にはならない...、ということも考えられる。どちらの観点から読むか、それを考えるのは読み手である。
「食料危機が来る」とか、「食料価格が暴騰する」というのはセンセーショナルありストレートだからこそ目を惹く。一方、こうした報告書は正直「地味」である。だが、いくつもの慎重な前提を置いた上でひとつの可能性ある将来を予測した場合、どうも「現在の農産物価格の上昇は一時的なもの」と結論づけている。素直に信じれば、だ。
さて、手法に限らず将来予測は一定の前提をおかないと難しいことは十分に理解した上での雑感だが、OECD-FAOの関係者達は、今後10年間について、心の底でも平年並みの気象条件や、マクロ経済、政策が継続すると思いながらこの予測を実施したのだろうか。それとも、本心ではそんなことはあり得ず、「これはこれ、それはそれ」という感度で作業したのだろうか。報告書には記せないであろうが、実はそちらの方も非常に興味深い。
**
この報告書にはいくつもの興味深いデータが出ていますので、また機会を見てご紹介したいと思います。
(注1) https://www.agri-outlook.org/
(注2) https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/54703914-ja.pdf?expires=1661319495&id=id&accname=guest&checksum=A1B498A66663BBA07F1A2D4D406A8042
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】とうもろこしにアワノメイガが多誘殺 早めの防除を 北海道2025年7月1日
-
【人事異動】農水省(7月1日、6月30日付)2025年7月1日
-
作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
-
【JA人事】JA岡山(岡山県)新会長に三宅雅之氏(6月27日)2025年7月1日
-
【JA人事】JAセレサ川崎(神奈川県)梶稔組合長を再任(6月24日)2025年7月1日
-
【JA人事】JA伊勢(三重県) 新組合長に酒徳雅明氏(6月25日)2025年7月1日
-
米穀の「航空輸送」ANAと実証試験 遠隔地への迅速な輸送体制構築を検証 JA全農2025年7月1日
-
JA全農「国産大豆商品発見コンテスト」開催 国産大豆を見つけて新商品をゲット2025年7月1日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施2025年7月1日
-
7月の飲食料品値上げ2105品目 前年比5倍 価格改定動向調査 帝国データバンク2025年7月1日
-
買い物困難地域を支える移動販売車「EV元気カー」宮崎県内で運用開始 グリーンコープ2025年7月1日
-
コイン精米機が農業食料工学会「2025年度開発賞」を受賞 井関農機2025年7月1日
-
「大きなおむすび 僕の梅おかか」大谷翔平選手パッケージで発売 ファミリーマート2025年7月1日
-
北海道産の生乳使用「Café au Laitカフェオレ」新発売 北海道乳業2025年7月1日
-
非常事態下に官民連携でコメ販売「金芽米」市民へ特別販売 大阪府泉大津市2025年7月1日
-
農作物を鳥被害から守る畑の番人「BICROP キラキラ鳥追いカイト鷹」新発売 コメリ2025年7月1日
-
鳥取県産きくらげの魅力発信「とっとりきくらげフェア」開催 日本きのこセンター2025年7月1日
-
鳥インフル 英国チェシャ―州など14州からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2025年7月1日
-
新潟県長岡市から産地直送 フルーツトマト「これトマ」直送開始 小海工房2025年7月1日
-
埼玉県毛呂山町、JAいるま野と包括連携協定を締結 東洋ライス2025年7月1日