機械検査測定データから分かるコメの品位と影響【熊野孝文・米マーケット情報】2022年9月13日
農水省が3年産米を機械鑑定した測定結果を公表した。測定項目は「容積重」「白未熟粒」「胴割粒」「砕米」の4項目である。それぞれの項目の等級別平均値は表を見て頂きたいが、こうした測定結果を公表したのは、農産物検査規格・米穀流通に関する検討会で「国は機械測定の数値と品質の関係の目安を示す」とされたことが背景にある。こうした測定データを農水省が公表するのは初めてのケースで、データそのものも興味深いが、その持つ意味は今後のコメの生産・流通・消費に大きな影響を及ぼすことになる。
機械鑑定(穀粒判別器)による測定データがコメの生産・流通・消費に与える影響に触れる前に、今回、農水省が公表した測定データがなかなか興味深いので、容積重を中心にどのようなものであったのか紹介したい。
容積重と言うのは、単位容量当たりの穀物の重量のことで、良く知られるのはアメリカの小麦、トウモロコシ、大豆で使われるブッシェルと言う単位。日本のコメについては農産物検査規格では、容積重の規定はない。正確に言うと昔はコメにも容積重の規定はあった。その時の等級別容積重の規定は1等810g、2等790g、3等770gが最低限度と決められていた。現在でも低品位米を扱う特定米穀業界では容積重が重視されており、1.8リットル(1升)当たりの単位として匁(もんめ)取引が行われている。容積重がコメの価値を決めるため380匁を"中米"と称し、その重量で取引価格が違って来る。
今回、農水省が公表した3年産の等級別の容積重の平均値は、1等826g、2等824g、3等819gになっている。これだけ見ると昔あった容積重の規定を上回っているが、農水省は参考資料として等級別容積重の分布グラフも示しており、これを見ると同じ1等でも最高値は864gだが、最低値は775gと言うものもある。昔の容積重の最低限度である810g以下のものの割合が23%を占めている。言い換えれば農産物検査規格に容積重規定が存続していれば23%のコメは1等に格付けできなかったことになる。
こうしたことが分かっただけでも今回の測定結果公表は大変意義深いものであったが、残念ながら品種別、産地別の測定データは公表しない方針で、どこの産地のコシヒカリの容積重がどうなっているのかは分からない。
農水省は農産物検査規格・米流通に関する検討会の席で、出席委員から容積重について問われた際に「機械鑑定を前提とした規格では、機械の測定値を数値で示すことになるため、容積重は何グラムか、白未熟粒や着色粒はそれぞれ何パーセント入っているかなど規格の各項目が数値で示されることになります。そうしますとコメの特徴が精緻に分かって、消費者・実需者のニーズや流通ルートに応じたきめ細かな取引が促進されるのではないかと思います」。そこまで言い切っているのなら"目安"と称して平均値を示すだけではなく、産地、銘柄別の詳細なデータを公表すべきである。
アナログ検査(目視検査)からデジタル検査(機械検査)に移行させ、データによりコメの価値を決め、それにより国内ばかりでなく海外にも日本米の価値を広げたいと目論んでいるのは農水省自身なのだから、そうした方針を決めたのなら堂々とそうなるように政策を推進すべきなのである。
生産調整と同じく機械検査でもいつまでも"目安"を唱えていたら検査現場はたまったものではない。
実際、4年産米の検査が始まったばかりの検査現場では検査登録機関から「生産者より提出してもらう書類が増えた。種子購入伝票等。それに伴い保管書類が増えた」「自家採取の書類については、生産者が一昨年の伝票をさがしてくれるか?」「検査直前の説明であり、あまりにもバタバタすぎる」「機械鑑定については、フレコンを想定していると思われるが、紙で請求が来た場合、QRコードの貼付け等、時間がかかる」などと言った不満の声があがっている。
コメの価格が低迷する中、集荷・検査現場では収益を圧迫する事柄が目白押しで、それに加え、農産物検査法改正でさらに業務負担が増したというのが実態。
農産物検査法と言う法律がある以上、現場では法を無視して検査を行うわけにはいかない。どうしてもデジタル検査で日本米の付加価値を上げたいというのならそう思う民間に任せて農産物検査法は廃止すべきである。
農産物検査法は食管時代の遺物であり、食管以前は各産地が独自に検査規格を決めて自らの産地米をブランド化していた。現在でもブランド化したい産地は機械検査で様々なデータを測定・集積してユーザーに提示して自らの力で価値を高めれば良い。
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