4年産生産量発表で市中価格は「ワンコインアップ」【熊野孝文・米マーケット情報】2022年10月18日
農水省が14日に発表した9月25日現在の4年産水稲の予想生産量に市中がどう反応しているのか市場関係者に聞いてみると、仲介業者のなかには「ワンコインアップ」と表現するところもあった。ワンコインとは「500円」で、実感として売り物がなかなか増えない現状ではそうした感覚を持ってしまうのだろう。売り物が増えないのは主産県の収穫期の長雨による刈り遅れが最大の原因だと思っていたら、東北の生産者からそうではないという情報がもたらされた。ほんとうにコメが穫れていないというのだ。
本当にコメが穫れていないという生産者は、自社で50haほど作付けしている生産者で、籾摺りしたところ実の入っていない籾が10%ほどあったという。周辺農家の中には30%という農家もいたということで「農水省の発表より実際の収量は少ない」というのだ。農水省の公表数値と生産現場の感覚違いが言われるのは今に始まったことではないが、なぜこうしたことが起きるのか今回の予想収穫量から探ってみた。
ポイントは、9月25日現在の生産量はあくまでも予想値であって坪刈りして玄米重を測ったものではないということである。
9月25日現在で刈り取りが済んだ面積は全国平均で約半分の47%にとどまっている。特に東北地区は刈り取りが遅れており、昨年同期に比べ3日から5日遅れている。東北各県の刈り取り進捗状況は青森15%、岩手7%、宮城20%、秋田25%、山形15%、福島3%で、刈り取りが始まったばかりという状況であった。では農水省はどのようにして10アール当たりの収穫量を出したのかというと、まず、標本調査圃場で平米当たりの全籾数を計測する。その籾数をもとに「収穫時期までの気象条件が平年並みであると仮定して重回帰方式で玄米重を算出する」というもの。簡単にいうと数えた籾に平年並みに実が入るだろうという予想のもとに出した数値である。
登熟期の気象条件と収量の関係は複雑で、簡単な係数をかけて収量を出せるものではない。特に近年の気象変動が大きく、幼穂形成期の異常高温で不稔になったりすることもある。今年の場合、東北各県は登熟期の日照不足が影響して登熟不良を起こした可能性がある。籾は稔実していなかったのは、それ以前の幼穂形成期の高温が影響した可能性もある。そうした要因まで計算して収量予想を出すのはまだ研究段階で今回の発表には反映されていない。
10a当たりの収量の違いは同じ県でも大きな違いがある。これは生産者によっても品種によっても違ってくるのである意味当たり前のことだが、その幅はというと農水省が調べている標本圃場でも平均値が533㎏であったとしても下は200㎏から上は800㎏までかなりの幅がある。統計発表はあくまで平均値であり、実際の標本調査も水害で倒伏した圃場を除くということはしない。もちろん品種の違いなども反映されないので、統計発表と現場の感覚が違うというのはむしろ当たり前なのかもしれない。
こうした違いを踏まえて実際の収穫量を把握するには、収穫最盛期にある現場に直接聞くしかない。
一大産地である秋田県大潟村は、農協が毎年、収穫時期に収穫量の定点調査を行っている。村内15か所で刈り取りして収量を計測する。同じ品種、同じ生産者の圃場での調査なのでより精度が増す。その作業の真っ最中であった10月13日に担当職員に聞いてみると、主力のあきたこまちは1俵から1俵半収量が少ないという。この原因は6月上旬の低温で茎数が少なかったことに加え、出穂後の日照時間が平年の6割にとどまり、登熟が芳しくなく不稔籾もあった。また、もち米やちほみのりといった多収品種も同じ傾向で、農水省発表の作況96という数値に近い。
毎年コンスタントに10a当たり700㎏の収量を確保している青森県の大規模生産者は、今年は605㎏から610㎏であったという。日照不足に加え、収穫時期に雨が降らない時期が長かったこともあって籾が水分不足に陥り、死青が多いという。同じ青森でも津軽と南部では収量減の要因が違うが、気がかりなのは、農水省が発表した10a当たりの収量に達していない生産者の行動である。
飼料用米の例では、作況100と発表されたその地区の平年反収が10俵であったとすると、実際には8俵しか穫れていなかった場合、不足分の2俵を何とかしないと助成金を満額受け取れない。それどころかその分を主食用に横流ししたという疑惑の目で見られかねない。作況統計の数値にはこうした面もあることを理解しないと現場の実態はつかめない。
農水省は近く食料部会を開催して、今回の予想収穫量を基に需給見通しを作成するが、単純計算では来年6月末の在庫は適正在庫の200万トンを割り込み195万トンになる。
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