(305)「聞く」と「聴く」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年10月28日
自分自身が興味を持っている場合は別として、関心がない相手やトピックについての話を「きく」ことはかなり難しいものです。
久しぶりに1年生の授業を担当した。普段の授業は専門課程の科目が中心のため、あまり「読み」「書き」「話し」や「きく」ことに関する各種ノウハウを授業で伝えることは少ない。伝えるとしても、研究室の学生に対し卒業研究に備え、論文の執筆や添削、発表の方法などを通じての指導が中心となる。
基礎的な技術、いわゆる「知的技術」はカタカナで言えば「アカデミック・スキルズ」という。現代の大学では「基盤教育」、筆者達の時代では「一般教養」と呼ばれていた大学1・2年のカリキュラムの中にこの手の科目がいくつか埋め込まれている。
さて、一般の「読み」「書き」「話し」については、多くの学生達が成長するにつれて家族や友人を通じて、あるいは学校などで自然に習得してきたものが基礎にある。「聴く」技術も本来は同じはずのものだが、これが意外と難しい。
実際の授業では所属している学群(昔の学部)の学生達をいくつかのグループに分け、何人かの担当教員で分担してこうしたアカデミック・スキルズを習得させる訳だ。担当は今回から4回、前半2回が「聴く」技術と「議論する」技術、後半2回が「書く」技術について基礎的なことを伝えるだけでなく、学生達に実践してもらう。
例えば、他人の話を「聴く」ことが出来るかどうか。正確に言えば「聞く」と「聴く」の違いである。単にBGMのように「聞く」ことは簡単だが、関心を持ち、注意深く、真剣に「聴く」こと、つまり「傾聴する」ことは頭ではわかってもなかなかうまく出来ない。自分自身が興味ある内容であれば、どんなものでも自然に「聴ける」が、そうでなければ雑音にしかならない。
わかりやすい例は一方通行の講義だ。恐らく多くの学生は「聞く」だけになり、教員の説明は外の車の通過音と変わりなくなる。関心がなく寝ている学生を無理に起こしても逆効果にしかならない。そもそも興味がないなら参加しなければ良いはずだが、必修科目だとそうもいかない。
こういう時は、自分自身に体験してもらうのが一番である。ということで、学生達に何らかの話(実際にはこちらから課題を与える)を話してもらい、受ける方は徹底的に関心がない素振りを意識的にしてもらう。質問はもちろん、あいづちすら打たない。そういう状態で他人に話をすることが、いかに辛いかを自ら体験してもらう。
ひと段落したら、今度はしっかりと態度や表情で示しながら、話の腰を折らない程度の質問などを加え、相手の話に関心を持つとはどういうことなのかを意識的な行動として実践する。何人かでグループを組み、これを繰り返すと話す立場の辛さもわかるし、何をすれば相手がもっと楽しく話してくれるのかもわかる。要は「聞く」と「聴く」の違いを語彙や意味のレベルではなく、行動として体感させ、習得させていく訳だ。
実際のクラス運営においては、各教員の技量や個性、参加する学生達のその時の雰囲気などが加わるため、必ずしも想定通りにはいかないことも多いし、教員によりさまざまなバリエーションがある。準備が大変だがなかなかに楽しいクラスである。
何よりも大事な点は、自分が話しているときに相手が反応してくれないとどうして良いのかがわからなくなり、非常に不安になる...という感覚を実感することだ。そして、他人の話を「聴く」にはどう行動すれば良いか、これを意識して実践することで学生達のコミュニケーション能力が目に見えて向上することがわかるのも楽しい。
* *
夫婦間や子供との会話も似たようなものなのでしょうが...、我が家の場合には家内が止めても私が話し続けるようで、これは一種の職業病かもしれません。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日