疲れきった教育現場が生み出すもの【小松泰信・地方の眼力】2022年11月2日
「結果を急ぐな」「作物の長所を伸ばせ」「赤ちゃんをあやすように、種を育む」「迷ったら自然に聞いてみよ」とは、2022年秋の黄綬褒章受章者である岩崎政利氏(農業、長崎県雲仙市)の言葉(西日本新聞11月2日付、長崎・佐世保版)。
増える児童生徒の問題行動・不登校
「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」(文部科学省初等中等教育局児童生徒課、令和4(2022)年10月27日)で注目したのは次の3点。
(1)小・中・高等学校における暴力行為の発生件数 76,441 件(前年度 66,201 件)、対前年度比115.5%。
特に、小学校における暴力行為の発生件数が急増している。2006(平成18)年度には3,803件だったが、'13(平成25)年度10,896件、'16(平成28)年度22,841件、'18(平成30)年度36,536件、'19(令和元)43,614件、そして'21(令和3)年度48,138件。小学校が2021年度の発生件数の63.0%を占めている。
(2)小・中・高・特別支援学校におけるいじめの認知件数 615,351 件(前年度 517,163 件)、対前年度比119.0%。
(3)小・中学校における長期欠席者数 413,750 人(前年度 287,747 人)、対前年度比143.8%。
うち、不登校児童生徒数 244,940 人(前年度 196,127 人)、対前年度比124.9%。
在籍児童生徒に占める不登校児童生徒の割合 2.6%(前年度 2.0%)。
以上の3点から明らかなように、児童生徒における問題行動(暴力行為、いじめ)と不登校が増加していることが分かる。
教員の働き方改革と学びを保障する多様な方法
新聞各紙の社説は、文科省の調査結果が示す由々しき状況について、つぎのような見解を示している。
朝日新聞(10月28日付)は、「大人が子どもとしっかり向き合い、適切なケアを行うことが大切だ」としたうえで、「不登校の小中学生のうち36%、8万9千人は、学校や地元の教育支援センター、フリースクールといった組織のどこからも支援を受けていない」ことや、「小学校での暴力行為の増加も気がかり」とする。
学校の対応が基本として、疲弊する教員の実態を踏まえ、教員の働き方改革を加速させることを、国や教育委員会に要求する。
さらに、「子どもたちの支援は待ったなしだ」として、学校に対して「不登校の子にオンラインで勉強を教えるNPOや、地域住民が営む子ども食堂など」の、いわゆる「第三の居場所」との積極的な連携を提起している。
毎日新聞(10月29日付)は、不登校に対する「学校の理解が不十分で、支援体制が整っていない可能性がある」ことを指摘するとともに、「対策が登校の強要になるようなことがあってはならない。多様な方法で学びを保障する仕組みづくりを進める必要がある」として、「一人一人の事情に応じた学びを提供する不登校特例校や、学齢期を過ぎた人らを受け入れる夜間中学など」を選択肢として整備することを求めている。
冷静な分析に基づいた適切な対策
「旭川市内で昨年凍死した女子中学生についていじめの認知や対応が遅れ、命を救えなかったことを重い教訓とするべきだ」とする北海道新聞(10月31日付)は、「子どもの声に耳を澄まし、わずかな兆候にも迅速に対応できるよう目配りが必要だ。さらに個々の状況に応じて救いの手を差し伸べなければならない」として、「学校や教員、教育委員会は本人の苦痛の有無を重んじるいじめの定義や対処法を深く理解し、適切に対応するよう努めてほしい」と訴える。
沖縄タイムス(10月29日付)は、「2021年度の県内小中学校の不登校児童生徒数が4,435人となり、過去最多を更新した。10年前と比べて2倍以上になっている。県教育庁によると、千人当たりの不登校の小中学生は全国平均より3.7ポイント高い29.4人で、小学校に限ると全国一多い18.8人だった」と、沖縄県内の厳しい状況の紹介から始まる。
「県内ではコロナ禍以前から、不登校の児童生徒数は全国と比べても多かった。要因は複合的で、全国最下位水準の県民所得や子どもの貧困率の高さなども複雑に絡み合っている。親が困窮して子どもと十分に関わる余裕がなく、生活の乱れを見逃しているうちに不登校になるケースもある。元々弱かった不登校対応が問題を顕在化させたのではないか」として、的確な分析に基づいた対策を求めている。
その上で、「政府は不登校の子どもの事情に合った特別カリキュラムを組める『不登校特例校』の全国設置を目指している。(中略)(教育機会)確保法では特例校の設置は国や各自治体の努力義務で、現在は10都道府県の計21校にとどまっている。県内でも支援の多様な選択肢の一つとして設置を検討すべきだ」と、具体的な提案をする。
さらに、「学校現場が子どものSOSを受け止め切れていないとの重い指摘もある。県内の公立小中高校と特別支援学校の教員は9月時点で94人も不足。学級担任の未配置も小中で52人に上る。現場は長時間労働が常態化している。教員はコロナ対策やオンライン授業の準備に追われ、病休者の増加などから配置が追い付かないという。教員が疲弊している状況では、学校が子どもたちにとって安心できる居場所にはならない。教員の働き方改革も急務だ」と、切迫する教育現場の状況から警鐘を鳴らす。
問題行動・不登校が暗示するこの国のあした
東京新聞(11月1日付)は、いじめなどの相談を受けるNPO法人「プロテクトチルドレン」(代表森田志歩氏、埼玉県川口市)による「小中高校と特別支援学校の教員約1500人を対象にした労働環境に関するアンケート」(6月から7月に、10自治体の教育委員会と各地の30校に依頼して実施。有効回答1,522件)から、注目すべき結果を紹介している。
1カ月当たりの残業時間は、8割弱が「40時間以上」。16.8%は過労死ラインとされる「80時間以上」。まさに、常態化する長時間労働。
負担・ストレスを感じる業務については(25の選択肢から複数回答)、一番多いのが「事務(調査回答、報告、記録等)」の54.5%、これに、「保護者・PTA対応」の47.2%、「不登校・いじめ等の対応」の40.7%が続いている。
自由記述として、「休憩時間は全くない」「教員の仕事を続けてよいのか迷う」「保護者に無理難題な要求をされる」「法律・精神的なサポートも必要なので専門家にやってほしい」などが紹介されている。
逃げ出したくなるような教育現場の疲れきった教師が、児童生徒にゆとりをもって真正面から向き合えるわけがない。
教師と児童生徒の置かれたこの暗い状況は、そう遠くないこの国の姿を暗示している。
「地方の眼力」なめんなよ
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