玄米奉納の新嘗祭とオーガニックシンポジウム【熊野孝文・米マーケット情報】2022年11月29日
11月23日に東京ミッドタウン日比谷で「とことんオーガニックシンポジウム」が開催された。有機農業、これまでの50年、これからの50年を語りつくそうをテーマに「藤本敏夫没後20年記念シンポジウム」と銘打たれ、同氏が死去する2か月前に農水大臣に提出した「建白書」が参加者全員に配布された。同じ日に千代田区の東京大神宮での新嘗祭にメディカルライス協会が認定した玄米の生産者16名が参列した奉納の儀が行われ、農水省の農村振興局長も参列した。
「とことんオーガニックシンポジウム」は歌手の加藤登紀子氏や、人新世の「資本論」の著者斎藤幸平氏が講演することもあってか広い会場は開始から満席状態。
冒頭、主催者を代表して一般社団法人フードトラストプロジェクトの徳江倫明代表が1971年に有機農業という言葉ができ、日本有機農業研究会が発足して50年経つ。次の50年を考える良い機会で、今年、農水省がみどりの食料戦略を作り国が推進すると宣言した。そうしたメッセージを伝えられるようなシンポジウムにしたいと挨拶した。つづいて加藤登紀子氏が20年前に夫である藤本敏夫氏が当時の武部勤農水大臣に建白書を提出、パネリストとして参加した子息である武部新農林部会長を紹介した後、「日本がきちんとした農業に取り組むことが世界にとっても大切だ」と述べた。
「危機だからこそ創造が可能」~農林水産省の20世紀の反省と21世紀の希望~と題された建白書は、今読んでも新鮮で時代を先取りしたような内容が詰め込まれている。一部を記すと「"健康と環境"を保全する"持続と環境"の仕組みを持った農業と地域社会を創り上げ、"公開と公平"に基づく国民合意の中で、日本及び日本人の"自給と自立"を達成すること」、「プロ農家の『エコファーマー』としての再編成と、国民・市民の『ウエルネスファーマー』としての登場を通して、21世紀型地域社会『持続循環型田園都市』と21世紀型生活スタイル『里山往還型半農生活』を創造すること」―としている。
藤本敏夫氏は大地を守る会の創始者でもある。その大地を守る会が創成期のころコメをどう扱うのか湯島で有機米生産者と夜を徹して議論したことがあった。まだ食管法がありコメを自由に販売できる時代ではなかったが、生産者と消費者が「提携」するという方法を編み出した。現在は有機米を消費者に届けるために生産者と提携しなければ届けられないことはないが、提携という理念までも霧散してしまったように見える。建白書では「具体的な現場の状況を整理し、生産者と消費者に直接働きかけ、強くて太い骨組みを作り上げる必要があります」と結ばれている。
同じ日に開催された東京大神宮での篤農家による玄米奉納式では、メディカルライス協会の審査を通過した玄米を生産した生産者16名が全国から参列した。玄米の奉納式が東京大神宮で行われるのは初めてだが、きっかけは東京大神宮の松山宮司がメディカルライスを知り、メディカルライス協会の渡邊理事長から玄米の効能を聞き「お米と神社はまさに日本の文化!日本の食は世界的に人気だし、世界の食の危機が懸念される時代にあってお米の機能性をより理解し、若い人達にもこれを作られる農家さんに感謝し新嘗祭の趣旨を伝えていくのが神社の役割」との申し出を受けて開催される運びになった。奉納式では、一陽来復・疫災退散と記された襷をかけ、一人ずつ榊を供え、二礼二拍手にて拝礼した。
儀礼後に松山宮司から「五穀のなかでも最も尊いコメを奉納していただき心より敬意を表します」とし、奉納証が生産者一人一人に手渡された。続いて農水省の青山農村振興局長が、コメは美味しいだけでは付加価値が出てこない。コメの価値をエビデンスにより知られることが付加価値の向上につながるとし、メディカルライス協会の取り組みを評価、応援したいと述べた。続いて渡邊理事長が、同協会の低たんぱく加工玄米が国からJAS規格が付与されたことで、エビデンスをよりしっかりするため東京農業大学に研究所を設けることが本決まりしたことから医学的なデータを蓄積して「今までの健康食品とは一線を画す」とし、メディカルライスを普及させたいと意欲を示した。参列者の中には大阪万博のフードコーディネーターや有機栽培の研究者もいて、この取り組みが広がりを見せている。また、メディカルライスの研究協力社には大手卸や精米機メーカー、大手米菓メーカーも名を連ねている。
新嘗祭の日に開催された玄米奉納式とオーガニックシンポジウムが有機米の新たな広がりを見せるきっかけになることが期待されている。
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