【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】食料危機に立ち向かう作物科学~evidenceとfeasibility2023年3月30日
3月29日、日本作物学会の96周年記念シンポジウム「食料危機に立ち向かう作物科学」(於: 東京農工大学)で講演させていただきました。キーワードはevidence、feasibility、それから、「農業滅んで農学滅ぶ」の回避。要旨は次の通り。
食料危機に立ち向かう作物科学
日本の食料自給率は種や肥料の自給率の低さも考慮すると38%どころか10%あるかないか、海外からの物流が停止したら世界で最も餓死者が出るとの試算もある。国内生産を強化しないとならぬが、逆に国内農業は生産コスト倍増でも農産物の価格が上がらず、廃業が激増しかねない。
「防衛費5年で43兆円」の一方で「農業消滅」を進めたら、「兵糧攻め」で日本人の餓死は現実味。コオロギでなく農業にこそ数兆円の予算の早急な投入が求められる。
輸入途絶リスクの高まりと世界的な消費者の減化学肥料・減化学農薬を求める潮流からも有機・自然栽培の方向性を視野に入れた国内資源循環的な作物生産の展開が急務になっている。
優れた既存技術の普及が新技術開発以上に急務だが、なぜ優れているのかが実証されていないためマニュアル化と横展開が停滞しているのではないか。ゲノム編集など大きな研究費につながる課題に偏重せず、優れた現場農家の栽培技術の科学的根拠(evidence)の解明こそが、研究費が出なくても国民の命を守る安全保障のために今こそ求められている。
また、遺伝子操作のような優れた技術も消費者が拒否したら成立しないことを含め、費用に見合う利益につながるか(B/C)といった経済学などと連携したfeasibility 研究の強化も必要である。
「農業滅んで農学滅ぶ」の回避
今から100年以上前に「農学栄えて農業滅ぶ」と警鐘を鳴らしたのは「農学の祖」と呼ばれる横井時敬先生(1860~1927年)であったが、よく考えてみるとこの言葉はおかしい。なぜなら、農業が滅んだら農学も滅ぶからである。農業が滅んで農学だけが栄えることはできない。つまり、横井先生の警句の先には「農業滅んで農学滅ぶ」(鈴木宣弘作)が待っていることこそを我々は肝に銘じなくてはならない。
農学が細分化され、解析的になり、農業の現場から遊離してしまったと言われて久しい。細分化された基礎研究が現場の問題解決に役に立たないとは思わないが、「稲のことは稲に聞け、農業のことは農民に聞け」という横井時敬先生の言葉は重く、まさに、「農学研究は一貫して農民のための実学でなくてはならない」。
大学の農学部は、農林水産業とその関連産業、それに関連する人々、それから次世代を担う学生のおかげで成り立っている。組織が拠って立つ人々の役に立たたずに組織だけが繁栄することはありえない。
若手研究者への期待
同シンポジウムのパネルディスカッションでは、作物学で、現場農家の視点に立ち、農家主体のOn Farm Experimentsで農家の課題解決に貢献し、研究としても高いレベルを実現している若手研究者が話してくれました。
昨日も、〆の言葉で話しましたが、このような次世代を担う皆さんの活躍が「希望の光」であると同時に、若い人たちは、社会の仕組みなどに疑問を持っても、あまり言い過ぎると潰されることもあるので、ぐっと我慢して力を蓄え、実績を積み重ね、地位を確立してから、満を持して、世の中をリードするという「時機」を待つことも重要だということも忘れないで下さい。
重要な記事
最新の記事
-
米粉で地域振興 「ご当地米粉めん倶楽部」来年2月設立2025年12月15日 -
25年産米の収穫量746万8000t 前年より67万6000t増 農水省2025年12月15日 -
【年末年始の生乳廃棄回避】20日から農水省緊急支援 Jミルク業界挙げ臨戦態勢2025年12月15日 -
高温時代の米つくり 『現代農業』が32年ぶりに巻頭イネつくり特集 基本から再生二期作、多年草化まで2025年12月15日 -
「食品関連企業の海外展開に関するセミナー」開催 近畿地方発の取組を紹介 農水省2025年12月15日 -
食品関連企業の海外展開に関するセミナー 1月に名古屋市で開催 農水省2025年12月15日 -
【サステナ防除のすすめ】スマート農業の活用法(中)ドローン"功罪"見極め2025年12月15日 -
「虹コン」がクリスマスライブ配信 電話出演や年賀状など特典盛りだくさん JAタウン2025年12月15日 -
「ぬまづ茶 年末年始セール」JAふじ伊豆」で開催中 JAタウン2025年12月15日 -
「JA全農チビリンピック2025」横浜市で開催 アンガールズも登場2025年12月15日 -
【地域を診る】地域の農業・農村は誰が担っているのか 25年農林業センサスの読み方 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年12月15日 -
山梨県の民俗芸能「一之瀬高橋の春駒」東京で1回限りの特別公演 農協観光2025年12月15日 -
迫り来るインド起点の世界食糧危機【森島 賢・正義派の農政論】2025年12月15日 -
「NARO生育・収量予測ツール」イチゴ対応品種を10品種に拡大 農研機構2025年12月15日 -
プロ農家向け一輪管理機「KSX3シリーズ」を新発売 操作性と安全性を向上した新モデル3機種を展開 井関農機2025年12月15日 -
飛翔昆虫、歩行昆虫の異物混入リスクを包括管理 新ブランド「AiPics」始動 日本農薬2025年12月15日 -
中型コンバインに直進アシスト仕様の新型機 井関農機2025年12月15日 -
大型コンバイン「HJシリーズ」の新型機 軽労化と使いやすさ、生産性を向上 井関農機2025年12月15日 -
女性活躍推進企業として「えるぼし認定 2段階目/2つ星」を取得 マルトモ2025年12月15日 -
農家がAIを「右腕」にするワークショップ 愛知県西尾市で開催 SHIFT AI2025年12月15日


































