【JCA週報】協同組合理念の明確化と貫徹のために(4/全6回)(一楽輝雄)(1978)2023年4月10日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の前身の一つである協同組合経営研究所が発行した「協同組合経営研究月報」No.292(1978年1月)に掲載された、一楽輝雄理事長(当時)の「協同組合理念の明確化と貫徹のために」です。
ボリュームの関係から6回に分けて掲載いたします。途中で他の掲載を挟んだ場合はご容赦ください。
協同組合理念の明確化と貫徹のために
「協同組合理論と現代の課題」研究会のオリエンテーションから-(4/全6回)
一楽輝雄 協同組合経営研究所理事長
1.協同組合とは何ぞや
(1)その目的と理想(1)
(2)競争原理対協同原理(2)
(3)相互扶助と自主独立(3)
2.協同組合原則について
(1)加入脱退の自由(3)
(2)民主的運営(4)
(3)出資金の性格(5)
(4)剰余金処分の合理化(5)
(5)事業活動に優先する教育(学習)活動(6)
(6)系統組織対連合組織(6)
2.協同組合原則について(つづき)
(2)民主的運営
民主的運営については、どんなに努力してもそれが完全に達成するということはないのかもしれない。民主的運営がどの程度まで行なわれているかということは、組合員が協同組合員であるという意識による行動をどの程度するかどうか、他人行儀な態度をとるかどうかということで判断せねばならない。役職員の組合員に対する言葉づかいが丁寧であるとか、物腰がやわらかであるとかないというようなことは、基準にならない。何かにつけていちいち組合員に意見を聞くという外形的な行動だけで民主的運営であるとは言えない。
協同組合の運営が民主化するというのは、組合と組合員の間に一体感が一杯になることである。組合員にとって、組合は自分の一部である、その良いことも悪いことも、自分の喜びや悲しみと感じられるようになることである。
こうした関係が組合と組合員との間に成立するためには、協同組合員の学習活動が強化されて、各自が現在の世の中がこのままでは困る、これではいかんと、強い被害者意識を持ち、その状態からの脱却を志して、協同組合中心の活動をして何がしかの成果を挙げたという体験を積まねばならない。
組合員に先ず強い被害者意識を持ってもらって、被害からの脱出を志してもらわなければ、組合員のためになる活動にどんなに努力をしても、組合への依頼心は生まれても、組合を自らのものであるとする考え方は育ち難い。組合員にとって、何が現在重要な問題であるのかを自覚させるための学習活動が、協同組合の民主的運営を実現するための出発点である。
協同組合の民主的運営についてのいま一つの要件であって、わが国においてはほとんど関心が持たれていないのは、民主的運営の仕組みとしての権限の分化の問題である。
どんな組織においても、権限が集中することは専制であって民主的とは言えない。政治においては、立法、司法、行政等がそれぞれ分立しており、更に教育や科学も行政に従属してはならないとされている。民主主義すなわち権限の分化ということは、わが国の民衆には甚だしく気づかれていないことであるが、このことについての国民的関心が強化されなくては、民主主義の実態は形成されるはずがない。
協同組合においては、法律上は組合長や連合会長と対等の権威を持つ監事が、人事の実際において平理事以下の存在に扱われている。この不合理は是正しなければならないことの第一である。
次に外国のゼネラルマネイジャーに相当する者として、参事の制度が農協や漁協に設けられているに拘らず、理事の一部が常勤して、参事が法律上の参事としての権限を行使する余地をなくしていることに着目しなければならない。生協には参事の制度すら設けられていない。
理事は理事会を構成して業務運営の政策を決定する責任と権限を持ち、理事会によって決定された政策を忠実に励行するのが、参事の責任と権限である。これが組織における民主的運営の世界的共通の方式である。名実共に参事制度を協同組合の運営に採用することは、わが国の協同組合運動の民主化のために何よりも必要なことではなかろうか。速時実現が困難とすれば、可及的速やかに実現する準備態勢を整えるべきである。
教育活動を事業活動に従属させないための仕組みを確立することも、これを工夫し実施することが望まれる。
協同組合の各種の事業は、民主的組織の民主的運営による活動の形態として、その性格づけをする必要がある。協同組合における経済行為すなわち事業と言われている活動は、組合員の経済行為の集団化の形態として認識しなければならない。
まず最初に組合員においての経済行為の意欲があって、それが遂行される段階において協同組合の事業という形態を現わすのである。このことは、わが国だけではなく、国際的にももっと明確に観念づけることが必要である。まず協同組合の事業があって、その得意先として組合員があるとか、大切な得意先だから、その意見を反映した活動ぶりでなければならないというのであってはならない。
また、その得意先は得意先ではなく、組合の主人公であるから、その意志に依拠した事業のやり方でなければならない、と言っても、それはやはり組合員と相対した行為になる。組合の事業というものは本質的にはないのであって、組合員の経済行為が共同で行なわれる姿が組合の事業と言われるものであるということを明確に観念することによって、いろいろの実務的なことも変わってくる。
購買事業を例にとると、店舗で組合は売るという言葉を使い、組合員は買うという言葉を使っているが、これは誤った言葉づかいであって、組合は組合員に対して売るのではなく、組合員が共同で買った物を銘々に分けるだけである。その本質からは、店舗は必ずしも必要ではなく、むしろ共同購入のための荷受所あるいは品物を分配する場所が必要なのであろう。
本質的には、協同組合の購買活動は共同購入に他ならないに拘らず、世界的に今日まで、店舗を持つことが当然であり、欠くことのできないことのように、ほとんどの組合で思われてきたのは何故であろうか。思うに、協同組合に於ける購買事業の意義が、主として価格面に於いて期待される限りは、店舗を持たないことによる不便さに堪えられないからであろう。しかし今日以後の購買事業の意義は、価格面よりも品質面により重要性があるとするならば、共同購入方式の長所が再認識されるべきであろう。
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