分断と対立が深まる中、どうなるのかIPEF【近藤康男・TPPから見える風景】2023年6月15日
昨年2月に公表された“繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(以下IPEF)”は、インド太平洋の米軍の再編配備と対中牽制に関する部分が最も具体的に記載され、経済に関する内容は具体性を欠いたものだった、と2022年10月13日付の本コラムでも指摘した。
その後の米軍の展開については、23年2月2日の米比国防相会合で米軍のフイリピンでの拠点を5ヶ所から9か所に増強、23年5月22日には太平洋の島嶼国パプアニューギニアとの間で防衛協定を締結、更に日経取材において米沿岸警備隊司令官がアジア地域への巡視船の追加配備をすると答えるなど、具体的に動きが見られる。また対中国では先端技術(半導体など)や軍用転換の可能な製造品についての輸出管理強化などが進められている。
IPEFを巡る主な経過を概観する
米国による22年2月のIPEF公表に続き、22年5月の13ヶ国首脳会合で①貿易、②供給網、③クリーンな経済、④公正な経済、の4分野が共同声明に盛り込まれた。13ヶ国にはいわゆる"グローバル・サウス"も含まれ、軍事問題・対中問題を含める訳に行かないのは当然だろう。ここにもIPEFの曖昧さやご都合主義が窺える。
そして22年9月の初の対面での閣僚会合により4つの柱のそれぞれの交渉目標が設定され、更に22年12月に米国から交渉テキストが提示された。これを受けて、交渉官会合、主席交渉官会合、閣僚会合などが続くこととなった。
23年4月には、USTRタイ代表が東京で記者会見をし、「野心的な交渉スケジュールを進め、5月のAPEC貿易相会合までに一定の成果をまとめることを目指す」「合意を目指す」と語った。
これを受けて、5月27、28日の閣僚会合で、2つ目の柱・供給網について先行合意に達し、レモンド米商務長官は「早ければ11月のAPEC首脳会合までに全体の交渉妥結を目指す」とした(23.05.29付日経)。
分断と対立の進む国際社会の中でのIPEF参加国を概観する(下線はすべてのFTA参加の国を示す)。
①下記の表からは、TPP11に参加する7ヶ国がIPEFにおいても中核となっていることが見えてくる。そして、IPEFの経済規模はRCEP・TPPを上回るものとなっている。
②しかし、同時に、このところ日米欧と中露の対立が進む中で、国際政治・経済において存在感を増している"グローバル・サウス"と言われる国々が、対露制裁についても日米欧に距離をおいており、本来対中牽制を意図する米国主導のIPEFがどのくらい求心力を持つか問われることになりそうだ。
③日米以外のIPEF参加国は、対露経済制裁にはもちろん加わっておらず、ロシアのウクライナ侵略非難の国連決議(22年3月)にも多くは賛成しているものの、中国と共にインド・ベトナム・ラオスが棄権している。
(RCEP、TPPを上回る規模のIPEF:22年9月8日付日経から)※下線は全てのFTAとIPEFに参加している7ヶ国
IPEF参加国は、対米以上に貿易面での対中依存が目立ち、一方中国はRCEPにおいて大きな存在感を示し、TPP加盟についても米国以上の存在感を示している。
貿易依存度は、最も高い豪州:35%、NZ:25%、韓国:24%、IPEF参加国の半分を占めASEANからの参加5ヶ国(ベトナム、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、シンガポ-ル)の依存度も1~2割ある。韓国に続くベトナム、日本、インドネシア、日本なども2割強となっている。
IPEFは多分、曖昧さを残した緩やかな合意に向かうのではないか?
米国はメリットを強調するが、参加国の中には、環境、人権、データ流通に消極的な国、具体的・経済的効果が見えないことに対する不満を持つ国もあり、米中の狭間での距離感と自国の利害を測りながらの交渉が続くと思われる。
先行合意した供給網が協定となった段階でどの程度具体的な内容になるかは予想し難いが、22年9月の交渉目標テキストや23年5月27日の分野別プレスリリースも、連携・協力・共同・多様・包摂などの言葉が繰り返されており、求心力に欠ける"お付き合い"になるのではないだろうか?
そして中国・商務部は早くも6月1日にIPEF・供給網合意を中国との対抗・分断と批判している。
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