(339)「自由刑」と「自由の刑」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年7月7日
犯罪には刑罰が科されます。
法を犯した場合、刑罰を受けることになるが、具体的な内容や基準をひとつひとつ考えていくと意外に複雑である。
例えば、日本には刑罰の種類がいくつあるかという問いに即答できる人は意外と少ないかもしれない。現在の刑法第9条は、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」という短い条文である。
ここで主刑とは、そのもの単体で科すことができる刑罰のことだ。そして付加刑とは、主刑に付加して科すことができる刑罰である。第10条1項は、「主刑の軽重は、前条に規定する順序による。」とあり、これが重い順番となる。少し勘の良い方なら「無期の禁錮と有期の懲役ではどちらが重いのか?」という疑問が生じるかもしれない。
第10条1項後半には、「ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の2倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。」と定められている。なかなかにわかりにくい条文である。
さらに、一見、とまどう条文もある。第12条「懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。」と、第13条「禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、1月以上20年以下とする。」などだ。懲役と禁錮という文字以外は同じである。違いは、いずれも次の第2項に記されている。
第12条2項は、「懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。」であり、第13条2項は、「禁錮は、刑事施設に拘置する。」である。刑事施設とはいわゆる刑務所などであり、「所定の作業」とは刑務作業のことだ。つまり、懲役刑の場合、刑事施設に収容されるだけでなく刑務作業を科されるのに対し、禁錮刑の場合には、刑務作業は義務ではないということになる。言葉は難しい。
さて、少し角度を変えて刑罰全体を見ると、死刑のような生命を奪う刑罰と、罪を犯した人間の身柄を拘束する刑罰、さらに罪を犯した人間から財産を奪う刑罰、という形に分けることが出来る。これらは「生命刑」、「自由刑」、「財産刑」と分類されている。
死刑が「生命刑」、罰金や没収が「財産刑」、これはすぐにわかる。意外と難しいのは「自由刑」である。言葉を見ただけでは意味がわかりにくい。「自由刑」とは自由を剥奪する刑罰のことであり、「懲役」「禁錮」に「拘留」が加わる。ちなみに「勾留」ではない。いずれも「こうりゅう」で、音が同じためまぎらわしいが、「拘留」は刑罰、「勾留」は証拠隠滅や逃亡防止などのため、被疑者や被告人を留置場などに拘禁することだ。
ところで、20世紀を代表する哲学者サルトルの有名な言葉に、「人間は自由の刑に処せられている。世の中に放り出されれば、自分が行うこと全てに責任がある」というものがある。英語だと、「Man is condemned to be free; because once thrown into the world, he is responsible for everything he does.」となるようだ。
この最初の部分、無料の自動翻訳なら「人間は自由であると非難されている」となる。これを「自由の刑に処せられている」と訳した人はなかなかのものだ。一見、「自由」とは束縛が無い良い状態のように思えるが、実は全ての行動に責任が伴うという意味で、「自由」とはなかなかに重いという点を見事に言い表している。
さて、明治40(1907)年に制定されたわが国の刑法は、昨年の一部改正により、冒頭で述べた「懲役」と「禁錮」を廃止し、「拘禁刑」という形に一元化することが既に決定している。実際の施行は公布から3年以内とのことなので、遅くても2025年ということになろうか。この背景には、受刑者の社会復帰に向けて一層の改善厚生を図るという意図だけでなく、現実的には受刑者のほぼ全てが禁錮刑ではなく懲役刑のため、これらを区別する実益がないということもあるようだ。
* *
刑罰における「自由刑」とサルトルの「自由の刑」、似たような言葉を使用していても随分と意味合いは異なるものですね。
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