【JCA週報】合理性の本質と市場の価値(佐藤渉)2023年7月18日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の最新号である2023年夏号のオピニオン「合理性の本質と市場の価値」です。
合理性の本質と市場の価値
佐藤渉 日本協同組合連携機構 業務執行理事、連携業務担当常務補佐
佐藤 渉
日本協同組合連携機構
業務執行理事、連携業務担当常務補佐
2022 年4月にJA共済連から出向し、6月の理事会で業務執行理事に選任されました。今年4月からは主に全国組織の連携業務を所管する協同組合連携2部長を兼務しています。どうぞよろしくお願いします。
ICA(国際協同組合同盟)は、2021 年12月のソウル大会で「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」に関する世界的な協議を提起しました。協同組合が持つべき価値観や行動指針などを定義、価値とともに7つの原則で示したこの声明は1995年に採択されたもので、その後の気候変動や経済・社会の急速な環境変化を受けて、改めてアイデンティティを学び、検証して必要があれば改定する、というのがその主旨です。
投資家が所有する企業ではESG(環境・社会・ガバナンス)が経営の中心的な関心事項となる一方、協同組合のなかには、企業の経営手法を取り入れたり株式会社化に至ったりする例が見られます。双方の境が曖昧になりつつあるという点においても、この提起は重要な意味を持っています。
協同組合のアイデンティティを考える切り口は、地域の課題やありたい姿などさまざまありますが、ここでは、2015年にトルコで開催されたICA世界会議での2つの講演からそのヒントを探りたいと思います。
1つ目は、ハーバード大学法科大学院ベンクラー教授の「合理性の本質」です。1980年代以降、景気後退局面に転じた英米の政治家は、経済が上手く動けば社会は良くなる、株主を守れば企業が世界を動かしてくれる、といった考えに合理性を求めて経済の立て直しを図りました。しかし、富の集中と貧富の格差拡大を招いたこの考えは誤りで、「Commons(コモンズ)」や「共有財」といった概念こそ拠り所とすべきだったと指摘します。
利己的な経済から多様な動機を認める社会へ、多くの独立した競争から社会性が散りばめられた協同へ、仕組まれた強固な相対関係から積極的な倫理が関与する緩やかな相対関係へ、物質的支配から動機的支配へ...。持続可能な経済・社会に必要な「合理性の本質」には、経済的動機に加えて社会的動機が不可欠だということです。
2つ目は、テキサス大学パテル教授の「民主制を通した市場の矯正」です。米国のハンバーガーが1ドルで買えることと大航海時代の船長が奴隷を海に捨てたことの共通点は何か。それは、どちらも安いモノ(材料、労働力、自然、生命など)で儲けようとしていることだと指摘します。奴隷を海に捨てるのは、保険金を得るためでした。
安いモノを買うことでマイナスの価値も買うことに繋がっていたら...。「モノの価値が分からなければ市場を失う」との話は、NGO の不買運動や当局による輸入差し止めといった現実の出来事になりました。生産者や流通・販売業者だけではなく、消費者も一緒になって環境や社会への負荷軽減を意識した行動が求められる時代になっています。
地域の住民や自然を基盤とし、社会的動機を内包し、所有ではなく共有を是としている協同組合は、人びとのニーズや願いに応え、格差と向き合い、誰ひとり取り残さない世界の実現に相応しい事業モデルの一つです。これらの講演に示唆を得ながら、どこに合理性の本質を求め、事業を通してどんな市場の価値を作りあげていきたいのかについて考えてみてはいかがでしょうか。
「にじ」は本オピニオンを含めたすべての論考を当機構のウェブにて掲載しておりますので、ご覧ください。
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