コメの市場があるメリットとは?(4)【熊野孝文・米マーケット情報】2023年8月1日
コメの市場で現物取引以外の先渡し取引のメリットとして先行きの価格がわかることが第一にあげられる。先行きの価格がわかるという意味では閉鎖された先物市場があるが、先渡し市場(延べ取引市場)と先物市場は根本的に取引の仕組みが違い、当業者の中にも混同している人が少なくないので、まず、先渡し取引でどのようなことが出来るのか解説したい。
農水省は近く「米の将来価格に関する実務者勉強会」を開催するそうである。委員には生産者から全農、全集、卸、大手実需まで11名が名を連ねている。主催は大臣官房 新事業・食品産業部で農産局も加わる。コメ先物市場本上場を非認可にしておいて、いまさらコメの将来価格でもないだろうと言いたいところだが、やっぱり先行きのコメの価格がわかる市場がないと困るねーといったところなのだろう。この実務者委員会でどのような意見が出るのか関心がもたれるが、大規模稲作生産者の中にはコメ先物市場復活を望む声も聞かれる。少なくとも先物市場でなくても「先渡し市場」だけでもしっかりとした商品設計と売買システムを作ればコメ業界に大きなメリットをもたらす。仲間業者の席上取引会での先渡し取引の例やクリスタルライスの先渡し取引の例を示したが、売買システムと参加者の与信担保さえしっかりしていれば、大きな市場を作ることによって将来のコメの価格形成や物流問題も解決でき、かつ市場流動性が増すことによってコメを産業化できる基盤も作れる。
例えば「現物プラス先渡し取引」が出来る市場をネット上につくる。なぜネット上かというと、その取引手法を示すとわかりやすい。この市場にアクセスするとまず「日本地図」がアップされる。この市場に参加できる卸や実需者等の買い手は自らが必要とする産地銘柄を地図上でクリックすると産地銘柄、等級、ロット、受け渡し条件、価格などが表示され、価格や受け渡し条件を設定、売人が了承すれば成約するというシンプルな取引。こうしたシンプルな取引が可能になるためには売人、買い人の与信をしっかりと担保するのはもちろん売買約定の相互理解と履行が必須になる。
コメの場合、産地銘柄や等級品位、年産により価格差が著しい。さらには有機米など栽培方法によっても価格差が生じるため、仲介市場では市場運営の担当者が売り手、買い手を相対で文字通り仲介しながら成約に結び付けているというのが実態。そうではなくITのシステム上で日本地図をクリックするだけでコメの取引が出来る市場を作ればコメの取引に革命をもたらす。すでに原油では様々な石油製品を地図上で売買できるシステムがあり、そのシステムを提供している企業では売り買いの件数がいくら多くても基本的なシステムは同じであり、コメの取引も難しくないという。
ITシステムを使ったコメの現物プラス先渡し市場が出来たとしても、この市場で取引が活発化するためにはなによりもコメを自由に取引できるようにしなければならない。その意味で現在の「用途限定米穀制度」は法によってコメの用途を限定しているため早急に撤廃すべきである。また、国が力を入れている輸出用米についても先渡し市場で来年8月までの受け渡しを可能にして、そこで成約したものを輸出用米として認定すれば売り手の産地側、買い手の卸、輸出業者にとって取引の柔軟性が増し、輸出に伴うリスクも軽減される。市場が活性化するためには規制の撤廃ばかりではなく、様々な制度により恩典を受け、見えない価格でビジネスを展開できる余地を出来るだけ少なくする必要がある。でなければ市場における平等性が担保できず、参加するメリットを享受できない。
農水省がコメの将来価格について勉強会を開催するつもりなら、まず、自ら制度や助成金がコメの価格にどう影響しているのか資料としてオープンにして欲しい。そうでないといくら委員が建設的な意見を述べても文字通り絵に描いたモチになるだろう。
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