TPP、"経済効果分析"は検証されないままでいいのか?【近藤康男・TPPから見える風景】2023年8月3日
2023年7月16日の第7回TPP委員会(委員会の呼称は未だに“TPP”)において、英国のCPTPP(TPP11)加盟が決定された。これで、米国が抜けてCPTPPとして合意・発効した11ヶ国のTPPもやっと12ヶ国体制となった。その直前の23年5月には、ブルネイが国内手続きを終え、原加盟国11ヶ国の全ての国が国内手続きを終了した。
(日本の参加する主な経済連携協定・経済効果分析:既発効のEPA関税引き下げ効果を織り込み、非関税措置は基本的に反映せず)
思い入れの籠った、異例とも言える閣僚によるTPP委員会の共同声明

今回の委員会の開催地ニュージ-ランドは、TPP・CPTPPの交渉過程でも先住民マオリ族の共同体に対して丁寧な説明をすると共に、合意された協定内容にもマオリ族の伝統的権利を多くの例外規定として盛り込んできた。
このような開催国の姿勢への敬意からか、閣僚共同声明は、段落を区切るように5ヶ所にマオリ族の言葉による象徴的文章が散りばめられている。"マタリキが地平線に昇る時、これからの一年に向けて、私たちの願いも昇って行く"、"人々を集めるマタリキ"、"マタリキの偉大な塚に食べ物が集められ、共有される"、"その星の役割は、明るく輝き、前進するモチベーションを与えることである"、そして、共同声明は"マタリキの上昇を祝い、空の主を祝い、団結しよう。団結して夜明けをもたらし、共に団結して、我々は一つだ!"と結ばれている。※マタリキ:マオリ族の暦での新年
共同声明全体も、他の多くの協定での声明文書が事務的で簡素であるのに対し、ある種の格調と思い入れの強さを表現し、4ページという異例の長さとなっている。
客観的には権益の拡大・価値観の囲い込み≒分断か?
しかし、結局は、CPTPPの原署名国11ヶ国全てが23年に国内承認を終え、今回南北アメリカ・アジアから欧州に拡大したことを強調する文書となっている。また、当然ではあるものの、法による秩序を改めて謳い、(中国の加盟申請を念頭においてなのか?)"経済的威圧"への対抗手段として協定を堅持しつつ、"強靭な供給網を促進"し、"経済統合を推進し続け"、経済安保の強化を通じ、異なる価値観との"連携"ではなく、囲い込み、そして客観的には分断・陣取り合戦の道に進もうとしている文書となっている。
経済連携協定の経済効果とは何か?検証に無頓着でいいのか?
日英EPAについては政府のウェブサイトで見つけることが出来なかったが、冒頭の表に載せたその他の経済連携協定については、一定の条件・仮定を置いた(GTAP方式)日本政府による"(日本経済への)経済効果分析"が公表されている。特にTPP12については交渉参加以前の13年3月15日の安倍首相による正式な参加表明当日に加え、15年10月の大筋合意直後の12月24日付でも作成されている。交渉参加への政府の意気込みの大きさゆえなのだろうか。日EU・EPAも大筋合意前に公表されている。経済効果分析の作成・公表の目的は、交渉参加についての世論への働きかけや、合意後の国会審議に備えた材料として位置付けられのだろう。しかし、それだけであってはならない筈だ。
勿論経済効果分析は絶対的なものではない。公表文書の中でも"種々の不確実性を伴うものとして相当な幅をもって理解される必要がある"としている。また、"成長メカニズムを明らかにすることで、我が国経済を新しい成長経路に乗せるための政策対応を含めた官民の行動が重要であることを示すものである"とも書かれている(いずれも21年3月19日公表のRCEPの経済効果分析から転記)。
上記のように、協定を意味あるものにするためには"政策対応を含めた官民の行動が重要"とほぼ全ての経済効果分析において強調されている。"どのような政策対応が実行されたのか?"、"協定の効果と併せ政策効果はどうだったのか?"、そして、"その理由は?"といった検証がされて当然だろう。そのこと自体が次の成長につながる筈だ。民間企業では事業方針・計画策定作業の中で当然のように行われている。
協定発効後の経済は依然低成長を続け、それぞれの経済連携協定の効果分析で示されたような成長軌道を辿っていない。政府は様々な理由を挙げるだろう。しかし、"政策"とは条件・環境変化への対応も含んだうえで、"政策"というべきものだ。
発効後一定期間が過ぎても、当初の経済効果分析と実体経済との検証がされていないのなら、それは"法治主義"ならぬ、"放置主義"と言わざるを得ない。
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