真っ当な人材を枯渇させる国【小松泰信・地方の眼力】2023年9月6日
松野博一官房長官は8月30日の記者会見で、関東大震災の直後に起きた朝鮮人虐殺について「調査した限り、政府内で事実関係を把握できる記録が見当たらないところだ」と述べた。
嘘つきは政治家、国家公務員の始まり
共同通信(9月1日18時42分)によれば、人事院は9月1日、国家公務員が留学中か終了後5年以内に退職すると費用を返還しなければならないルールに基づき、22年度に返還義務が生じたのは過去最多の84件だったと発表した。長時間労働などを理由に退職者が増えたほか、返還費用を肩代わりするとの条件で、留学経験のある官僚を採用する企業の影響もある。
人事院の担当者は「留学前に意義や目的を説明しているが、最後は個人の判断と言わざるを得ない」としている。
東京新聞(5月16日付)は、2023年度の採用試験のうち、一般職(大卒程度)申込者が過去最少になったことなどから、国家公務員を志す若者の減少に、歯止めがかからないことを報じている。23年度の一般職の採用試験に申し込んだ人は、前年度比6.3%減の2万6319人。現在の試験方式になった12年度以後、最も少ないとのこと。
「志願者減の大きな流れが、変わらない。厳しく受け止めている」とは、人事院試験課の担当者。
幹部候補で「キャリア官僚」と呼ばれる総合職も同じ。春と秋の年2回ある試験のうち、23年度の春実施分の申込者は、前年比6.2%減の1万4372人で、過去2番目の少なさ。
人事院も手をこまねいているわけではないが、鈴木亘氏(学習院大教授)は、「業務の総量や内容など本質の部分を変えなければ、持ち帰り仕事が増える」「国会審議で担当大臣を立ち往生させないためにレクを重ね、議員のもとに質問取りや制度の説明で出向くことも多い。そういう霞が関の職場文化を根本的に変え、オンラインでの対応も拡充していかなくてはならない」と、コメントを寄せている。
当コラムは、あの森友学園問題における安倍晋三元首相の発言を契機に始まった、幹部官僚の罪深き「すっとぼけた虚偽答弁」のオンパレードも国家公務員志望減の要因のひとつとみている。
そこに、冒頭で紹介した松野官房長官の「あったことを無かったことにする」問題発言。習ってきたことを修正させられるような発言にも、己を殺して付き合わねばならない国家公務員の立ち位置。さらには「エッフェル姉さんご一行」のお世話、あるいはSNSで見ることができる政治家のパワハラ。これらを知れば、「誰があいつらの下僕になるものか」と考える、至極真っ当な若者が増えることはあっても減ることはない。
教員不足も深刻
なり手不足は教育の世界も同じである。
共同通信(8月17日18時32分)によれば、文部科学省は、特定地域の教員を目指す「地域枠」を教員養成系大学・学部が入試で設け、教育委員会と連携して教員確保に取り組むことを支援する方針を固めた。教員志望者が減少する中、地元に定着する人材を確実に確保し、教員不足解消につなげたい考え。大学は国公私立を問わず、来年度から開始するそうだ。
京都新聞(9月4日付)の社説は、「深刻化する教員不足の解消へ有効な一手となるのだろうか」の、疑問から始まる。
教員の志願者数は全国的に減っており、採用試験の競争倍率は2000年度の13.3倍をピークに、23年度は3.1倍にまで下がっている。京都市教委は6.4倍、京都府教委は3.7倍、滋賀県教委も3.3倍で、両府県でも低下傾向にある。
「教員志望者が減り、優秀な人材が採用できなければ教育の質にも影響する」と危機感をあらわにする。
「地域枠」には期待を寄せ、「教員になりたいという学生たちの意欲を維持し、高めることができるかが鍵」と指摘する。
加えて、教員不足の背景には志願者の減少に加え、「離職者の多さ」も指摘されていることから、「長時間労働や待遇の改善なしに人材確保はなしえまい」として、「ブラック職場」とされる教育現場の就労環境を改善せよと訴える。
教育は人なり
8月28日、中央教育審議会初等中等教育分科会のその名も「質の高い教師の確保特別部会」が、『教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策(提言)~教師の専門性の向上と持続可能な教育環境の構築を目指して~』を出した。
提言は、「『教育は人なり』と言われるように、学校教育の成否は教師にかかっている」という一文から始まり、「全国的に教師不足が指摘されていることも憂慮すべき状況であり、危機感を持って受け止める必要がある」と記している。
信濃毎日新聞(8月30日付)の社説は、「小手先の対策を重ねても、教員労働の根本的な問題解決にはつながらない」として、特別部会が今後議論を本格化させる給与制度を焦点のひとつに上げる。この制度は、「教職員給与特別措置法(給特法)に基づき、給与月額の4%相当を上乗せ支給する代わりに残業代を支払わない仕組み」で、「定額働かせ放題」と皮肉られてきた。これによって、公立校の教員は、子どもの校外実習、学校行事、職員会議、非常災害の4項目を除き、部活動などの時間外勤務は自発的活動とされ、残業代が出ない。つまりはただ働き。きちんと支払うとすれば、追加で1兆円規模の予算が必要になるといわれており、「教員の『奉仕』に甘え、必要な経費が見て見ぬふりをされてきた」と指摘する。
提言が「教師を取り巻く環境は、我が国の未来を左右しかねない危機的状況にある」と記していることを、「心身を病み、あるいは教員生活の将来に失望して職場を去る教員も後を絶たない」状況から、「大げさな表現ではない」としている。
真っ当な人材を育てる
「小中学校の英語教育は過渡期にある」で始まるのは、中国新聞(8月28日)の社説。文部科学省が実施した本年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で中3の英語の成績が振るわなかったことを取り上げている。
「結果を分析し、授業改善につなげる必要がある」としたうえで、「現場の人員や予算の裏付けは欠かせない」とする。なぜなら、「新指導要領では単語や文法の量も増えるなど教員から負担感を訴える声が絶えない。働き方改革を進めながら実行に移すのは簡単なことではない」からだ。さらに社説子は、「英語教育だけの問題でもない。英語の対話力を高めるにしても根幹をなすのは日本語で自らの意見をまとめ、表現する力だ」として、「国語力をないがしろにできない」とくぎを刺す。
冷静に考えれば、英語も日本語も力を入れよ、ということ。何も手を打たなければ、教員の負担はますます増え、教育現場は真っ暗闇。そんな教育現場で、真っ当な人材が育つわけがない。真っ当な人材が枯渇する国に、明るい未来は来ない。
「地方の眼力」なめんなよ
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