【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】日本の食料・農業危機の深層と日本社会崩壊の足音2023年9月14日
命や環境を顧みないグローバル企業の目先の自己利益追求が食料・農業危機につながった経緯を確認し、その解決策として提示されているフードテックが、環境への配慮を隠れ蓑に、更に命や環境を蝕んで、次の企業利益追求に邁進し、いよいよ、日本社会が崩壊の危機に瀕しようとしている。この恐ろしい流れを知り、逃れる道はあるのかを考える。
食料自給率が低下した本当の理由
日本の食料自給率は38%と言うが、実質はもっと低い。野菜で考えると如実にわかる。野菜の自給率80%と言うが、その種は9割が海外の畑で種採りされているから種が止まれば自給率は8%になってしまう。さらに化学肥料原料はほぼ全てを輸入に頼っている。肥料が止まれば収量は半減。つまり、野菜の実質自給率は4%になってしまう。
日本の食料自給率がこのように低くなり、食料危機に耐えられるのか、日本の食料安全保障は大丈夫なのか、という事態になった背景には米国の政策がある。我が国は、米国の占領・洗脳政策の下、米国からの要請をGATT・WTO、FTAなどを通じて受け入れ続けてきた。
畳みかける農産物関税削減・撤廃と国内農業保護の削減に晒され、農業を弱体化し、食生活「改善」の名目で「改変」させられ、戦後の米国の余剰農産物の処分場として、グローバル穀物メジャーなどが利益を得るレールの上に乗せられ、食料自給率を低下させてきた。
米国農産物輸入の増大と食生活誘導により日本人は米国の食料への「依存症」になった。そうなると米国の農産物の安全性に懸念がある場合にも、それを拒否できないという形で、量的な安全保障を握られると質的な安全保障も握られる状況になった。
「規制撤廃、貿易自由化を徹底すれば、皆が幸せになれる」という「市場原理主義」は、皆を守るルールを破壊し、日米の政権と結びついた一部のグローバル企業などが利益を集中するのに貢献し、日本や多くの途上国で、貧困、格差の拡大と食料自給率の低下を招いた。
米国のもう一つの洗脳政策は、日本の若者をどんどん米国に呼んで市場原理主義経済学を徹底的に教えて帰国させ、いわゆる「シカゴボーイズ」を増殖させ、放っておいても米国が儲かるように日本人が自ら動く社会を作ろうとしたことである。
日本側も、米国の利害にしっかりと応えるように農産物の関税撤廃をお土産、「いけにえ」として米国に差し出し、その代わり日本は自動車などの輸出で利益を得ていこうとした。そうすれば経済産業省の方は自分の天下り先も得られるという側面がある。「食料など金を出せば買えるのだ。それが食料安全保障だ」という流れが日本の経済政策の主流になった。
もう一つは財務省だ。米国の要請に呼応するかのように、信じられないくらい食料と農業のため予算を減らしている。農水予算は1970年には1兆円で防衛予算の2倍近くあったが、70年経ってもまだ2兆円だ。再生エネ電気買取制度による22年度の買取総額は4.2兆円で、これだけで農水省予算の2倍である。安全保障の要は、軍事、食料、エネルギーと米国などでは言うが、なぜ、その要の中でも一番の要の食料だけがこんなにないがしろにされてきたのか。
さらには、欧米に比べて食料・農業・農村への共感が日本人に希薄だとされるが、その主因の1つは、日本の歴史教科書から食料難の経験や農業・農村の重要性に関する記述がどんどん消されていったことにある。こうした一連の流れは、日本農業を当然苦しくする。食料の輸入が増え、自給率が下がり、食料危機に堪えられない構造が形成された。
武器とコオロギだけでは生き延びられない
そこに、世界的な食料危機が起きた。中国の「爆買い」やウクライナ紛争により、日本の食料とその生産資材の輸入途絶のリスクが高まっている。「お金を出せば輸入できる」のが当たり前でなくなり、肥料、飼料、燃料などの暴騰にもかかわらず農産物の販売価格は上がらず、農家は赤字にあえぎ、廃業が激増している。
国民の命を守るには国内の食料生産を増強する抜本的な対策が必要と思われるが、逆に、コメ作るな、牛乳搾るな、牛処分しろ、ついには生乳廃棄で、「セルフ兵糧攻め」のようなことをやっていては、本当に「農業消滅」が急速に進み、不測の事態に国民は餓死しかねない。
一方で、増税してでも防衛費は5年で43兆円に増やし、経済制裁の強化とともに、敵基地攻撃能力を強化して攻めていくかのような議論が勇ましく行われている。欧米諸国と違って、食料自給率が極端に低い日本が経済制裁強化だと叫んだ途端に、自らを「兵糧攻め」にさらすことになり、戦う前に飢え死にさせられてしまう。戦ってはならないが、戦うことさえできない。
さらには、SDGsを「悪用」して、水田のメタンや牛のゲップが地球温暖化の「主犯」とされ、まともな食料生産の苦境を放置したまま、昆虫食や培養肉や人工卵の機運が醸成されつつあります。しかも学校給食でコオロギが出されたり、パウダーにして知らぬ間に様々な食品に混ぜられようとしている。
イナゴの食習慣は古くからあるが、避妊薬にもなるようなコオロギで子供達を「実験台」にしてはならない。戦後の米国の占領・洗脳政策による学校給食や今年からのゲノム編集トマト苗の全国の小学校への無償配布と同じように子供達を「実験台」にした拡散戦略を繰り返してはならない。
まともな食料生産振興のための支援予算は長年減らされ、トマホークなどの大量購入と昆虫食などの推進が叫ばれている。コメを減産し、乳牛を処分し、牛乳を廃棄し、不測の事態には、トマホークとコオロギをかじって生き延びることができるのか、今こそ考えなくてはならない。
日本社会崩壊の道~陰謀論でなく陰謀そのもの
グローバル種子農薬企業やIT大手企業が目論んでいる、もう一つの農業モデルは、今いる農家を追い出して、ドローンとセンサーを張り巡らせて自動制御して、儲かる農業モデルをつくって投資家に売るのだという見方もある。実際、ビル・ゲイツさんは米国の農場を買い占めて、米国一の農場主になっている。2022年の世界食料サミットでこういう農業を広めていくためのキックオフにしようとしたという事実もあり、絵空事ではない。
彼らは、まともな農業の代わりに、次の儲けのために、コオロギなどだけでなく、もう一つは、このような無人農場を考えているのか、と言うと、陰謀論だという人がいる。しかし、日本が国策として推進するとしているフードテックというものの中身を見ると愕然とする。
その論理は、温室効果ガスの排出を減らすためのカーボンニュートラルの目標を達成する必要があるが、今の農業・食料産業が最大の排出源(全体の31%)なので、遺伝子操作技術なども駆使した代替的食料生産が必要である。それは、人工肉、培養肉、昆虫食、陸上養殖、植物工場、無人農場(AIが搭載された機械で無人でできる農場経営)などと例示されている。温室効果ガス排出の多さから各たんぱく質を評価すると、最も多い牛に比べて豚は約3分の1、鶏は約5分の1、昆虫食では鶏よりもさらに少量だとの解説もある。
今の農業・畜産の経営方式が温室効果ガスを排出しやすいというのであれば、まず、環境に優しく、自然の摂理に従った生産方法を取り入れていくことを目標とするというならわかるが、それをすっ飛ばして、さらに、問題を悪化させるようなコオロギや無人農場に話をつなげているところの誤謬に気づく必要がある。
日本はフードテック投資が世界に大幅な遅れをとっているので、国を挙げた取組みの必要性が力説されている。「今だけ、金だけ、自分だけ」の企業の次のビジネスの視点だけで、地域コミュニティも伝統文化も崩壊、食の安全性も食料安全保障も蔑ろになる。陰謀論だと言う人がいるが、フードテック解説には、そのとおり書いてある。陰謀論でなく、陰謀そのものなのである。
こんなことを続けたら、IT大手企業らが構想しているような無人の巨大なデジタル農業がポツリと残ったとしても、日本の多くの農漁村地域が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には、超過密化した東京などの拠点都市で、餓死者が出て、疫病が蔓延するような歪(いびつ)な国になることは必定である。
日本国民を守る道
さらに、食品表示をなくして、何でも食べさせようという動きも強まっている。遺伝子組換えでない表示は実質できなくなった。ゲノム編集の表示は最初からない。なんと無添加の表示も厳密でないからやるなと。コオロギのパウダーが入っているかどうかも表示されない。まさに、わからないようにして何でも食べろという話だ。
米国でも同じことが進められた。しかし、米国の消費者は負けなかった。大丈夫だと。私たちの周りにはホンモノを作ってくれている生産者がいる。その生産者と信頼のネットワークをつくって安全、安心を確かめながら食べていけば、表示なんかなくたって命は守れるし、頑張っている生産者も支えられると。この信頼のネットワークの広がりによって、遺伝子組み換えの牛成長ホルモンで儲けが減ったモンサント社は、そのホルモンの権利を売却するまで追い込まれた。
だから、国が動かなくとも、私たちは私たちの力で、日本社会が古来より持っている地域循環的な共同体的な力を発揮して、日本各地で頑張ってくれているホンモノの生産者と消費者の信頼のネットワークを強化すれば、けっして負けることはない。大きな力が私たちの命や社会を蝕もうとしても必ず跳ねのけることはできる。そうした動きは、すでに全国各地に広がっている。
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