「シラタ米被害 予想以上 価格設定に苦慮」コメの市場があるメリットとは?その13 【熊野孝文・米マーケット情報】2023年10月10日
9月はじめ都内で開催された席上取引会に高温障害で3等に格落ちした新潟コシヒカリのサンプルが持ち込まれ、東京着1万3800円で売りに出されたが、買い手は見向きもしなかった。ところが今や1万4000円でも買えなくなっている。コメ卸に言わせると「1等米はなくほとんどが2等や3等なのだからこれで精米商品を作るしかない」ということで、量販店の売り場では、今年の異常な高温という気象条件から白いお米が発生している旨を伝え「農家を応援してください」などというポップを表示、5kg1880円から1980円程度で販売されている。ただ、消費者の中には新潟や魚沼のコメには白いコメは入っていないと信じて購入している人もいる。
5年産水稲は、稲の生育にとって最もデリケートな時期に全国的に異常ともいえる高温に見舞われ、収穫前から乳白米(シラタ)の発生が懸念されていたが、実際に収穫作業が進むと予想以上の品質低下で、かつその被害範囲が広範囲に及んでいる。
シラタ発生のメカニズムは、農研機構によると植物が本来持っている水ストレス(乾燥や高温による水分の欠乏状態)への防御機構である「浸透圧調節(浸透圧の高い物質を細胞にためることで水を保持する機構)」によって起こるという。イネは夜のフェーン(高温で乾いた風)で強い水ストレス状態になるが、枯れるのを防ぐために一時的に浸透圧調節が働く。これにより、コメの中に浸透圧で水分を保持する糖をためてデンプンを作らないという現象が起こり、シラタが大量に発生するわけだ。
近年、夏場に35度を超えるような日も珍しくなくなり、水田に張った水がお湯のようになってしまうが、こうしたことも高温障害につながる。土壌や水が温かくなりすぎると根の機能が落ちてきて水分や養分を吸えなくなり、光合成がうまくいかなくなるという。
夏場に35℃を超えるような日が続くと用水自体も高温になり、夜に稲体を冷やして高温障害を防ぐという対策もとれなくなってしまう。こうなると、こうした気象条件を前提として高温耐性のある品種を作付けしなくてはならず、現在ある品種ではふさおとめ、ふさこがね、新之助、てんたかくなどと言った品種も知られている。
ただし、開花期に気温が37℃を超えると雄蕊は死んでしまうので受粉出来なくなってしまう。2050年には日本の気温はさらに2℃気温が上昇するという見方もあるだけにさらに高温耐性のある品種が求められる。
過去の高温障害による乳白米の販売の事例では「ホワイトライス」「ミルクライス」もしくは「白雪姫米」などとネーミング、価格を下げて販売した例もあった。5年産の場合、新潟県のコシヒカリはほとんどが2、3等になってしまい、精米すると47kg程度に歩留まりが落ち込むため、コメ粒が割れないように精米圧力を下げて搗精するという作業を行っている。要するにシラタはそのまま販売するしかなく、消費者に理解を求めているところで「ニュースで新潟県のコメの高温障害が伝えられているので量販店側にも理解してもらっている」(卸)という。
精米の品位基準は「米穀公正取引推進協議会」が定めた基準がある。それによると①水分は16.0%(全量に対する重量比をいう。以下同じ)以下とする②粉状質粒(粒質が粉状又は半粉状の粒をいう)は、15%以下とする③被害粒(汚染し、又は損傷を受けた粒をいい、着色粒を含み、砕粒を除く)は、2%以下とする ④着色粒(粒面の全部又は一部が着色した粒をいい、精米の品質に著しい影響を及ぼさない程度のものを除く)は、0.2%以下とする⑤砕粒(完全粒の3分の2から4分の1までの大きさの粒をいい、具体的には、針金25番線ふるい目の開き1.7ミリメートルのふるいをもって分け、そのふるいの上に残る程度の大きさの粒をいう)は、8%以下とする⑥異種穀粒(うるち精米以外の穀粒をいい、消費者の食用に供するため混入した穀粒を除く)及び異物(穀粒以外のもの及び完全粒の4分の1未満の大きさの粒をいう)は、0.1%以下 とする。
――こうした基準があるのだが、生産側の努力や流通業者が対策を立てようがない今年のような天災ではなし崩し的になる。これは取引における価格差でも同じようなことが言え、1~3等格差が1俵1300円(税別)で通っている。すべての産地がこの格差を設定しているわけではないが、大方の産地がこの格差で販売している。しかし新潟コシヒカリの5年産概算金は1等が1万3900円に対して3等は1万800円で、その格差は3100円(税込)もあった。これでは農家の手取りが減るので3等を800円値上げすることになったが、それでも集荷と販売価格の開きは大きい。
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