【浅野純次・読書の楽しみ】第91回2023年10月21日
◎小沢慧一『南海トラフ地震の真実』(東京新聞、1650円)
地震の予測でいつも気になるのは「30年以内に70~80%の確率でM8級の巨大地震が発生する」とかいう報道です。この例は静岡から鹿児島までの広範囲な地域を襲うとされる南海トラフ地震の予測ですが、いかにも科学的で疑いの余地はなさそうでいて、実は...。
新聞記者である著者は、この予測が最終決定される経緯に疑問を持ち、取材を進めます。そして一般的な予測方法だと南海トラフは20%のはずが70%超にもなってしまった事実をつきとめます。
今さら低くしたら地元が安心してしまう、防災予算がとれなくなる、などの政治的思惑のほか、ある地震学者が提起した時間予測モデルという学説が強力な根拠とされていることが浮かんできます。
そこでこのモデルのカギを握る高知県室戸の港へ調査に出かけ、意外な地政学的事実を発見する...。推理小説もどきの展開に思わず引き込まれそうです。
地震と津波は日本にとって宿命ですが、特定の地震を誇大に予測することは他の地域の警戒心を弱めるという弊害もあります。
地震予測に一喜一憂することなく、その科学的限界についても私たちは知っておく必要があります。とても読みやすい、貴重なレポートとして広く読まれてほしい力作です。
◎東京新聞特報部『報道弾圧』(ちくま新書、1012円)
報道次第で世の中は良くも悪くもなります。しかし世界では「報道弾圧」が横行しており、ジャーナリストが命懸けで報道を続けている国が多数あります。
意外にも1章フィリピンから始まりますが、ドゥテルテ政権の強圧政治を批判するメディアを陰に陽に圧迫するさまは対岸の火事ではありえません。
2章ロシアはウクライナ戦争、3章中国はパンデミックが主たるテーマで、懸命に真実追求と権力批判を続けるミニコミの姿が印象的(最悪の状況となった香港にも触れてほしかった)です。
中東に劣らずジャーナリストの投獄や殺害が日常茶飯に行われているミャンマーの軍政もひどい。日本人ジャーナリストも複数、逮捕、投獄されています。
最後に日本です。日本はまだましと思われるでしょうか。でも報道の自由度ランキングはなんと71位。38位の台湾、42位の韓国より下です。情報公開の低さ、政治家による放送局への圧力など問題点が次々に並べられると、まだましなどとは思えなくなってきます。
◎稲盛ライブラリー(構成)『稲盛和夫 魂の言葉108』(宝島SUGOI文庫、880円)
稲盛さんは生前20冊を超える著作を出版しました。その中からぴかりと光る寸言を選び、それぞれに解説がついています。
まだ一冊も読んでいない人には良い機会だと思います。京セラや第二電電などの名経営者なので、これも経営のための本と思われる人も多いかもしれません。もちろんそれもそうなのですが、生き方や考え方、仕事の仕方などでも良いヒントにあふれています。
「自分に訪れる出来事の種をまいているのはみんな自分なのです」「継続と反復は違います」「否定的なことを考える心が、否定的な現実を引き寄せたのだ」「どんな分野でも、成功する人というのは自分のやっていることにほれている人です」。
なるほど。反省しきりです。上掲の言葉がよくわからないようなら解説をぜひ読んでください。いずれもとてもいい解説です。最後にもう一つ。「自分を高めるために読書をしてほしいと思います」。今日から始めますか。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】とうもろこしにアワノメイガが多誘殺 早めの防除を 北海道2025年7月1日
-
【人事異動】農水省(7月1日、6月30日付)2025年7月1日
-
作況指数公表廃止よりもコメ需給全体の見直しが必要【熊野孝文・米マーケット情報】2025年7月1日
-
【JA人事】JA岡山(岡山県)新会長に三宅雅之氏(6月27日)2025年7月1日
-
【JA人事】JAセレサ川崎(神奈川県)梶稔組合長を再任(6月24日)2025年7月1日
-
【JA人事】JA伊勢(三重県) 新組合長に酒徳雅明氏(6月25日)2025年7月1日
-
米穀の「航空輸送」ANAと実証試験 遠隔地への迅速な輸送体制構築を検証 JA全農2025年7月1日
-
JA全農「国産大豆商品発見コンテスト」開催 国産大豆を見つけて新商品をゲット2025年7月1日
-
産地直送通販サイト「JAタウン」新規会員登録キャンペーン実施2025年7月1日
-
7月の飲食料品値上げ2105品目 前年比5倍 価格改定動向調査 帝国データバンク2025年7月1日
-
買い物困難地域を支える移動販売車「EV元気カー」宮崎県内で運用開始 グリーンコープ2025年7月1日
-
コイン精米機が農業食料工学会「2025年度開発賞」を受賞 井関農機2025年7月1日
-
「大きなおむすび 僕の梅おかか」大谷翔平選手パッケージで発売 ファミリーマート2025年7月1日
-
北海道産の生乳使用「Café au Laitカフェオレ」新発売 北海道乳業2025年7月1日
-
非常事態下に官民連携でコメ販売「金芽米」市民へ特別販売 大阪府泉大津市2025年7月1日
-
農作物を鳥被害から守る畑の番人「BICROP キラキラ鳥追いカイト鷹」新発売 コメリ2025年7月1日
-
鳥取県産きくらげの魅力発信「とっとりきくらげフェア」開催 日本きのこセンター2025年7月1日
-
鳥インフル 英国チェシャ―州など14州からの生きた家きん、家きん肉等 一時輸入停止措置を解除 農水省2025年7月1日
-
新潟県長岡市から産地直送 フルーツトマト「これトマ」直送開始 小海工房2025年7月1日
-
埼玉県毛呂山町、JAいるま野と包括連携協定を締結 東洋ライス2025年7月1日