あれも食いたいこれも食いたい【花づくりの現場から 宇田明】第21回2023年11月2日
東海林さだおの週刊誌人気コラム「あれも食いたいこれも食いたい」。
人間の性(さが)。
高血圧だ、糖尿病だ、痛風だ、コレステロールだ…、
医者に食事制限を言いわたされていても「あれも食いたいこれも食いたい」。
都道府県庁の農業関係の事務室がならぶ廊下には、担当する品目ごとに消費拡大ポスターが張られている。
米をもう1膳多く食べましょう。
野菜は1日350g以上、果物は200g以上食べましょう。
卵は1日2個、肉は100g、いもは100g、牛乳は200ml...。
人間の胃袋は有限。
お役人に、あれも食えこれも食えといわれても、そんなに食べられません。
食料安全保障のために、日本人は米を食べろと上から目線でいわれても、もはや国民は白米を腹いっぱい食べたいとはのぞんでいない。
パンも食べたい、ラーメンも食べたい、ピザもパスタも...
肉を100g、卵を2個、いもを100g、野菜を350gも食べれば、ご飯が減るのはあたりまえ。
かつての日の丸弁当は、おかずが梅干ししかなかったから、白米で腹を満たした。
いまの子どもの弁当はおかずが8割、ご飯は2割。
なにを食べるかは国民・消費者の選択。
日本人の食生活の変化をもっとも感じるのが、宿泊付きの農家の研修会。
昔は旅館だったが、今はホテル。
朝食はビュッフェスタイル。
農家の半数近くは、もはや洋食。
パンにサラダにチーズ、ハム、ソーセージ、スクランブルエッグにヨーグルト、コーヒー。
卵かけごはんに納豆、塩じゃけにみそ汁は少数派。
それが消費者ニーズとするならば、マーケットインを重視すると宣言しているJA全中は、これからの米づくりをどう指導しようとしているのでしょうか。
給食でご飯を児童に食べさせたように、国民(農家を含む)に無理やり米を食べさせるのでしょうか。
農業も市場経済の中で生きています。
市場経済では「つくってなんぼではなく、売れてなんぼ」。
つくるのは、農家のDNA、得意ワザ。
つくった農産物すべて価格転嫁ができて、右から左に売れるのであれば、農業ほど楽しい職業はない。
売るためには、買っていただくお客さまのことを第一に考えなければならない。
さらに、エンドユーザーの前には、農作物を販売する米屋、八百屋、肉屋、スーパーなどの小売店がある。
まず小売店が持続的に儲からなければならない。
上から目線で、食料安保だから、これを食えあれを食えは通用しない。
買っていただくためには、つくる以上の努力と工夫が必要。
一方、花はなくてもひとは生きていける。
花は腹を満たすことも、栄養もカロリーもない。
しかし、ひとは癒しや安らぎを花に求める。
絵画や音楽や小説など芸術は腹の足しにはならないが、ひとが豊かに生きていくためにはなくてはならないのと同じ。
農作物が身体の栄養ならば、花は心の栄養。
しかも、胃袋は有限だが心は無限。
とはいえ、買っていただくには食料農産物以上に、努力と工夫が必要。
消費者の財布のひもは堅い。
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