(358)「特定技能制度」と食産業(その2)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年11月17日
前々回の続きです。日本には2023年6月末で約17万人の特定技能制度に基づく外国人就労者がいます。これはいわゆる技能実習制度とは別の在留資格です。今回は、この17万人についてもう少し詳しく見てみましょう。
厚生労働省による「外国人雇用状況」は毎年1月に前年10月末時点の数字が発表される。2023年1月には昨年10月末の数字が発表されたが、そこに記された在留資格「特定技能」による外国人労働者数は79,054人である。
このうち、「飲食料品製造業」26,108人は「特定技能」が想定する12分野の中で最大だが、農業・食産業という観点で見ると、「農業」8,758人、「漁業」983人、「外食業」3,267人が加わり合計39,116人、全体の49.5%、ほぼ半数となる。つまり「特定技能」による外国人労働者のほぼ半数が食産業関連ということだ。
より新しい数字としては出入国在留管理庁の資料の中に、2023年6月末時点のものが確認できる。あくまで速報値だが、こちらでは173,089人である。
この2つの資料の集計時期の差は8か月、この期間に総数は2.2倍に増加している。仮にこのペースが今後も継続すると考えれば、10月末には昨年の3.3倍、つまり26万人くらいの水準になる可能性があると推定できる(17万人÷8か月×12か月)。
興味深い点は、この約17万人の移行「ルート」である。
17万人中、約7割が技能実習ルート、残りの3割が試験ルートである。試験ルートは文字通り、特定技能の試験(技能および日本語)に合格することだ。だが、試験ルート以外にも技能実習から特定技能への移行が認められる。それが技能実習ルートである。条件は、やや細かいが、技能実習を良好に修了していること(実際には2号まで、つまり3年間)と、技能実習2号の職種・作業内容と特定技能(1号)の業務に関連性が認められる場合、技能試験と日本語試験が免除となる。
つまり、3年間しっかりと技能実習を行い、継続して関連性が認められる業務に従事する場合はそのまま在留資格を変更することが可能になるようだ。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により実習の継続や帰国が困難な場合には、最長1年を限度として異業種での就労が可能となることなどの対策が取られている。技能実習ルート7割とはこうしたものを全て合計した結果であろう。
食産業の内訳を見ると、農業66%、漁業92%、飲食料品製造業72%が技能実習ルートである。これに対し、外食業は96%が試験ルートであり、技能実習ルートは4%に過ぎないところに大きな違いが見られる。仕事で求められるスキルの違いもあるだろうが、食産業全体で見た場合、生産・加工の特定技能は技能実習生からの移行が多く、外食業は最初から都市部での就労を目的として、意識的に試験ルートを通る異なる母集団の外国人労働者の姿を思い浮かべた方が良いかもしれない。このあたりは精査が必要な点だ。
いずれにせよ、背景にはわが国の少子・高齢化に対応するため人手不足の分野に対し、外国人労働者を頼りにしていることがある。そのためには、外国人労働者が安心して働ける職場・生活環境が必要なことは言うまでもない。
こうしたハード面に加え、同僚や地域住民とのコミュニケーションへの配慮、そして何よりも就労した分野におけるキャリアパスなどもしっかりと考えておく必要がある。
かつて日本では終身雇用、年功序列、企業内労働組合が日本的経営の特徴と言われたが、今やこれらも大きく変化してきている。その一方で、農村やいくつかの就労分野では、深刻な人手不足に直面している。
地域産業の存続のためには、とにかく人手が不可欠という状況であろう。そうであれば、日本人・外国人に限らず、そこに「残らせる」のではなく「残りたい」という具体的かつ目に見える形での魅力をどうするか、それを各地域が検討すべきではないだろうか。
(前々回コラム:(356)「特定技能制度」と食産業【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】)
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