シンとんぼ(72) 食の安全とは(30)流出・揮散2023年12月9日
令和3年5月12日に公表された「みどりの食料システム戦略」をきっかけに始まったシンとんぼは、ここのところ「食の安全」とは何かということの検証を試みている。
現在、農薬の使用上の人為的なミスにどのようなものがあるか検証しており、前回までに希釈倍数・使用量、散布機具の洗浄、使用回数、収穫前使用日数に関するミスがどのようにして起こり得るのかを紹介した。これらに適用作物を加えたものが、農薬使用時の人為的ミスで農薬取締用違反が起こり得るもののほとんどであるが、あと2つ散布時に意識しなければならないものがあった。それは前回紹介した飛散、そしてもう一つが流出・揮散である。流出とは文字通り、圃場に撒いた農薬が、圃場外に流亡してしまうことである。揮散は空気中にガス化して空気中に放出されることを示し、主に土壌消毒剤に関することである。
まず、流亡は畑ではほとんど起こることはないが、水田では起こり得る話である。例えば、水田に水稲除草剤が散布されると、有効成分が水田水を介して田面に均一に拡散し、やがて水田土壌に吸着されて処理層をつくり、水田水中には除草剤の有効成分が含まれなくなって落ち着く。この落ち着くまでにかかる時間は有効成分によって異なり、多くのものが48時間~72時間程度で落ち着くといわれている。この落ち着くまでの期間に水田水が水田外に放出されてしまうと水田水に含まれる有効成分が水田外に放出され、河川等に流出してしまう。これが水道水の取水口などに流れたとすると水道水を経由して人の口に到達してしまう可能性があるため、安全を見越して7日間の止水期間を設け、水田外に農薬の有効成分が流出しないようにしているわけだ。実際には、浄水場では原水を沈殿・濾過の過程を経て浄化していくので、水田から流出した農薬成分が水道水から検出されることは皆無であるが、環境中に流出する農薬を極力減らすことは農薬使用者側の責務でもある。
同様に、種子消毒剤の廃液や散布剤に余った残液、散布機具の洗浄水なども環境中に流出しないように十分な注意が必要なもので、併せて、極力廃液が出ない消毒法を検討したり、散布液は圃場内で使い切るなど、残液・廃液を極力少なくする努力が必要となる。
いずれも、「食の安全」とは直接関係することではないが、農薬の使用者が食の安全を担保するために是非とも意識しておいてもらいたい点であるため、あえて取り上げておいた。農薬の使用者がこのような意識を継続して営農に取り組むことが、消費者の信頼(=「日本の農家は決まりを守って散布しており、国産農産物は安全だ」)につながっていくのではないかと思う。
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