Aコープを閉店させたのは誰だ【小松泰信・地方の眼力】2023年12月13日
NHK「クローズアップ現代」(12月5日)は、「あすのごはんが買えない……暮らしを脅かす“スーパー閉店”」というタイトルで、スーパーの閉店により“買い物困難者”が増え、利用者はもとより取引業者など多くの利害関係者に多大な影響を与え、地域社会を揺るがしていることを取り上げた。

鳥取県内全Aコープ"一斉閉店"の衝撃
ただし、「クローズアップ現代」の放送内容の多くは、中国地方で放送されたNHK「コネクト」(10月27日)「スーパーが消える町~買い物危機 最前線の現場から~」をベースにしたものである。
「コネクト」は、長年にわたり地域を支えてきた鳥取県内3JA(JA鳥取いなば:本店鳥取市、JA鳥取中央:本所倉吉市、JA鳥取西部:本所米子市)関連のAコープ17店舗が"一斉閉店"を決めたことを軸にして、高齢化が進む中山間地で買い物空白地帯が生まれ、地域ごと衰退しかねない事態を憂慮する企画であった。出演していた専門家は、「この問題は、地方のみならず今後全国で起こりうる」と指摘した。換言すれば、全国どこのJAであってもおかしくない事態ということである。
JA鳥取いなばの苦渋の決断
本コラムでは、3JAのなかで最も多い9店舗(JAの100%子会社「トスク」が運営)を閉店したJA鳥取いなばを事例として取り上げる。
「コネクト」のインタビューで清水雄作代表理事組合長は、「郊外型の店舗や、店舗の形態がどんどん変わってくる中で、少し競争力が弱ってきた。今の利用者へのサービスをできるだけ展開するためにどうしたら良いのかを常に考え、ずっともがいていました。スーパーだけでなく、JAも一緒に経営がなり立たなくなる。残念ですが、こういう結論に達した訳です」と答えている。
日本海新聞(2月8日付)は、「持続可能なJAの経営基盤の確立に向け、積年の課題に大なたを振るう決断となった。一方で中山間地域や高齢化が進む中心市街地の生活基盤サービスの一翼を担っていた店舗の閉鎖は、大きな驚きを持って受け止められている」と、全店閉店を検討していることを報じた。
さらに、「同業社が出店を敬遠する中山間地域でも店舗を維持し、移動販売や介護用品販売、夕食宅配事業にも力を入れてきた。地域の生活基盤サービスとして事業の重要性は高い半面、中山間地域では、過疎などで利用者は減少を続けていた。16年以降は、市街地店舗でも他店やドラッグストアなどとの競争が激化して収益状況が悪化。22年1月期決算の売り上げ高は、57億5970万円で、1億714万円の赤字となっていた」と悪化する経営状態も紹介。これまでに2店舗の閉鎖や、2月から本店などで閉店時間を繰り上げて経費の圧縮を図るなど、厳しい状況に追い込まれていた。加えて、老朽化する本店建物の大規模改修や建て替えが喫緊の課題となっているが、事業継続には巨額の費用が見込まれる。他方、監督当局が早めの経営改善を促す「早期警戒制度」のJAへの導入を強く意識せざるをえない。このような状況の中で、JA経営の十分な健全性を確保するための苦渋の決断に至ったことを伝えている。
「閉店期間」をどう乗り切るか
そして9月30日、7月末に閉店した2店舗に続き、最後に残った7店舗が閉店。
日本海新聞(10月1日付)や読売新聞(10月1日付地方版)によれば、7店舗中2店舗は、市内に本社を持つ地元スーパーが運営を引き継ぎ、改修後に再度開店。1店舗も同社に売却されるが、店舗としては存続しない。本店は一部の専門店のみ営業し、来年6月末までに解体が始まる見通し。2店舗は、複数のスーパーとの引き継ぎ交渉中。1店舗は店舗としては存続せず、地元自治体や地域と活用法を協議中とのこと。
店舗を引き継ぐ場合でも開店の時期が未定のため、地元自治体が週2、3回、鳥取市内のスーパーまで町民のためのバスツアーを行うことや、地元の小売業者が移動販売を始める予定とのこと。また、町営バスのルートを変更するなどして、町内の別のスーパーを経由する便を増やすなど、「空白期間」を乗り切るために苦慮していることなど、切実な状況を伝えている。
難儀する利用者
当然、利用者の暮しに悪影響を及ぼしている。
閉鎖された店舗の前に住んでいる80代の女性は、「そりゃさみしいです。地元住民にとってはとくに。......若い人にとったら、どうってこと無いでしょうけど、私ら高齢者にとったら無くてはならないスーパーです」と語る。偶然か、インタビューの最中に、移動販売車が流す音楽が聞こえるが、悲しいかな品揃えはスーパーにかなわない。一番近いスーパーは3キロほど離れているので、行政からのタクシー利用助成制度を利用しようと考えているが、1回300円の個人負担が必要。往復600円。年金暮らしには大きな出費。「高齢者泣かせですよ、本当に世の中。それを痛感しますね」との言葉が胸に刺さる。
一人で買い物に行けない高齢者にとってはさらに深刻。こちらも80代の女性。3キロほど離れた集落に住む70代の親戚にスーパーへの送迎を頼んでいる。「スーパーに行って、人の顔が見えたら、あの人も元気だなと思って、それが楽しみだった。少しは家から出たい」と語るが、遠慮もある。今後は16キロ離れたスーパーへ行かざるを得ないが、頼りの親戚も積雪を心配する。「大事だで、一番大事。何をおいても一番大事だと思うで、買い物は」「(買い物に連れて行ってとは)言いにくいな。言いにくいけど、それでも食べなならんだけ、(買物に)連れてってと言うかも分からんで」と、笑いながらの言葉に不覚にも涙腺が緩む。
「クローズアップ現代」で紹介されていた60代女性は、スーパーの直売コーナーに仲間40人ほどと野菜を毎日出荷していた。そこでみんなと会えることが楽しみだったが、その機会も無くなることに。店舗の前に立ち、かつては自分たちの野菜が並べられていた場所を見ながら「悔しいですね」と涙する。
総力を挙げて「地域と共に、暮らしと共に」を実践せよ
失ってみて改めて、Aコープが「生活店舗」として重要な役割を果たしていたことがわかる。経営者も職員も懸命に努力してきたはず。しかし、JAグループとして総力をあげてAコープの存続に尽力したのだろうか。連合会は自分事としてどこまで積極的に関わったのか。改めて問いたい。店舗に「地域と共に、暮らしと共に」という言葉が記されていた。これからでも遅くない。鳥取県に限らず、JAグループが総力挙げてこの看板に偽りがないことを実践するしか、生き残る道はない。
「地方の眼力」なめんなよ
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