(364)「わらい」と「たのしさ」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年12月29日
同じ読みで、意味が近いにもかかわらずニュアンスが異なる表現について、少々考えてみました。
最近では「わらう」の漢字表記は圧倒的に「笑う」が使われている。だが、「笑い」の種類は実に多い。ざっと検索しただけで、漢字2つで表記するものとしては「微笑」「爆笑」「破笑」「嘲笑」「冷笑」「哄笑」「一笑」「苦笑」などが出てくる。さらにひらがなを交えた表記になると、「含み笑い」「薄ら笑い」「せせら笑い」「作り笑い」「苦笑い」「思い出し笑い」「一人笑い」「高笑い」などが加わる。
これに「笑う」「嗤う」「哂う」「呵う」「咍う」...などが全て「わらう」である。
一般に、「笑う」ことは健康に良いと言われている。先に述べた様々な種類の中で言えば、「爆笑」や「破笑」、あるいは最近は滅多に見ないが「一笑」(「破顔一笑」という四字熟語はまだ残っているかもしれない)などは、明らかに健康によさそうだ。
しかし、全ての「笑い」が本当に健康に良いと考える人は少ないであろう。上司や同僚、交渉相手などとの会話の中で、どうしようもなくなり「作り笑い」や「苦笑い」をするケースもある。「嘲笑」や「冷笑」が健康に良いとも思われない。これらの「笑い」はどう考えてもストレスにしかならない。
そのようなことを考えていたところ、「笑い」の種類について、特定非営利活動法人日本成人病予防協会のサイトに、「笑い」の種類が3つに分類されていることを見つけた。
第1は本当に楽しく、愉快なときの「笑い」、第2は社交辞令としての「笑い」、さらに第3は緊張緩和の「笑い」である。なるほど、こう分類するのかと感心した。やや気になったのは「サラリーマンの場合は、『社交場の笑い』が6~7割を占めると言われています」との記述である。表記は多分、「社交上」なのだろうと解釈したが、特定の場所としての「社交場」という言葉もあるため、どちらが正しいかは微妙である。
そういえば、モデルの仕事をする方は、鏡を見て笑い方の練習をするという話を聞いたことがある。本人の感情にかかわらず、カメラを向けられると笑顔が作れるのは凄いことだといつも感心する。これはいわば「営業上の笑い」である。
さらに、「楽しく、愉快なとき」と言っても、「楽しさ」と「愉しさ」はある程度以上の世代にとっては全く異なる。物事が単純に面白いときの「楽しさ」と、心の底から自分の意志として「たのしい」と感じるときの「愉しさ」はやや異なる。趣味の世界などはその違いが如実に現れる。例えば、何かを収集することが趣味の人にとって、その対象物を集めることは、それを趣味としない人には何が「楽しい」か全くわからなくても、本人は本当に「愉しい」からだ。
先の3つの「笑い」は、報酬系の違いと考えるとわかりやすいかもしれない。ご関心がある方は、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンの各々の作用を調べてみると面白い。
「もっと、もっと」と常に成長をめざし、シェアや利益拡大を追及するドーパミン型の仕事や経営、趣味もあれば、同じことでもある程度のところで「愉しく」行うことは可能である。「楽しさ」しか知らない人は、「愉しさ」を知る人が何を「愉し」んでいるかがわからない。筆者も大昔、先輩に、「酒もたばこも麻雀もゴルフもほとんどやらずに何が楽しいんだ?」と言われ、返答に困ったことがある。それ以外に、いろいろ「愉しい」ことはあるのにと...。
*
コロナに翻弄された3年から、ようやく今年は以前の動きが出てきました。この3年間、外出・外食・面会・旅行など多くのことが制限されていましたが、それもようやく元に戻りつつあります。自分自身の生活において何が重要であり、本当の「愉しさ」であったか、それをしっかりと意識して一年を閉めたいと思います。
皆様、良いお年をお迎えください。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日