【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】消費者行動の重要性2024年2月15日
関税を引き上げて輸入食料品の流入を阻止することはできない。しかし、日本の消費者が、①安い輸入品には安全性のリスクがある場合があることを認識し、かつ、②国際的な物流が滞るリスクが高まっているとの2点から、自分たちの身近な地域の国産・地場産の農産物を支えることこそが、地域の農家を守り、自身と子供たちの命を守る一番の安全保障なのだと気づき、行動することの必要性を筆者は指摘してきた。
それに加えて、国産、地域産の農産物を支えることは、もう一つの視点からも重要なことが、小島尚貴氏の『脱コスパ病~さらば、自損型輸入』(扶桑社、2023年)などでの指摘からわかる。
象徴的な「事件」があった。畳表の原料となるいぐさの栽培と畳表の生産は、熊本県の八代地方を中心に産地が形成されたが、中国からいぐさが大量に入るようになったことで平成9年にいぐさの大暴落が起き、借金に追われ、見通しがたたず自殺に追い詰められた人が50人を超えたとも言われた悲劇である。日本の企業が日本のいぐさの種と技術を中国に持ち出し、低コスト生産を行い、それを日本に輸入するというビジネスが原因だった。
これは「外国には元々存在せず、日本で自給できていた農産加工品や軽工業品を、わざわざ人件費と製造コストが低い国に技術を提供して安く作らせ、日本市場のみに向けて調達」する輸入形態で、このように、国産品より低価格で類似品を流通させて日本に経済内戦を仕掛け、日本経済に半永久的な値下げ圧力を及ぼし続けるのみならず、国内産業を疲弊させ、わが国の企業収益、個人所得、税収を低下させ続けるこの輸入手法を、小島氏は「自損型輸入」と名付けた。
そして、小島氏は、「自損型輸入」を通じて流通する商品を、メディアが「コスパ、プチプラ」ともてはやし、お得だと誤解した消費者が国内産業を自滅に導く消費行動を「コスパ病」と名付けた。小島氏の視点は鋭い。
日本の種や技術を日本企業が海外に持ち出して安い食料や加工品を作って日本に輸入し、日本の産業を潰しているのに、その安さに飛びついて消費者は自らの地域経済社会を破壊し、日本経済を衰退させ、自身の所得も減少させてしまっている負の連鎖、悪循環に気づく必要がある。海外の現地で安く働かせられる人たちも利益を得るわけではなく、一部企業の経営陣と株主だけが利益を得ている。
消費者は安いと言って輸入食品に飛びつくことによって、地元の農業を疲弊させ、関連産業も商店街も、自身の所得も減らしてしまうという悪循環に陥っているのだ。消費者が「コスパ病」を脱却して、日本にお金が落ちる買い物に少しずつ励めば、少子化、低賃金、食料自給率低迷、人手不足の有効な解決策となる。国産農産物を消費者が支えることの重要性が、こうした視点からも理解される。
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