(375)「適正在庫」とはどの程度か【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月15日
日常生活のさまざまな場面で在庫は必要です。では、「適正在庫」とはどのくらいなのでしょうか。穀物を例に少し考えてみたいと思います。
世界の穀物在庫を見ることは筆者の長年の仕事のひとつだ。在庫を見ると言っても世界中の倉庫の直接確認は不可能なため、毎月公表される統計数字を追うに過ぎない。その中でも、業界関係者が常に見るのが米国農務省(USDA)の需給見通しである。
考えてみればもう40年近く毎月この数字を追っている。時代とともに微妙な様式の変化があるため厳密な数字の確認にはやや細かい作業が必要になる。ただし、概況をつかむにはインターネットで公表される様式で十分である。シカゴの穀物市場を始め、いわゆるマーケットはその数字を参考情報のひとつとして変動する。
ところで、近年、将来の食料危機が各所で言われている。何を持って食料危機というかは定義にもよるため、ここでは詳細には入らない。今回のポイントは「在庫」である。
現物を扱う業界であれば、穀物に限らずいかなる業界でも在庫は発生する。バランスシート(貸借対照表)の左側に記されることからもわかるとおり、在庫は資産である。細かい点を省けば、各国に存在する穀物在庫も同様である。ここでは原料在庫、半製品在庫、製品在庫も一括して在庫とする。
一般に、在庫が多いとマイナスの影響が生じる。在庫には仕入れや製造に関する費用が伴うため、在庫が販売できなければ費用を回収できない。また、穀物のようなバルク商品の場合はとくに保管費用、輸送費用なども大きい。
したがって、多くの場合、万が一のケース(これを不測の事態という)に備え一定の在庫を持ちながらも、全てが順調にいく場合には可能な限り在庫を少なくしようと努める。ただし、食料についてはどの程度が適正かは判断が難しい。
ところで、世界の穀物在庫がどう変化しているかを場所に焦点を当てた上で、過去の変化を10年単位で見ると興味深い。小麦(小麦粉を含む)、コメ、粗粒穀物、主要な油糧種子の合計を広い意味での穀物としてみよう。20年前の数字は一部が手元で確認できない
が、少なくとも過去10年の推移は先の米国農務省のサイトなどで確認できる。
結論を簡単に言えば、10年前には世界の穀物在庫の約3分の1が中国に存在したが、現在ではその割合は半分以上(約54%)に増加している。
品目別に見れば、小麦は過去10年での増加が顕著である。コメはもともと大生産国でもあり在庫率は高い。大きな変化は粗粒穀物と油糧種子である。
粗粒穀物の過去20年間の推移を見ると、世界の在庫のうち中国に存在する割合は20年前が2割強であったが、10年前には4割弱と増加している。粗粒穀物の中心は言うまでもなくトウモロコシである。中国で畜産飼料用のトウモロコシ需要がいかに増えてきたかを示していることは間違いない。
なお、現在の中国では粗粒穀物の年間需要は3.3億トン、在庫が2.1億トンに達している。この状況で世界の粗粒穀物在庫に占める中国の割合は6割強にまで増加している。
主要な油糧種子も同様の傾向が見られる。10年前は世界の在庫の2割弱が中国に存在したが、現在は3割である。現在の中国における年間搾油数量は1.4億トン、そして在庫は約4千万トンである。
これらの数字を見てどう判断するかは人それぞれである。一方の極に在庫ゼロの考え方があれば、他の極には在庫を積み上げる考え方もある。ここでは中国を例に出したが、日本でも食料安全保障、あるいはフードセキュリティ(ここであえて言葉を分けた理由はまたの機会に記してみたい)に関する関心が高まりつつある。この機会に一度、「適正在庫」の水準とはどの程度かを、一人一人が考えなおしてみてはどうだろうか。
* *
さて、家庭の食料在庫は何日分が適正なのでしょうか。
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