【浅野純次・読書の楽しみ】第96回2024年3月29日
◎荒俣宏『福翁夢中伝』(上下、早川書房、各1980円)
福沢諭吉といえば『学問のすゝめ』と『福翁自伝』ですが、いずれかでもすでにお読みの方もまだの方も、本書から多くの興味深い事実を知るはずです。
諭吉が語る「自伝」に加えてこれぞという人物に証言させ、第三者(時に本書の著者がタイムスリップして現れる)にも語らせる趣向の評伝小説は、意外な切り口や広がりをもって読者を楽しませてくれます。
まず冒頭の咸臨(かんりん)丸による太平洋横断からして引き込まれます。勝海舟が船酔い続きで面目丸つぶれだった描写もさることながら、咸臨丸の目的が外交使節団の随行ではなく小笠原の調査・領有にあった話は、意外性十分です。
『福翁自伝』では語られていない晩年の重要なテーマ、特に慶應義塾における自主独立経営の追求は、今の時代にも大事な話ですし、関連して教育勅語を痛烈に批判するくだりなどは諭吉の面目躍如と言えます。
川上音二郎を支えた貞奴(さだやっこ)の話もただ面白いというだけでなく、広くは諭吉の「独立自尊」に通じるものでしょう。
世紀を超えて、今の時代の多くの人々、特に政治家や組織のリーダーたちにはぜひ読んでほしいと思いました。ユニークで面白く、学ぶこと多い本です。
◎平賀緑『食べものから学ぶ現代社会』(岩波ジュニア新書、1034円)
「私たちを動かす資本主義のカラクリ」が本書の副題、本の帯には「食べものから資本主義を解き明かす」とあります。
食べものは農漁村から市場(いちば)を通って食卓に上る、という程度の理解を私たちはしがちです。でも食も農も資本主義にがんじがらめ、そのロジックのもとで動きかつ形を変えています。
実際、食料安全保障も、飼料や石油などの輸入価格高騰も、種子の入手も、すべてグローバル経済の下で巨大企業の手に委ねられていることを本書は明らかにしていきます。
食べものも農地も金融商品化され、マネーゲームの対象になる。そこには食の尊厳などひとかけらもありません。食品も地下資源も工業製品も高度資本主義の下では同じ扱いを受けざるをえないということでしょう。
では農民や消費者はどうしたらいいのか。資本主義のカラクリの逆つまり小さく分散し、急がず、主体的に考える、という本書の提案、どうでしょうか。みんなで議論してみる価値は十分ありそうです。
◎外山滋比古『新版思考の整理学』(ちくま文庫、693円)
刊行40年で287万部というベストセラーが増補改訂されたので改めて購入しました。授業とか論文とか学生向きの話が多いので、人によっては読み飛ばしてもいいでしょう。とはいえさすがロングセラー、貴重なヒントが次々登場します。
例えばメモの仕方。面白いと思ったことを気づいたり、読んだり、聞いたりしたらすぐメモをとる。そのためにはメモ用紙をそこここに置き、メモ帳を携行する。そしてそれをノートに書き直す。苗代から水田に植え替えるように考えも移植で育つ、というのです。
捨てることも大事だとも。忘れることを否定的に考え不安視する人が多いけれど、忘れることで新しい知識や知恵が入りやすくなる。だから積極的に忘れることを試みなさいとは少々驚きです。
「忘れることで考える力がつく」というのはとても刺激的です。歳をとって物忘れを心配するより、もっともっと考えなさい、ということでしょうか。
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