(385)語学ビジネスに見るリスク回避【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年5月24日
4年前の今頃は日本中が大変でした。2020年4月7日、東京都を始め複数の自治体から1回目の「緊急事態宣言」が出され、これが5月25日まで延長されました。6月には東京アラートなども出ています。飲食店は閑古鳥が鳴いていた時期です。
東京都の場合、最初の「緊急事態宣言」は当初5月6日までとされたが、最終的には25日までに延長された。この時期、外食は動きがほぼ止まり、学校や企業では、新入生や新社会人を迎える一連の対面行事や授業などがほぼ全て中止となった。
この結果、パソコンや携帯を活用したオンライン会議が一気に日本中で普及した。それまで機能は備えられていても使用経験がない大半の人が(筆者を含め)オンラインでの仕事や打合せ、はては飲み会にまで殺到した。
ところで、同じ時期、視点を変えると興味深い現象を見られる。語学ビジネス市場の動きだ。矢野経済研究所によると、2022年の語学ビジネス市場の規模は7,806億円という。このうち、語学スクールが2,995億円、学習教材が1,454億円、周辺ビジネスが3,358億円という*1。
詳細はプレスリリースの表を見て頂きたいが、ポイントは語学スクールの市場規模が約3,000億円という点だ。語学スクールの顧客グループは、①成人、②幼児・子供、③プリスクール、そして④幼稚園などへの講師派遣がある。成人向け市場は1,650億円と語学スクール市場の半分強を占める。次がビジネスニーズ市場であり、1,040億円である。
調べて見ると、この語学スクール市場、コロナ前はどうも3,500億円程度であったようだが、コロナにより500億円ほど縮小している。対面で学ぶ伝統的形式が中心であったことを考えれば当然であろう。
これに対し、コロナ前から多少伸びてはいたが、この時期に急伸したのがオンライン語学学習サービスである。以前は150億円程度のマイナー市場であったが、この4年間で倍以上に伸びたと見られている。ピンチをチャンスに転換したと言えば当たり前すぎるが、語学スクール全体としてはコロナで減少した需要をオンライン語学スクールでしっかりと相殺(オフセット)した形である。
これは少し考えれば誰にでもわかる簡単なケースだ。だが、世の中には恐らく似たようなケースが数多く存在するはずだ。うまく相殺した企業や業界は余り大げさに宣伝しないだけである。
話は全く変わるが、2023年のコメ輸出は43,363トン、金額にして97.5億円である。数量も金額も前年からは大きく伸びている。関係者の弛まぬ努力の賜物であることは間違いない。2024年1~3月のコメ輸出は9,780トンと昨年の10,545トンをやや下回るが、今後順調にいけば数量も金額も前年を上回る可能性は十分にあるであろう。
それにしても、オンライン語学スクールの市場規模が瞬く間に、コメ輸出金額の3倍に成長した動きを見ると、ニーズに応えることと同時にリスク回避の重要性がよくわかる。
一か所に継続的に多数の人間を集めて何かを行う伝統的な学校・会社方式自体が、実は脆弱な基盤の上に成立していることが明らかになった現在、この仕組みの持続可能性、そして代替可能性については、感染症対策とは別の面から深く考えてみても良いはずだ。
最期に、世界のオンライン語学市場の見通しは、2020年の120億ドルから2030年には420億ドルと、10年間で3.5倍の成長が見込まれている。これに生成AIが組み込まれれば、語学学習ビジネスは全体が大きく様変わりするであろう。
根拠無く不安を煽るようなことは慎みたいが、コロナの教訓をいかにして家庭や組織、製品の体質強化とリスク回避に結び付けるか、もう少し視野を広げて考える必要があるのではないか。
* *
かつてはコメを売るにはまず炊飯器を...でしたが、電子レンジが普及した今ではパックご飯で充分売れる時代です。これも環境とニーズの変化ですね。
*1 矢野経済研究所プレスリリース、「語学ビジネス市場に関する調査を実施(2023年)」、No.3314、2023年8月31日。アドレスは、https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3314 (2024年5月21日確認)
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