全米販の注意喚起文書と日米連のアンケート【熊野孝文・米マーケット情報】2024年6月4日
コメ卸の全国団体全国米穀販売事業共済協同組合(略称全米販)は5月28日に傘下組合員に対して、令和5年産スポット価格の急騰を巡る注意喚起文書を発出した。その文書には現況について「令和5年産米のスポット相場が急騰しています。確かに令和5年産は、高温障害の影響による歩留まりの低下、集荷業者の集荷量不足、篩下米の発生量減少などによって、全般に価格が上昇傾向にあるのは事実です。 しかしスポット価格の高騰ぶりは異常で、相対契約価格の上げ幅とは大きく異なっています。一方で販売は上向いており、特に低価格帯の玉が枯渇していることから、米の流通経路がこれまでと変化していることが考えられます」と記されている。
この後に需給状況に関して「令和5年産主食用米生産量は661万tで、前年比▲1.4%。令和5年産水稲うるち玄米の検査数量は今年3 月末現在413万4,412tで、前年同月比▲1.9%。減少率にほとんど差がみられません。しかし、令和5年産主食用うるち米の集荷数量は今年3月末現在251万7千tで、▲4.8%。集めきれていないわけです。 また今年3月末現在の民間在庫(出荷+販売段階)は171万tで、過去20年以上遡っても最低の水準にあります。一方、例えば東日本震災の翌年、平成24年3月の在庫は185万tでしたが、これを在庫率(需要量 に占める民間在庫の割合)で見てみると、平成24年3月末の在庫率は23.0%で、今年3月末の在庫率31.6% は、これを大きく上回っています。 先行きがどうなるかは不透明ですが、足許の状況から不安感に駆られ無理な手当てをした結果、後で苦しむ経験を、米穀流通業界はこれまで繰り返してきました」。結びとして「上がった相場は必ず下がるのです。相場の格言に、『もうはまだなり まだはもうなり』があります。 そして『休むも相場』です。以下に高騰相場が暴落した4事例を掲げておきます」と綴っている。
この文書読んですぐに全米販に電話して聞いてみた。一つはいつ下がるのか?という点と理事会で政府備蓄米の緊急売却を求める声は出なかったのかという点。下がるのは新米が出始めればということだが、それは誰でもそう思うが、ひっ迫している現状をどうするのかという点に関して「あくまでもスポット価格の急騰であって全体では違う」という農水省の請け売りのような返事で、対応策はなく相場師のような予言になるのも無理もない。周年安定供給対策で5年産米を確保している大手卸は別にして中小卸は在庫切れになっているはずで、組織内の理事会で国に対して要請すべき意見が出たと思ったので聞いてみたが「そうした意見は出なかった」としており、にわかには信じ難かった。
これに対して米穀小売の全国団体である一般財団法人日本米穀商連合会(略称日米連)のアンケート調査結果はかなり深刻である。アンケート結果については日米連のホームページに掲載されているほかコメ関連や農業関連の業界紙にも大きく取りあげられたのでご覧になった方も多いと思われるが、要点は、コメの仕入れについて、仕入れることが出来なくなったと答えた小売店が15%、仕入れできる量が少なくなったと答えた小売店が66.4%いることで、全体で8割以上の小売店が仕入れに苦労している。また、仕入れ価格に関しては60㌔当たり前年同月に比べ3000円以上値上がりしたと答えた小売が50.7%、1000円から2000円値上がりしたと答えた小売が40%を占めている。さらに新米が出回るまでの在庫状況について、対応できないと答えた小売店が29.7%、あと3~4か月の在庫と答えた小売店が46%となっており、非常に緊迫した状況になっていることが伺える。
日米連がこうしたアンケートを実施した背景には伏線がある。今年の3月ごろから小売店から日米連に「コメの仕入れが出来ない」という訴えが来はじめて、このままでは大変なことになると対策を農水省に求めたのだが、農水省からは5年産の作況は101で、民間在庫も見通しも170万㌧と見込まれ、スーパーにも精米がいっぱい並んでいるとの理屈で需給はひっ迫していないと言われた。この問題は国会でも取り上げられたが、農水省側の答弁は「取引の多くを占めます相対取引価格でございますが、昨年の出回りから今年3月までの年平均価格でいきますと、前年より1,442円、プラス10.4%高の60㌔当たり1万5286円というふうになっております。この水準はコロナの前の平成29年から令和元年産の水準よりもまだ低い水準だというふうに考えております」。この国会での答弁が岩盤のようになっており、現在まで農水省からは具体的な対策は何も示されていない。日米連は農水省とのやり取りの中で「スーパーにコメが並んでいれば米穀小売店にコメがなくても良いということか」と質した。日米連はもう一回アンケート調査を行うことにしている。
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