(390)協同組合と食料・農業【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年6月28日
先日、このテーマをラジオで話したところ書いたものは無いかとのリクエストがありましたのでお話した内容を全てではありませんが簡単にまとめてご紹介します。※1
一般に協同組合というと、農協や生協などを思い浮かべる方が多いかもしれないが、現在の日本にある協同組合数約4万のうち、概ね9割に相当する3.5万は中小企業組合である。残りの5千が農協、生協、漁協、森林組合、さらに金融関係の信用金庫や信用組合、労働金庫などになる。
日本の民法には「組合」の規定があり、そこでは各当事者が出資し、共同の事業を営むこと、そして出資は労務でも構わないことが規定されている。
日本における協働組合のさきがけとも言えるのは1838年に現在の千葉県旭市に作られた先祖株組合である。メンバーの農民が一定の土地を提供し、そこからあがる収益で困窮者を助けたり、新田開発の費用としたようだ。基本的には相互扶助組織であり、同様の組織は各地に存在したのではないかと考えられている。
明治期には群馬の上州南三社(1878年)や同志社大学に学生消費組合(1889年)などの協同組合ができている。そして、ドイツのライファイゼンの考え方を基本とした産業組合法ができたのが1900(明治33)年である。ここでは「自助」「自律」そして「自己責任」という協同組合の基本的考え方が知られている。
協同組合では「One for all, all for one」ということが言われる。「一人は万人のために、万人は一人のために」という訳だ。これは現在のように効率性や生産性を重視して全てのものをひとつの形で対応する「One fits all」の考え方とはある意味で対極と言ってもよい。社会におけるニーズ、そして地域の課題は大小さまざまだ。だからこそ、そこに新しいタイプの協同組合が生まれる余地が存在する。
例えば、2020年、労働者協同組合法が成立した。ワーカーズ・コープとして長い間知られていたが、これまでは直接対応する法律が存在しなかった。労働組合は、あくまで憲法28条の労働3権を具体化したものだ。一方、労働者協同組合は、組合員による出資、組合員の意見を反映した事業運営、そして組合員自らが事業に従事することが定められ、わずか3名の出資で設立可能な、小回りが利く協同組合である。
例えば、おにぎりや総菜作り、地域での食堂、幼稚園や高齢者への配食、マルシェ、農福連携、里山再生、ワイナリーなど、従来は自治会やボランティア組織で実施していた地域で必要な仕事を、協同組合の形を活用して実行するとりくみに関心がもたれている。何といっても基本は小規模、そして出資の大小に影響されない平等で相互扶助を基本とする組織だからだ。この点は株式会社とは大きく異なる。
もうひとつの事例として、特定事業作り協同組合がある。これも2020年に法律が制定された。地域で必要な、高齢者宅の草刈りやスキー場の従業員などの仕事を実施する場合、この協同組合の場合には届け出で可能になる(労働者派遣法で無期雇用職員を派遣する場合には許可が必要だ)。
農山漁村などには必要な仕事がある一方、人手不足が深刻である。Uターンで戻る人だけでなく、もともと農家でなくても農作業などに興味を持つ人や移住した方など新しく地域に関わることになった人に「仕事」を提供できればお互いに有益である。
西日本のある例だが、この仕組みを活用し、地元の農協や行政とも連携して農業支援事業協同組合を立ち上げた例がある。農業はある特定の時期に労働力が必要になることが多い。そのような時期に地域の労働需要等に応じて複数の事業者の仕事を手伝う農業版マルチワーカーのような働き方が出始めている。
一か所に定住する人と、必要と好みにより全国を移動して働く方と、農業のいろいろな形が協同組合の仕組みのもとで見え始めた。「必要は発明の母」と言われてきた。全国各地の状況に応じて、さまざまな形の協同組合が動き始めていることは、日本農業の新しい可能性のひとつとも言えるのではないだろうか。
※1 NHKラジオ「マイあさ!」月曜7時台 聞きたい「協同組合と食料・農業」
聞き逃し配信は2024年7月1日7時50分まで。https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=5642_01
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