【地域を診る】地方創生交付金倍増は地域を救うか 地方交付税交付金の回復が筋 現場潤わぬ「創生」事業 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年10月15日
今地域に何が起きているのかを探るシリーズ。京都橘大学教授の岡田知弘氏が解説する。今回は「地方創生交付金倍増は地域を救うか」と題し、石破茂首相の地方創生交付金倍増宣言などからひも解いていく。
京都橘大学教授 岡田知弘氏
自民党の総裁選挙を競り勝ち、石破茂氏が新しい首相に指名された。首相に就任するや、石破首相は、解散・総選挙の前倒しをはじめとして前言撤回が目立つ。所信表明演説を読むと、石破カラーが出ているのは、地方創生関連の交付金倍増、防災庁の設置検討ぐらいではないかと思う。
今回は、新首相が強調した地方創生関連交付金の倍増が、どれだけ地域経済を潤すことにつながるのか、検討してみたい。
本連載の第1回で述べたように、石破茂氏が初代地方創生担当大臣になってから推進されてきた地方創生政策は、芳しい成果をあげないまま10年が経過した。石破首相は、「地方こそ成長の主役」だとして、「地方創生の交付金」を当初予算比2倍にし、「地方創生2・0として再起動」させると所信表明演説で宣言した。
しかし、果たして、これによって地域経済が再生するかといえば、はなはだ疑問である。そもそも、「地方創生」という言葉は、国、中央から見ての「地方」であり、「創生」はこれまでの地域経済社会の担い手ではなく、新しい企業や経済主体を外部から持ってくるという意味で作られた造語である。
このことは石破首相が地方創生担当大臣であったときにつくられた自民党の総選挙マニフェストに明記されている考え方であり、その象徴が国家戦略特区であった。
つまり現に地域経済や地域社会をつくる主体となっている中小企業や農家、協同組合の再投資力の強化は二の次であった。そもそも農産物の輸出とともに輸入を促進するTPPや各種自由貿易協定を次々と締結するなかで、地方の農林水産業や地域産業は大きく衰退し、人口を支える力も減退していった。
そこに地方創生総合戦略や人口ビジョン策定の努力義務が課され、国の地方創生策のメニューに即した地方創生関連交付金が財政誘導策として展開されていった。これらの業務を受注したのは大手コンサルタント業者や婚活イベントを得意とする大手人材派遣会社であった。
地方創生交付金の流れでいうならば、いったん各「地方」に投下されたとしても、受注企業を通して販売利益は東京本社=「中央」に戻り、法人所得課税収入も東京都と国に吸引される「大循環」を描くわけである。
菅義偉政権時代に強化された「ふるさと納税」や流行りのアプリ活用の「地域通貨」についても、同じような「大循環」が作られている。ふるさと納税は今や「官製通販」といってよい様相であり、返礼品取引のweb運営サイトの本社が手数料をとる。その少なくない部分が東京に還流するわけである。たとえ、返礼品として当該地域の特定企業に恩恵をもたらしたとしても、その地域の産業全体を潤すわけではない。地域通貨も、システム構築を行っているのは大手情報システム会社であり、やはり東京本社企業が多い。
もし、増額される地方創生関連交付金が、これまでと同様、半導体等の企業誘致が目的であったり、情報システムへの大規模投資促進が目的であるなら、持続的な地域経済の再生には役立たないだろう。
むしろ、各地域の個性を生かしながら、地方自治体が人件費を含めて自由に使える地方交付税交付金を恒常的に拡充した方がはるかに社会経済効果は大きい。
小泉純一郎構造改革時に、「平成の大合併」を推進するために「三位一体の改革」が強行され、地方自治体への地方交付税交付金は5兆円以上削減され、地方公務員数が3割近く減り、農山村を中心とした定住人口が大きく減少した。それが、能登半島地震のように、災害対応力を失わせ、地域社会の持続可能性を奪っているのである。
石破首相のいう防災力を高めるためには、地方公務員の数を増やし、地域の建設業や小売業をはじめとする中小企業を再生し、その供給力を高めることこそ必要なのである。
また、農林水産業は、国土を保全する役割ももっており、その育成強化は、首相のいうような狭い意味での食料安全保障だけでなく、地域の防災効果を高め、地球温暖化への貢献ともなるのである。
「平成の大合併」を推進した西尾勝元地方制度調査会会長・東大名誉教授は、2015年3月の国会答弁で、合併や三位一体の改革が地方を惨憺(さんたん)たる状況に追いやったと認め、その原因は誤った政治判断にあったと自著で述べている。だとすれば、この地方交付税交付金を回復し、「政治の失敗」を正すことこそ本筋ではないだろうか。
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