【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】議論の前提が間違っている~人口問題、農業就業者問題2024年12月6日
日本の人口は激減していくのだからそれに合わせた社会設計をしようとか、農業就業人口が今後激減するから少人数でまかなう方法を考えないといけないという議論は、議論の前提が間違っている。
今後20年で、基幹的農業従事者数は現在の約120万人から30万人まで約1/4まで激減するのだから、農業をやる人はいなくなってくるのだ。だから、それに合わせて、企業参入を進め、少ない人数で一層の規模拡大をする必要がある、といった議論がよく展開される。先般の食料・農業・農村基本法の改定でもそうだった。
すでに畑作のゲタ政策、コメのナラシ政策、収入保険、中山間地・多面的機能直接支払いなどが行ってきたのに、それでも、農業の疲弊が加速している。政策は十分やったのだから潰れるほうが悪い(コスト上昇が考慮されないから今回の危機に対応できないという政策の不備は認めない)。もうこれ以上、農村全体を支える政策は行わない。
大多数の農家が潰れることを前提に、規模拡大、スマート農業、輸出、海外農業投資、などを展開するために、農業法人における農外資本比率の条件を緩和する(50%未満→2/3未満)などの企業参入の促進のための規制緩和を進める、といった議論だ。
日本の土地条件の制約下で規模拡大で解決できる農地はどれだけの割合があるのか。こうした方策で、国民への十分な食料供給も、中山間地が多い日本の農業・農村を守ることもできるわけがない。
これは、そもそも、出発点が間違っている。基幹的農業従事者が120万人から30万人になるというのは、今の趨勢が続いたら、それを放置したら、という仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できるようにする政策を強化して、趨勢を変えることができれば、流れは変わる。それこそが政策の役割ではないか。
日本全体の人口問題も同じである。日本の人口はやがて5,000万人になるのだから、それに合わせた社会設計をしよう、無理に住むのが非効率な地域に住むのはやめればよい、という議論は前提が間違っている。今の出生率の趨勢を将来に伸ばしたらそうなるという推定であり、出生率が少し上向くだけで将来推計は大きく変わる。これを実現するのが政策の役割だ。
しかし、今、懸念される流れが強まっている。能登半島のボランティアに行かれたらわかるように、復旧は遅々として進んでいない。まるで、そこに住むのをやめて移住するのを促しているかのようにも見えてしまう。実は、全国各地の豪雨被害で被害を受けた水田の復旧予算を要求しても、なかなかつかなくなっているという声も聞いた。
そういえば、消滅可能性市町村のレポートもよく読むと、消滅可能性市町村に住むのは非効率だから、もう無理して住まずに、各都道府県ごとに拠点都市を定めて、そこに移住してはどうか、というニュアンスがあるという。人が減るから学校もなくし、病院もなくし、公共交通もなくしていったら、悪循環になるだけだ。
日本の政策に影響力のある人物の言葉を思い出す。彼は、高知県の中山間地で「なぜ、ここに人が住むのか。無理して人が住んで農業やって税金を使って行政もやらなくてはいけない。これを無駄という。非効率なのだ。早く原野に戻して引っ越したほうがよい」と述べたという。このたぐいの発言をメディアでも繰り返していた。
これがいかに間違っているかは、コロナ禍でもわかったかと思われたが、また、農政の憲法たる基本法の議論でも、全体の人口問題でも、そのような方向性がまた出てきている。狭い目先の効率性、歳出削減しか見えない政策では、農業・農村が崩壊して一部の企業だけが儲けたとしても、日本の地域社会、資源・環境、人々の暮らしと命は守れない。大局的見地に立った国家観のない政策、人々の命と暮らしを守る視点の欠如した政策は亡国である。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日
-
キウイブラザーズ新CM「ラクに栄養アゲリシャス」篇公開 ゼスプリ2025年4月30日
-
インドの綿農家と子どもたちを支援「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」に協賛 日本生協連2025年4月30日
-
「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」料理家とのコラボレシピを発表 生活クラブ2025年4月30日
-
「子実トウモロコシ生産・利活用の手引き(都府県向け)第2版」公開 農研機構2025年4月30日
-
「金芽ロウカット玄米」類似品に注意を呼びかけ 東洋ライス2025年4月30日
-
令和7年春の叙勲 JA山口中央会元会長・金子光夫氏、JAからつ組合長・堤武彦氏らが受章2025年4月29日