多収穫米への関心が高まった業務用米セミナー【熊野孝文・米マーケット情報】2024年12月24日

先週末に開催された米穀業者の情報交換会でSBS応札業者から12月20日に実施された今年度第4回目のSBS入札結果について「アメリカ産中粒種の落札価格はkg482円、豪州産はkg478円であった。関税を341円払っても輸入できるような水準に近くなっている」という発言があった。台湾やベトナムのジャポニカ種もkg482円から485円で落札されているのだからSBS応札資格者でなくても関税さえ払えば外国産米を輸入できる水準に近づいている。国産米の価格水準は白米卸が秋田あきたこまちを3万3700円で買ったと発言したところ参加者から「安いな!」という声が上がるほどで、天井知らずの値上がりに歯止めがかかっていない。
米穀業者の情報交換会で参加者からの情報でインパクトがあったのは、茨城県では種もみ不足でコシヒカリ、あきたこまち、ふくまる、ミルキークイーン、それともち米の種もないと伝えられたことで、種場産地の富山にもないという。来年作付けする主食用米の品種の種子がひっ迫している状況が伝えられた。この日は、日本橋で農水省の支援で業務用米セミナーが開催され、全国各地から24社の生産者組織が会場にブースを構え、個々に商談に当たったほか、セミナー会場では多収米に焦点を当てたセミナーが3つ開催された。セミナー会場は予定された席が満席で立ち見の人もいるなど盛況で多収米に対する関心の高さが伺えた。
最初に農研機構の作物研究部門の後藤明俊グループ長が「多収米の品種や特性について」、続いてヤンマーマルシェ(株)フードソリューション部農産部穀物グループ松田彩友美グループ長が「多収米を活用した低コスト生産のモデルについて」、(株)大嶋農産大嶋康司社長が「多収米の種子について」それぞれ講演した。また、公益財団法人流通経済研究所農業・物流・地域部門の折笠俊輔部門長がコメの売買契約について、現物市場で先渡し取引を行った際に価格変動に備えて先物市場を活用したリスクヘッジ方法について説明した。
多収米については農研機構の多収米品種一覧表が掲載されている冊子が参加者全員に配布され、その特性について説明された。「ちほみのり」は多収、良食味で外食・中食にも向く品種であきたこまち並みの食味であきたこまちより収量が10%ほど多い。「つきあかり」はコシヒカリより2週間早く収穫できる早生品種で10%程度多収、作付面積が急拡大している「にじのきらめき」は高温登熟性と耐倒伏性が優れた品種でコシヒカリより15%多収。加工米飯に向いた「やまだわら」は10a当たりの収量が838㎏という多収品種で炊飯米の粘りが弱いことから冷凍米飯の製造に向いている。冊子には「にじのきらめき」の種苗入手先リストも掲載されており、全国で26生産法人が種子を生産している。
ヤンマーマルシェの多収米契約栽培の特徴は、播種前に収穫後の販売金額を決めることが特徴で、現在203社の契約農家がいる。推進している多種品種は「にじのきらめき」、「つきあかり」、「ほしじるし」、「あきだわら」で、にじのきらめきの栽培に適した同社推奨の肥料も紹介された。また、同社は生産面だけでなく販売面でも飲食店や給食用などの売り先を確保、さらには輸出用米や加工用米など制度米穀の販売先を確保できるなどの強みを持っている。
大嶋農産の大嶋社長は、自社で62品種もの種子を生産しており、これらの種子の生産は2年前から需要予測をしなければならないことやコンタミ防止が最大の課題でコンバインを何時間もかけて掃除しなければならない。また、苗箱もコンタミの恐れを防止するため残ったものは破棄するなど徹底した防止対策を実施している。7台ある乾燥機も専門スタッフが掃除をして記録を取るなど種子栽培農家ならではの苦労があることを紹介した。
農水省の大臣官房統計局がまとめた昭和58年から令和5年までの「作況指数、10a当たりの収量、平年収量及び1等米比率の推移」を見ると10a当たりの平年収量はここ30年間ほとんど増えていない。世界各国では急速に単位面積当たりの収量が増加しており、豪州では直播で10a当たり1t(籾ベース)を超えるまでになっている。反収が増えていない日本は中国、韓国、台湾にも追い抜かれて、現在のランクは20位まで後退している。生産調整を続けている限りコメの生産性は上がらず、高コスト体質は改善しないため輸出はもとより国内での需要にも対応できない状況が想定されている。コメ減らし政策を止めて来年から増産政策に大転換して多収米を生産しなければコメ不足パニックを招きかねない状況に追い込まれている。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(167)食料・農業・農村基本計画(9)肥料高騰の長期化懸念2025年11月8日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(84)グルコピラノシル抗生物質【防除学習帖】第323回2025年11月8日 -
農薬の正しい使い方(57)ウイルス病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第323回2025年11月8日 -
【注意報】冬春トマトなどにコナジラミ類 県西部で多発のおそれ 徳島県2025年11月7日 -
米の民間4万8000t 2か月で昨年分超す2025年11月7日 -
耕地面積423万9000ha 3万3000ha減 農水省2025年11月7日 -
エンで「総合職」「検査官」を公募 農水省2025年11月7日 -
JPIセミナー 農水省「高騰するコスト環境下における食料システム法の実務対応」開催2025年11月7日 -
(460)ローカル食の輸出は何を失うか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年11月7日 -
「秋の味覚。きのこフェア」都内の全農グループ店舗で開催 JA全農2025年11月7日 -
茨城県「いいものいっぱい広場」約200点を送料負担なしで販売中 JAタウン2025年11月7日 -
除草剤「クロレートS」登録内容変更 エス・ディー・エス バイオテック2025年11月7日 -
TNFDの「壁」を乗り越える 最新動向と支援の実践を紹介 農林中金・農中総研と八千代エンジニヤリングがセミナー2025年11月7日 -
農家から農家へ伝わる土壌保全技術 西アフリカで普及実態を解明 国際農研2025年11月7日 -
濃厚な味わいの「横須賀みかん」など「冬ギフト」受注開始 青木フルーツ2025年11月7日 -
冬春トマトの出荷順調 総出荷量220トンを計画 JAくま2025年11月7日 -
東京都エコ農産物の専門店「トウキョウ エコ マルシェ」赤坂に開設2025年11月7日 -
耕作放棄地で自然栽培米 生産拡大支援でクラファン型寄附受付開始 京都府福知山市2025年11月7日 -
茨城県行方市「全国焼き芋サミット」「焼き芋塾」参加者募集中2025年11月7日 -
ワールドデーリーサミット2025で「最優秀ポスター賞」受賞 雪印メグミルク2025年11月7日


































