禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
MAGAとはMake America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国にする)の頭文字。トランプ氏の常とう句。米国がいつ偉大だったのか知らないが、当方にとっては、禍禍しいことこの上ない。
金払いの悪い国・アメリカ
東京新聞(1月21日付)は1面で、在日米軍基地の軍用機騒音訴訟で、確定判決に基づく損害賠償額が700億円を超えたことを報じている。日米地位協定は日米両国に責任割合に応じた負担を定めているが、米側は一貫して未払い。
外務省によると、「米側は訓練の実施について、日米安全保障条約が定める『日本の安全への寄与』などの目的達成のためだと主張し、騒音問題に伴う賠償責任を否定している」そうで、「米側とは応分負担を求める協議を重ねている」とのこと。在日米軍司令部広報部は「分担金は日本政府によって日本国民に支給されるものであるため、米国政府はこの慣行に対する法的義務、関与はない」とのコメント。要するに、協定には従わず、払う気なし。
山本章子氏(琉球大准教授・日米関係史)は「『日本側が米側にお願いして駐留してもらう』という日米安保条約の性質が問題の根幹」と解説。日本政府が「米軍訓練を歓迎し、騒音被害の拡大を事実上容認」し、「その一方で賠償金を支払うよう、米側に求めているとは考えられない」とのコメントも。
危険物を落としても平気な国・アメリカ
「伊江島補助飛行場で物資投下訓練をしていた米海兵隊の輸送機オスプレイが16日、米軍への提供区域の外の海上に貨物を落下させた。民間地に落下する可能性もあった。一歩間違えれば大惨事だった」で始まるのは、琉球新報(1月22日付)の社説。
落下物は、レーションと呼ばれる配給食を積んだ貨物パレット。もちろん、「高度を飛行する航空機から物が落ちる事故は過失であっても到底許されない」として、「日本政府は毅然(きぜん)と訓練中止を求めるべきだ」と怒り心頭。
沖縄県内での米軍関連の落下物事故は復帰後、2023年末までに81件発生し、1965年には読谷村で少女の命が奪われる事故が発生したことも紹介し、落下事故が一向になくならないことへの県民の不信感を伝えている。
「安全確保と再発防止を米側に求める」とする中谷元・防衛相に対して「重大事故への危機感が足りない」と迫り、政府には「訓練中止を要求し、安全性をチェックするなど抜本的な対応」、さらには日米地位協定の改定を求めている。
求められる毅然たる姿勢
トランプ氏は、パフォーマンスを交えて就任初日から次々と大統領令を出した。日本経済新聞(1月22日付)の「大機小機」は、「独裁政治を稼働させた」と表し、「トランプ氏が席巻する世界は戦後最大の危機に直面している」と危機感を隠さない。
その理由として、「極右ポピュリズムのネットワークが形成される」「民主主義が後退し核の危機が深刻化する」「資本主義が歪み、地球環境危機が『不都合な真実』になる」の3点を指摘する。
特に三番目の点に関連して、災害大国日本を意識してか、「パリ協定からの再離脱など地球環境危機に背を向けるトランプ氏は世界を襲う災害をどう見ているのか」と疑問を投げかけている。
トランプ政権に臨むこの国に対して、「アジア全域や欧州と組み自由貿易の旗を振ることだ」「日本被団協のノーベル平和賞受賞を受けて『核兵器なき世界』の先頭に立つのは唯一の戦争被爆国の責務である」と背中を押す。
さらに、「トランプ政権を容認し、追随するだけでは『自国本位』にすぎない。トランプ政権との『ウィンウィン』はない」とまで記し、「世界の将来を見据えて毅然たる態度で臨むべきだ」と念を押す。
毅然たる態度の内実
毅然たる態度の内実を考える上で示唆に富むのが、日本経済新聞(1月18日付)に掲載されたマイケル・サンデル氏(米ハーバード大教授・政治哲学)へのインタビュー。「格差と分断を埋め、退潮するリベラル派や民主主義の復権のために何をすべきか」が語られている。要約すると次のようになる。
Q;人々の貢献を適切に評価し、労働の尊厳を高めるのに何が必要か?
A;報酬が貢献の尺度だという思い込みを払拭すべきだ。ヘッジファンドマネジャーやウォール街の銀行家が高校教師や看護師の5000倍の貢献をしていると言う人はまずいないが、現に極端な報酬格差がある。新型コロナ禍で、倉庫作業員、食料品店の店員、介護士、保育士、配達員らを「エッセンシャルワーカー」と称賛したが、貢献を測る尺度を巡る議論は起きなかった。家庭内の無償労働を含め、真に価値ある貢献とは何か、各人の役割にどう敬意を払うべきか、広範な論議が必要だ。
Q;議論を始めるには?
A;ケア労働に目を向けたい。ケアの領域においてはテクノロジーが人間の貢献に取って代わることはないからだ。先進国ではケア経済に公的資金や民間資金をどう配分するか議論されている。その背景には価値観の問題がある。高齢化が進む社会で子どもからお年寄りまでをいかに支えるか、新たな社会契約が求められる。
Q;リベラル派(左派)政党が労働者の支持を失いつつあるのは世界的傾向に見える。
A;不平等の拡大に苦しむ労働者は疎外され、さらに悪いことにこれら政党のエリートは大学の学位がない人々を見下した。左派政党は新自由主義、能力主義から脱し労働の尊厳を取り戻すべきだ。格差と不平等の拡大が市民社会をむしばんでいる。裕福な人とそうでない人が分断した生活を営むことがますます増えている。一方で階級が混ざりあう公共施設は減っていく。公共施設の価値は、そのサービスだけにとどまらない。民主主義が求めるのは完全な平等ではなく、異なる背景を持つ人々が混ざりあうこと。公共空間は、私たちが連帯感を築き、市民社会で互いに責任を負う存在であることを思い起こさせる。その価値を再認識すべきだ。
禍禍しい状況が起きないために
昨日から大量に垂れ流されてくる大統領就任式の映像。重さも深さも真面目さも感じられない、軽い軽い乱痴気イベント。目をわが国に転ずれば、兵庫県知事を巡る悲惨な政治的かつ社会的状況。
この様な状況下において、サンデル氏の指摘は当コラムの心身をクールダウンさせてくれた。乱痴気騒ぎに飲み込まれることなく、冷静に自分の役割を果たして行かねばならないことを再確認した。これ以上、禍禍しい状況が起きないために。
「地方の眼力」なめんなよ
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