意思決定と女性参画【小松泰信・地方の眼力】2025年3月12日
3月8日は「国際女性の日」。3月11日は東日本大震災の犠牲者に鎮魂の祈りを捧げる日。

被災女性は「地域の嫁」か!?
毎日新聞(3月11日付)は、国際女性デーに寄せて、「『地域の嫁』被災女性苦難能登の避難所」の見出し記事を載せている。
「体育館の冷たい床に、ずらりと布団やベッドが並ぶ避難所」で始まり、2024年元日に発生した能登半島地震の避難所において、「プライバシーが確保されず、炊き出しやトイレ掃除など特定の役割が女性に偏っていた」ことを伝えている。それを、「『阪神大震災のあった30年前から変わらない』現実」と呼んでいる。
石川県珠洲市の女性(40代)は、避難当初は学校や公民館で雑魚寝状態。1月中旬に、背の高さ以上あるパーティション付きの段ボールベッドが届き、心が安らいだが、その後、移動した別の避難所では腰の高さぐらいの段ボールで仕切られているだけ。「通路を歩く人からは丸見え。着替えは倉庫でするしかなかった」そうだ。
珠洲市の別の女性(40代)によれば、トイレにたまる汚物を「気付いた女の人で掃除」、地震発生から約1カ月後、ようやく当番制になったが「汚いことは女性の仕事という空気だった。自宅の片付けなど個人的なことは後回しになった」とのこと。
同紙はさらに、能登半島地震被災地の女性(10~70代の13人)に実施した聞き取り調査の報告書『彩りあふれる能登の復興へ 令和6年能登半島地震の女性の経験と思いに関するヒアリング調査』(フラはなの会・ほくりくみらい基金・減災と男女共同参画 研修推進センター・YUIみらいプロジェクト、2024年4月25日))が、ジェンダーギャップに苦労する女性の姿を浮かび上がらせていることを紹介する。加えて、問題の背景に、「男女共同参画の視点で防災対策が行われず、被災自治体や応援派遣された自治体の職員に女性が少なかったことなどがある」と指摘していることも伝えている。
なお、「地域の嫁」という言葉は、「避難所生活のなかでは、女性は、高齢男性たちから『かあちゃん』として、地域の嫁として用事を言いつけられる」(地域で事業を運営する女性・30代)からきている。
必読の報告書『彩りあふれる能登の復興へ』
恥ずかしながら、この報告書の存在をこの記事で知り、すぐに読むことに。
文化人類学などで用いられるキー・インフォーマント・インタビュー(事情に精通し、的確な表現が可能な情報提供者への聞き取り調査手法)により、発災直後から約3ヶ月間のできごとを、記録、分析、そして報告書へと取りまとめた、まさに力作。
ここでは、「はじめに」に絞って、要点のみ紹介する。詳細は、ぜひご自分の目で確認いただきたい。
「(復興に向けた)議論に女性の経験・視点を反映させること」が調査目的。
調査結果から、浮き彫りになったことを、次の3項目に整序するとともに、その背景を推察している。
① 避難所の運営において、女性や多様な人々のニーズが十分に把握されていなかった
② 炊き出しなどの労働は、主に女性が、長時間にわたり、無償で担っていた
③ 震災の影響のみならず家族・親族のケアのために出勤できず失職した女性がみられた
①と②の背景として、「住民組織の長に女性が圧倒的に少なく、平常時から女性が発言しにくい状況があったこと」。
③の背景として、「平常時の『仕事』における女性の脆弱性は、これまでの大災害事例では、家族・親族のケア負担に加えて、女性が被災後に失職したり復職したりする際に不利になる深刻な要因」となってきたことから、「能登においても同じことが繰り返されたのではないか」と推察する。
そして、すべてに通底している問題として、「無償ケア労働(家庭内で無償で行われる、家事・育児・介護・看護などの『ケア』にまつわる労働)の女性への著しい偏りと、それを『当たり前』とする平常時からの固定的性別役割分業意識(=ジェンダーバイアス)」の存在を上げる。
なお10項目に及ぶ提言の最初には、「復興の計画委員、実施モニタリングの委員等、復興計画の策定や実施にかかわる場では、女性を男性と同数とすること。女性が意見を言いやすいよう、必要に応じて、復興女性会議など女性だけが議論できる場も設けること」と、極めて重要なことが記されている。
求められる意思決定の場への女性参画
3月8日付の新聞各紙の社説は国際女性デーを取り上げていたが、女性の避難生活に言及していたのは北海道新聞である。
「誰もが生きやすく、幸福を追求できる社会にこそ真の豊かさがある。差別や格差をなくし、実の伴う平等にしていく取り組みを急がねばならない」とした上で、「例えば災害時の避難生活では、生理用品の備蓄など女性への配慮が欠かせなくなった」とする。そして、課題解決に際して重要なこととして、「国や自治体、企業などの意思決定の場への女性参画だ」と強調する。
秋田魁新報も、「特に大切なのは、組織の幹部など各分野の意思決定層に女性を増やしていくことだろう」とし、「男性中心の社会を変え、性別にかかわらず誰もが暮らしやすい地域づくりにつなげていきたい」とする。
中国新聞は、「厚労省によると、法定の『生理休暇』も『男性上司に言いにくい』などの理由で取得が低迷している。意思決定の場に女性が少ない社会構造の問題にも目を凝らさねばならない」するとともに、「職場や家庭に今も、性別で役割を分担するような固定観念がはびこっていないだろうか」と、われわれに問いかけている。
農村女性は輝きたいのか
日本農業新聞の論説も、「男性優位の農業・農村社会で、女性が輝くためには、旧来の考え方を改め、誰もが働きやすい職場環境に変えていく必要がある」とした上で、「JAなどの組織は、役員や管理職は男性が多くなりがちだが、女性が加わることで新たな発想が生まれ、事業の発展や職場環境の向上につながる。トップは意欲的な女性を積極的に登用していく方針を示し、実践してほしい」と訴える。
ただ、「農ある世界」における実情は、お寒い限り。そもそも農村女性の中に、「意思決定の場への参画」を当然の権利として求めている人がどれだけいるのか、はなはだ疑わしい。例えば、第70回JA全国女性大会の大会宣言(1月23日)を読んだが、悲しいかな、JA運営に参画する資格を有しているにも関わらず、意思決定の場でオトコどもと互角に渡り合おうとする姿勢も気概も伝わってこなかった。これでは、農村女性は輝かず、JAそしてJAグループは静かに沈みゆくのみ。
「地方の眼力」なめんなよ
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