コメの危機を救う二重米価制度【森島 賢・正義派の農政論】2025年4月7日
政府の最新の資料によれば、先々月のコメの価格指数は、前月よりも11.4ポイント上がって182.6になった。あとの図で示すが、まだ上げ止まる気配はない。この状況が続けば、やがて国民のコメ離れが加速するだろう。
そうかといって、下げれば農業者の脱農が加速するだろう。
上げてもダメ、下げてもダメ、というコメの危機から脱出するには、先人の叡智に学ぶしかない。
かつて戦中・戦後の食糧危機のときに、政治が乗り出して叡智を集め、政治の責任で二重米価制度を採用した。そうして、危機を克服した。つまり、米価を消費者米価と生産者米価とに分けて、消費者米価は下げ、生産者米価は上げるという制度である。その差額は、政治が補填するという制度である。
この制度を採用するしかない。そのためには、大資本中心の財界が唱えている、市場原理主義農政、つまり、政治は市場に介入せず、市場に一切を押し付け、そうして市場に全ての責任を負わせる、という無責任な制度を放棄することである。
こうした主張をする政治家には、財界の献金が無くなるだろうが、国家・国民のためには止むを得ない。
◇
この場合、二重米価といっても、それは、生産者米価は、実質的な生産者米価、つまり、政治が支払う助成金などを加えた手取り単価である。
また、消費者米価は、日銀が行っている市場公開操作、つまり、日銀が必要に応じて市場に資金を供給し、あるいは引き上げる操作であるが、コメの場合でも、政府が普段から充分なコメを管理しておいて、必要に応じて、そのコメを政治の責任で市場に放出し、あるいは、買入れて消費者米価を操作することである。
つまり、政治が市場に一切の責任を取らせる市場原理主義から決別し、そうした主張をする俗論を排して、市場に介入することか必要不可欠である。
そうしないと、消費者のコメ離れがさらに進行し、コメの需要が輸入小麦で作ったメンやパンに代わり、また、農業者の脱農がさらに加速する。その結果は、食糧自給率をさらに下げることになり、食糧安保を深刻な危機に陥れることになる。
以前、「貧乏人はムギを食え」と言った首相がいたが、筆者のような貧乏人だけでなく、カネ持ちもムギを食うようになるだろう。
直近の状況をみてみよう。
上の図は、消費者米価とコメの購入量を、2000年12月から先々月の2025年2月までについて、月別にみたものである。それぞれの推定方法は、本文末の【注】で詳しく説明したが、この図は、縦の目盛りを対数にした。消費者米価とコメ購入量は別々の目盛りだが、共通していることは、ともに、横線を1目盛上がることは、2倍になることを意味している。1目盛下がることは、半分になることを意味している。また、コメ購入量は、季節変動が激しいので、平滑化のために直近12か月の移動平均値とした。
◇
前置きが、やや長くなったが、図を詳しくみてみよう。
はじめに、米価の動きをみよう。昨年の春以降の急騰は、全く異常である。この1年間たらずの間に2倍になった。そして、この急騰はまだその勢いを失っていない。
同じような状態が図の中にある。2003年から2004年にかけて、米価の急騰があった。あの時は、急騰は約1年半で収束した。
今度の急騰はどうか。その激しさは、あの時とは、まるで違って激しい。1年半で収束するとは思えない
◇
一方の、購入量はどうか。そこには、長期的な減少が見られるが、際立った急減少は見られない。平滑化したことにもよるが、それだけではない。
理由は、消費者の買いだめかもしれない。また、必需品だから、価格が高くなっても買い控えができないからかもしれない。いづれにしても、この状態を長く続けるわけにはいかない。消費者はどうするか。
予想されることは、コメより安い価格のメンやパンに代替することである。消費者のコメ離れである。
他方の、コメの供給者である農業者はどうか。米価が上がったことで、ようやく積年の赤字を減らせるという程度である。もしも米価が元に戻ったら、これまでの脱農の勢いが加速するだろう。
米価が上がってもダメ、下がってもダメなのである。進退は窮まった。
どうするか。
それには、冒頭で言ったように、市場原理主義農政から決別し、政治が市場へ介入して、二重米価制度を採用するしかない。
◇
3か月後には、参院選がある。衆院選と同時選挙になる、と予想する人は少なくない。それまでの、熟議の国会で、コメ政策についての熟議を期待したい。熟議の中心は、市場原理主義農政から脱却して、二重米価政策を採るかどうか、になるだろう。その具体的な制度についての熟議になるだろう。
農業者をはじめ、食糧安保を重要と考える国民は、括目して聞いている。そして、3か月後の参院選で参考にするだろう。
【注】
〇 資料は 総務省の消費者物価指数と家計調査の結果である。
〇 コメの購入量は、直接の資料がないので、コメの購入金額をコメの消費者物価指数で割り算して推計した。
つまり、次の方程式から推計した。
購入量 × 価格 = 購入金額
この式の両辺を価格で割って
購入量 = 購入金額 ÷ 価格
この式の右辺の購入金額と価格は、公表した資料をそのまま使った。そうして、左辺の購入量を推計した。それを世帯人数で割り算して、1人あたりの購入量にした。
ただし、価格は単位のない指数なので、購入量も単位のない指数になる。
〇 この購入量は、閏年修正を行った。また、季節変動が激しいので、平滑化するために、直近12か月の移動平均値とした。
(2025.04.07)
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