(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
世の中のさまざまな制度には、すべてに「目的」があります。その違いを理解するのは実は大変重要ですが、意外と忘れがちになります。
2025年4月22日、(一財)日本GAP協会は「ASIAGAPの2028年終了とJGAP(+SA)への一本化について」を発表した1。現在の日本には複数のGAP(Good Agricultural Practice)が存在している。その中でも、JGAP、ASIAGAP、グローバルGAPが代表的である。これらの制度には違いがあるが、農業現場では、それぞれを実践する人々の努力により、着実に日本の農業水準は向上してきている
今回の発表に至るには多くの議論があったと想像されるが、筆者に詳細はわからない。ただ、重要な点がある。日本人に限らず、人は併存する複数のものがあると、どうしても優劣をつけたがる傾向があると言う点だ。これは陥りやすいトラップ(罠)である。
むしろ、これら複数の制度には異なる「視点」や「目的」がある、という本質的な点を理解する必要がある。以前にも触れたが、これは英語の能力試験におけるTOEFLとTOEICの関係に非常によく似ている。
TOEICは主として、日本国内のビジネスの現場で役に立つコミュニケーションとしての英語力の水準を図る能力試験である。学生の英語力の目安としてTOEICの受験をすすめている大学も多い。また、就活においてTOEIC○○点などという点数が一定の効果を発揮する場合もある。
これに対し、TOEFLは英語圏の大学や研究機関などに留学を考える場合に求められる外国人としての英語の能力試験である。
少し考えればわかるが、日本国内でも英語を使用する場合はそれなりに増加している。日常生活やビジネスの現場で状況に応じて使う英語と、海外の大学や大学院等で何かを学ぶ道具として用いる英語に求められる内容とは大きく異なる。
この2つは「使われる場面・状況」が異なる。最近の言葉で言えば、求められるスキルセットや高得点を取るためのアプローチも異なる。つまり、仮に会話一つを例としても、「誰と」「どこで」「何について」話すのか、この中身が大きく異なるため、何を習得の「目的」とするかが重要であるかがわかる。
さて、GAPの話に戻ろう。基本的にJGAPやASIAGAPは、日本の農業現場や国内流通などを十分に理解し、その上で実効性が高い仕組みとしてデザインされていると考えられる。ASIAGAPはそれが国際水準であると認められていたわけだ。これに対して、グローバルGAPはかつてユーロGAPと呼ばれていた時代もあったように、ヨーロッパ起源の「視点」の上で、世界のバイヤーや輸入国の規格に適合することを重視している。
GAPの取得を目指すに際し、仮に、地域の学校給食や地産地消、そして国内生産を支えるためのGAPならグローバルGAPである必要は全くない。これに対し、海外輸出や国際調達などを考えるのであれば、やはりグローバルGAPは視野に知れておく必要がある。それだけのことだ。
いずれに制度においても、それぞれの目的のために努力をしてきた人がおり、その努力そのものには優劣はない。重要な点は「目的や使用する場所」が異なれば、習得すべき言語、つまり認証が異なるという点である。
大学の教育現場から見た印象としては、今後のGAP教育においては、JGAPを日本の農業現場での具体的な実践マニュアルのような形で伝える一方、世界の市場に出たい学生には異なる「言語」=「認証」を習得する必要があるという形での二重構造のカリキュラムが必要になるかもしれない。GAP認証は、一見、手続き認証のように見えるかもしれないが、本質は、何を目的として、どこでビジネスを展開するかという「戦略的認証」であるということだ。
* *
資格の有無とビジネスの成否は違いますし、資格が必要な世界も不要な世界もあるということに似ていますね。
1 (一財)日本GAP協会「ASIAGAPの2028年終了とJGAP(+SA)への一本化について」「ニュース詳細、アドレスは、https://jgap.jp/news/1332 (2025年4月24日確認)
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