小さくなって人気が出たヒマワリ【花づくりの現場から 宇田明】第62回2025年6月19日
切り花の育種では、花を大きく豪華にすることが目標とされてきました。
例えばダリアは、北米原産でありながら、古くから生け花の花材として親しまれてきた「和花」でした。
しかし、秋田国際ダリア園の鷲沢幸治氏の育種によって、直径20cmを超える豪華な「洋風」切り花へと変身。今やバラをしのぐブライダルの人気切り花になっています。
また、キキョウとは関係のないリンドウ科のトルコギキョウも同様です。
かつてはキキョウのような濃い紫の一重の花でしたが、育種によって人のこぶしほどの八重の巨大輪へと進化を遂げました。
しかし、こうした大きな花を求める流れに逆行するように、ヒマワリは巨大な花をあえて小さくすることで、人気の切り花となったのです。
ヒマワリのイメージは、夏のギラギラと照りつける太陽、青い空、入道雲、うるさいほどの蝉の声。
そして、なんといっても映画「ひまわり」で、ソフィア・ローレンが夫を探してウクライナを訪れるシーン。地平線まで広がる一面のヒマワリ畑と、ヘンリー・マンシーニが作曲した哀愁を帯びたテーマ曲が印象的です。
この映画に登場するヒマワリは搾油用(サンフラワーオイル)で、ウクライナの主要農産物です。
メジャーリーグのドジャース・大谷翔平選手など、ホームランを打った選手が浴びせられているのはスナック用のヒマワリのたね。
このように、海外ではヒマワリは食用として広く利用されていますが、日本では長い間、花壇の花でした。

今日のようにヒマワリが切り花として利用されるようになったのは、福岡県の中島礼一さんが周年開花を目指して1969年に育成した品種「太陽」が発端です。
この「太陽」を育種素材として、タキイ種苗が1991年に育成したのが、無花粉のF1品種「サンリッチシリーズ」です。
このシリーズは、品種によって日長反応がすこしずつ異なるため、品種とたねまき時期の組み合わせによって一年中花を咲かせることが可能になりました。
さらに、このシリーズの大きな特徴は、周年開花だけでなく、小さな花が上向きに1茎に1輪だけ咲くことです。また、茎が細く硬いため、切り花に適しています。
花壇のヒマワリの花は人の顔より大きく、草丈も身長より高くなりますが、切り花用のサンリッチシリーズの花は直径が10cm前後で、草丈は1〜1.5mほどです。
ヒマワリにはもうひとつの「逆転の発想」があります。
ヒマワリの弱点は、葉が大きく、傷つきやすく、しかも垂れやすいことです。
切り花は葉も商品の一部で、美しいことが求められていますが、ヒマワリは育種で葉を改良するのではなく、葉をすべて取り去って出荷することを選びました。
その結果、写真のように見た目がすっきりし、おまけに葉からの蒸散がなくなり、萎れにくくなって日持ちが格段に伸びました。
このように、ヒマワリは育種によって花が小さく、茎が細くなり、使いやすくなったことに加え、葉をすべて除去するという発想の転換によって、人気の切り花となることができました。
今では、日本だけでなくヨーロッパをはじめとする海外でも、切り花品種のほとんどがサンリッチシリーズになっています。

では、一年中いつでも花を咲かせることができるようになったヒマワリの出荷状況はどうなっているのでしょうか。
図は、日農ネットアグリ市況における過去5年間の月別入荷量と単価です。
この図から、切り花ヒマワリの入荷量は冬にはごくわずかではあるものの、周年供給されていることがわかります。
このことから、切り花ヒマワリが一年中花を咲かせることができていることは明らかです。
しかし、入荷量は7月をピークとしたきれいな二等辺三角形を描いています。
なぜ冬には出荷量が少ないのでしょうか?
それは、月ごとの平均単価を見れば一目瞭然です。
花は希少性が重んじられる品目です。
しかし、冬のヒマワリは大変珍しいにもかかわらず、単価は見慣れた夏よりも安価なのです。
最高値はお盆のある8月で72円ですが、冬は40円台に過ぎません。
冬は生産コストがかかるため、単価が安ければ採算が合いません。
キク、バラ、カーネーション、ユリなどの主要品目は周年、安定供給が求められますが、ヒマワリは夏のイメージが定着した花です。
いわゆる「旬」が求められる花であることがわかります。
食用農産物と異なり、花は「見た目」がすべてであり、すぐに飽きられるという宿命があります。
消費者に飽きられないためには、育種によって「見た目」が変化した品種を提供し続けることが重要です。
稲や麦などの穀物類は官公庁育種、野菜は民間企業によるF1育種が主流です。
しかし、花は品目が多いうえにそれぞれのマーケットが小さいため、種苗会社が手がけることができる品目は限られます。
そのため、生産者育種が大きな役割を果たしているのです。
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