米価暴落のXデーは来るか【森島 賢・正義派の農政論】2026年4月6日
●当事者の覚悟
表題は、やや激しく響くかも知れない。農業者の不安を煽るような予測に聞こえるかも知れない。だが、それを意図していない。
遠い以前のことであるが、神谷慶治先生が言われたことがある。「予測は、当事者に覚悟を促すものだ」と。
当時、若かった筆者は、この言葉を次のように解釈した。予測とは、当たることを目的にした、単なる予言ではない、と。そうではなくて、今のままの政治が続けば今後はこのようになる、それでいいか、ということを事実と論理に基づいて、当事者に示して覚悟を促すものだ、と。
農政のばあい、当事者は農業者だけではない。全国民である。
また、別の先生は営団地下鉄の東西線の新規開設の前に、綿密な調査に基づいて、赤字路線になることを予測した。営団は懸命に駅前開発などを行った。その結果、ドル箱路線になった。先生は言った、「良くない予測は当たらぬことが良いことだ」と。われわれ学生は、妙に納得したものだった。
もう1つ。ある作家が言った。「街角の占い師が数十年もの長い間 続けているのは、それなりの理由がある」と。理詰めではないが、相談者は反省するのだろう。
●卸売米価と小売米価と先物米価の動向
さて、日本の米価の最近の状況である。
下の図が、それである。価格は市場の実態の影である、という。この影は、市場のどんな実態を映しているか。

この図は、卸売市場と小売市場と先物市場の3つの市場について それぞれの米価の最近の動向をみたものである。2021年9月から最近までである。先物市場は一昨年8月に開設されたので、先物米価はそれ以後から先週末までである。それぞれを説明しよう。
はじめに卸売米価である。この資料は、農水省公表の「米の相対取引価格」である。これが、そのまま農家の手取り米価になるわけではない。卸売業者の経費が含まれている。卸売業者の中には、農協も含まれている。図の中で、毎年8月と9月の間に断絶があるのは、9月から新米に代わるからである。
つぎは小売米価である。これは、総務省公表の「小売物価調査」を資料にしたものである。通常は、精米5kg当たりにするのだが、ここでは、12倍して精米60kg当たりにした。玄米と同じにしたのである。60kgの玄米が60kgの精米になるわけではない。精米歩留まりがあるからである。また、篩目の大きさの問題もある。だが、比較し易いように重量を揃えて60kg当たりにした。
つぎは、先物米価である。これは、堂島取引所で発表している「米穀指数」である。図で示したものは、それぞれの時点での期先のものにした。
図の目盛は、縦軸を対数目盛にした。そうして、上下への同じ巾の動きを、同じ増減率にして、見易くした。
●実需と仮需
さて、需要には実需と仮需がある。
実需とは、当面の消費のための需要である。仮需とは、将来の値上がりを予想する人が、いま安いうちに買っておく、というものである。反対に、将来の値下がりを予想する人は、将来買い戻す約束をして、いま高いうちに売っておく、というものである。そのための市場が、先物市場であり、そこでの価格が先物価格である。
このように、米価には現物米価と先物米価がある。そして、現物米価には、卸売米価と小売米価とがある。この3つの米価の最近の状況を示したものが上の図である。
この図から、2つの点を注目しよう。
1つは、3つの米価がほとんど同じ動きをしていることである。これは、先物米価を含めて、それぞれが同じ上昇率で上がっていることである。このことは、実需の米価にも仮需の米価が強く影響していることを示している。これは、実需の米価は、現在の需給状態だけを反映しているのでなく、将来の需給状態を想定して形成されていることを意味している。
では一体、将来の需給状態は、どのように決まるか。将来の米価は、どう決まるか。それは、決まるか、ではない。決めるか、である。
●米価は政治で決まる
それは、政治が決めるべきことである。平時に増産して、国内需要を喚起することである。そして、国内需要を超える分は備蓄し、非常時には十分に放出する。幸運にも平時が続き、備蓄の役割を終えたコメは、メンやパンや家畜の飼料にする。そうして輸入に大量に依存している麦などに代替し、食糧自給率を高めることで食糧の安全保障に万全を期することである。
このためには、農業者にとっては増産したくなる程に高価で、消費者にとっては、メンやパンよりもコメを食べたくなる程に安価でなければならない。
そのようにするのは、安全保障に、ことに国民の生命に関わる食の安全保障に責任を持つ政治の責任である。
●卸売米価と先物米価との乖離
もう1つ図に注目すべき点がある。それを見よう。昨年の秋までは、実需の米価と先物米価の間に、大きな乖離がなかった。しかし、昨年秋から大きな乖離が出てきた。先物米価を見ると、昨年10月23日は36、200円の最高値をつけた。しかし、下降の一途をたどり、先週末は27、000円になった。25%もの暴落である。一方、この期間の卸売米価を見ると、下がってはいるが、ゆるやかで、先物米価のような暴落ではない。
これは何を意味するか。
●農協の覚悟
巷間で言われていることだが、農協の市場支配率は30%に満たないという。これは危機を煽るもので、本稿の趣旨に反する。
卸売市場での実態を見よう。卸売市場には生産した米の全部が出てくる訳ではない。自家消費、加工用、直売、これらの米は卸売市場には出てこない。これらを除いて、卸売市場へ出荷された量を農水省の資料でみると、2023年産は299万トンだった。このうち農協が出荷したのは、279万トンだった。9割を超えている。だから、農協の将来予測が色濃く反映されていると思える。
その一方で、先物価格は農協関係者以外のコメ業者の将来予測が、色濃く反映されているだろう。
両市場の予測の違いは何か。
先物市場での予測は、コメをめぐる今の状況が今後も続く、という想定のもとでの予測だろう。
これに対して、卸売市場での予測は、今の状況を変革する、という農協の覚悟を込めた予測だろう。違うのは当然である。
農協は、どんな覚悟を込めた改革を目指すか。
●共販は農協が勝ち取った権利
それは、共同販売率の向上しかない。
共同販売は、価格を上げるための、強力な業者の談合として、独禁法で禁止されている。しかし、協同組合は適用を除外されている。
これは、100年以上も前から、先人たちが、農民運動の中で、農協運動の中で、資本の側から勝ち取った貴重な権利である。
米価の暴落が予測される今こそ、この権利を思う存分に使うべきではないか。それは、共販率の画期的な向上である。
ここには、市場原理主義の側から、猛烈な反対が出るだろう。それを蹴散らさねばならない。そうして、Xデーの到来を阻止しなければならない。
こうした中で、消費者にとってはコメ離れを防げるような安い米価を、そして生産者にとっては離農を防げるような米価を、政治に要求すべきだろう。
(2026.04.06)
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