米高騰 需要増に生産追いつかず 首相「増産に舵を切る」2025年8月6日
政府は8月5日、第3回米の安定供給等実現関係閣僚会議を開催した。会議では小泉農相が米の価格高騰の要因を説明、需要量に対して生産量が不足していたとして、これまで策定していた「需給見通しが誤っていた」ことを認め、今後、新たな需給見通しを策定する方針などを明らかにした。また、石破茂首相は「生産量に不足があったことを真摯に受け止め」、「増産に舵を切ること」などを表明した。
そもそも生産不足
農林水産省は、需要見通しを人口減少などによって毎年10万tづつ減少していくというトレンドを前提に、翌年産の需要量見通しと生産量の見通しを作成してきた。
しかし、高温障害によって精米歩留まりが悪化し、2023年産米では精米を確保するための玄米が約10万t多く必要になったことに加えて、検証の結果、コロナ禍明けで3200万人に増えた訪日外国人による米の需要量が23/24年度では5.6万tとなったと推計された。
また、総務省の家計調査では二人以上世帯の購入量が23/24年度では前年より約2万t増加するなど、需要量は需要見通し682万tより23万t多い705万tとなった。一方、23年産米の生産量は661万tで、需要実績に対して44万t不足した。
翌24/25年も同様で23年産米にくらべれば改善したものの、精米歩留まりの悪化による玄米需要増が約6万t、インバウンド需要が6.3万t、家計購入量が対前年比で約11万t増など、需要量は需要見通し674万tより37万t多い711万tとなった。一方、生産量は679万tで農水省は昨年の出来秋以降、「前年産より18万t多い」ことを盛んに強調していたが、検証の結果、生産量は需要量に対して32万t不足していた。
在庫減で調達競争へ
このように生産量が需要量に対して不足していたことから、民間在庫取り崩して供給量を確保、24年6月末には当初見通しの在庫量184万tが153万tとなった。
さらに24/25年でも生産量が不足したことから、民間在庫を取り崩し25年6月末は当初見通しの152万tが121万tとなった。ただし、政府備蓄米の放出で157万tとなっている。
民間備蓄は多くが実需者との結びつきが決まっており、農水省は緊急事態に対応できる「バッファーになり得ない」ことから、卸売業者の間で今年の端境期には米が調達できないとの不安から競争が発生と分析、スポット市場など比較的高い価格の米を調達する動きに拍車をかけた。
農水省は米価格の高騰の要因に、需給に危機感を持った卸売業者が高値の米を調達を挙げ、それが小売り価格に反映されたという点を強調する。
農水省が価格高騰招く
今回、農水省はこうした分析を示したが、では、店頭から店頭から米が消えた昨年8月から秋口にかけて、備蓄米の放出を求める声が出るなかで、何と言っていたか。「新米が出回れば流通は円滑になり、価格も落ち着いていく」と強調していた。しかし、実際はそうはならなかった。
農水省は当時の考え方として、米の生産量は足りているとの認識があったとする。
そのうえで▽24年6月の民間在庫量は156万tと前年の197万tから大幅に減少していたが、在庫率は22.2%で過去の在庫率(2011年22.0%、12年22.1%など)から問題ない水準、▽販売数量は落ち着いており需給は緩和していく、▽全農など大口集荷業者を通じた取引量を把握すれば全体を把握できるなどと、流通実態の把握に消極的だったと総括した。
さらに政府備蓄米の放出については、前年産より18万t生産量が多く不作ではないことから、放出は不作時というルールに縛られてできなかった。
農水省はこうした対応が卸売業者などの不安感を払しょくすることができずに、「さらなる価格高騰を招致」したと行政の対応が価格高騰の一因でもあることを認めた。
その後、今年になって政府備蓄米の放出を決めたが、当初は、どこかで滞留している米の在庫が市場に出回ることを期待してのことだった。
しかし、食糧法に定められた全届事業者7万事業者を対象にした在庫調査では「在庫の抱え込みがあったというデータはなかった」(農水省)とし情報発信が間違っていたことを農水省は認める。
米の在庫にバッファー機能
関係閣僚会合で石破首相は、農水省によるこのような高騰の要因分析について「さらなる検証が必要な部分は残るが、こうしたことが価格高騰を招いてしまったと考えざるを得ない」と認め、今後の政策の方向について「1つ目に増産に舵を切ること、2つ目に耕作放棄地の拡大を食い止め、これからも農地を次世代につないでいくこと、3つ目に今回の米国の新たな関税措置をものともしない輸出の拡大に全力を傾けること」を挙げた。
農水省がまとめた今後の方向性は以下の通り。
①需給の変動にも柔軟に対応できるよう官民合わせた備蓄の活用や、耕作放棄地も活用しつつ、増産に舵を切る政策へ移行
②農地の集積・集約、大区画化やスマート農業技術の活用、新たな農法(節水型乾田直播等)を通じた生産性の向上
③米国の関税措置による影響を分析しつつ、増産の出口としての輸出の抜本的拡大
④精米ベースの供給量・需要量や消費動向の把握等を通じた、余裕を持った需給見通しの作成と消費拡大
⑤流通構造の透明性と確保のための実態把握や流通の適正化を通じた消費者・生産者等の納得感の醸成
⑥作物ごとの生産性向上等への転換、環境負荷低減に資する新たな仕組みの創設等を通じた水田政策の見直し(令和9年度)
このうち、①の官民合わせた備蓄では、今回のような需要増に備えた備蓄を民間でも行い、需給を調整するバッファー機能を持たせることも検討する。耕作放棄地の活用については、地域計画で10年後に担い手のいない農地が3割あるとの実態も踏まえ、担い手確保と農地集積による生産性向上で耕作放棄地化を防ぐことや、中山間地域の放棄地活用も検討する。
④は需給見通しの作成だが、玄米だけでなく精米ベースの供給量や需要量などを把握も行ったうえで作成する。需要見通しの作成は食糧法で義務づけられており、農水省は遅くとも10月には来年にかけての需要見通しと、生産量も示した需給見通しを示す方針だ。
米の関係閣僚会合は、米高騰の要因と農水省の対応を検証することになっていたが、今回で検証を終えた。その後、短期と中長期の対応策を検討することにしており、水田政策の見直しが議論され、来年の6月ごろにも一定の結論が示される見通しだ。
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