【農業改革、その狙いと背景】米輸出に「日本農業の希望」はない 大泉一貫氏の「稲作偏重農政」への反論 村田武・九州大学名誉教授、愛媛大学客員教授2014年9月2日
・“稲作偏重”論その根拠を問う
・目指すモデルは穀物重視の仏・独
日本農業の根幹は米作にあった。これが「稲作依存」となり、農家の創造的意欲を削ぎ、今日の農業衰退を招いた――。今日、政府・規制改革会議の論調の底流にはこの考えがある。果たしてそうだろうか。村田武・九州大学名誉教授が反論する。
規制改革会議は、「農業改革」に経済成長を託す「アベノミクス成長戦略」を後押しする「農協改革に関する意見」を2014年5月に発表した。この規制改革会議には農業分野について専門家の特別部局として「農林水産業タスクフォース」が設置されており、大泉一貫・宮城大学特認教授が専門委員として参加しておられる。
大泉教授は、この7月に刊行された著書『希望の日本農業論』(NHK BOOKs)で、「農協改革」を「各農協が自主的に単独で、または連携して戦略を策定し、実効的に成果を上げることができる仕組みを作る」ための改革案であるとし、[1]農業協同組合法に基づく中央会制度の廃止、[2]全農の株式会社化、[3]単協が農業振興(農産物販売などの経済事業)に全力投球できるような健全な運営に向けた改革の3つをかかげたが、「これらは偶然にも本書の主張と合致する」とされている。
氏の主張の根底には、「政官業のトライアングル」が推進する「農家保護政策」であり、「弱者に対する社会福祉政策」であるとする「稲作偏重農政」に対する断罪がある。
稲作偏重農政が農家や農協の米価依存体質を生み出し、日本農業衰退の元凶になったと、口を極めて論難される。戦後日本の農産物価格政策の根幹に食糧管理法の二重米価制と生産費所得補償方式による生産者米価支持があったことはその通りだろう。
◆“稲作偏重”論 その根拠を問う
しかし、1961年の農基法農政のもとでの加工原料乳生産者補給金、肉用牛価格安定事業、肉用子牛生産安定、甘味資源特別措置等々、選択的拡大品目を中心に幅広い分野で農産物価格支持制度が整備されたことを見逃すべきではない。わが国の農基法以降の農政を稲作偏重農政とするのは行き過ぎた単純化であり一面的な見方である。
また、民主党の戸別所得補償をバラマキ政策だ、構造改革を阻害するものだと批判されるが、農村の現場では戸別所得補償が農地集積の障害になっているという声は聞かれない。戸別所得補償では「零細な赤字農家」を支え切れていないのである。むしろ麦、大豆などの直接支払交付金が畑作物の作付け増加に導いており、稲作偏重農政ではないことを評価すべきではなかろうか。
氏は、稲作偏重農政論の最大の問題は、そもそもわが国農政がなぜ水田作物のなかで主食用米に固執せざるをえなかったかを問うことを巧妙に避け、「政官業のトライアングル」に罪を押し付けていることだ。1970年代後半に稲作減反面積の強化が不可避になるなかで、飼料米生産を提案した農民運動に対して農水省がまったく冷淡だったのはなぜだったかと考えておられるだろうか。麦や大豆、飼料穀物などを水田農業の戦略的作物として本作化させる田畑輪転と水田農業の複合化・総合化になぜ向かわなかったのであろうか。
それは、日米安保体制と補助金つきダンピング輸出によるアメリカ産麦・大豆・飼料穀物の大量輸入を前提にした穀物供給構造のもとに置かれたわが国の対米従属的農政ならばこその稲作偏重農政だったのではないか。農水省に稲作偏重農政を強いた根本要因を隠蔽し「政官業のトライアングル」に罪をなすりつけるのは許せない。 また、日本農業がめざすべき型は「成熟先進国農業」だという議論はあまりに粗雑である。世界の農業に3つの型があり、[1]開発途上国型農業、[2]新大陸先進国型農業に対置して、[3]大陸ヨーロッパの成熟先進国型農業があるとされる。そしてこの成熟先進国型農業に共通するのは、「穀物生産、原料生産から脱却し、特定の農産物に特化する傾向がある。新たな価値創造を重視する市場開拓・商品開拓を課題とする農業」だという。
◆目指すモデルは穀物重視の仏・独
付加価値の付け方として評価されるのは、オランダの園芸、デンマークの畜産、イタリアのスローフード、フランスのワインと食文化だ。氏が推奨する経営ノウハウと資本力をもった農業経営者がめざすべき方向には、知識産業化をめざすオランダ型がありえるだろう。しかし、みるべきは人口が5000万人を超えるフランスやドイツでないか。
これら大陸ヨーロッパの中心国は、穀物や原料の生産から脱却などしていない。WTO体制が強いたアメリカ産穀物との価格競争のなかで、低投入の環境にやさしい輪作農業を維持し、有機農業や再生可能エネルギー生産との複合を含め、農業の基礎たる穀物・原料生産の安定に苦闘しているのを知らないわけではあるまい。日本農業のめざすべき型を考えるとき、このフランスやドイツの苦労をこそモデルにすべきでないか。
氏の提案される「収益力の高い大規模水田複合経営」論の何と貧弱なことか。米単作大規模経営はTPP妥結による米価下落のもとではもう時代遅れはわかっている。ところが氏には、田畑輪換を可能とする水田基盤整備を推進し、主食用米の完全自給を確保したうえで麦・大豆・飼料穀物などの本作化をめざすべきとは主張できないはずだ。結局、「稲+α」のαは野菜しかない。
結局のところ、氏がいわれる「日本農業の希望」は、「炊いたご飯をコメの食べ方の世界スタンダードにするコメ輸出戦略」に収斂する。コメ輸出を10万t、50万tに拡大するにはコメ反収を1t、1.5tに引き上げて価格競争力をアップできるはずだといわれる。稲作偏重農政脱却と稲作生産調整の廃止を叫び、それには農協改革が不可欠だとし、「稲作を輸出産業にできれば、日本の地域経済は大いに活性化するだろう」といわれる。
何のことはない。氏こそ稲(主食用米)作偏重主義に陥っているではないか。農協を氏のまったく見通しの立たない日本農業論の道連れにされてはたまったものではない。
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