【クローズアップ】乳製品過剰で緊急対策検討 酪農家支援へ22日中酪理事会 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年11月22日
不需要期を迎え生乳需給は深刻度を増す。10月の中央酪農会議の受託乳量は道外移出の落ち込みを反映し、乳製品在庫が累積する構図をより鮮明にした。こうした中で中酪は22日に理事会を開き、喫緊課題の年末年始の生乳廃棄回避、出荷抑制へ実効策を検討する。
■加工リスク対策で支援
中酪は22日の理事会で、具体的な生乳需給対策を決める。年末年始の生乳廃棄を回避するには、生産現場での出荷抑制も含め指定生乳生産者団体のより強力な対応が欠かせないと判断した。
牛乳消費拡大の「出口」対策に加え、プール乳価と脱脂粉乳など乳製品仕向けの乳価差補填の加工リスク対応やいわば酪農家段階の「入り口」対策も含む。それだけ、現在の乳製品過剰が深刻な表われだ。業界全体では、10月末にJミルクが需給対策の支援策を示したが、今回の中酪の措置は生産者団体としての独自の対応となる。
■北海道増産続く
中酪まとめの10月受託乳量と用途別販売実績は、全国の約6割を占める北海道が前年同期比で103・6%と引き続き増産ペースが続く。4月から10月までの累計でも242万トン、同102・7%となっている。北海道の単月生産量は35万トン前後なため、通年で400万トンの大台突破を確実な情勢だ。
都府県も前年同期を上回る。指定団体別で北海道に次ぐシェアを持つ関東生乳販連の10月乳量は8万5500トン(同102・8%)と高い伸び。都府県全体では約25万3200トン(同101・3%)と増産が続く。ただ、都府県は県によって増減のばらつきが目立ち、関東でも群馬などが前年同期比でマイナス。それを関東で最も生産量が多い栃木が同6・7増と伸び率が高く、全体の底上げをした。
■用途別は飲用低迷
北海道、関東など主産地で増産基調が続く中で、用途別の10月販売実績は飲用牛乳とヨーグルトなどの発酵乳仕向けが落ち込んでいる。
生乳需給改善には、飲用牛乳とヨーグルトの需要回復が大きなカギを握るが、北海道の飲用向けは前年同期比93・5%、発酵乳向けは同90・4%。半面で脱脂粉乳、バターの乳製品向けは同111・8%。牛乳の販売低迷に伴い乳製品仕向けが増え脱粉、バター在庫が記録的に積み上がる悪循環に陥っている。
一方で光明もある。新型コロナ感染の以前より収まりつつある中で、レストラン、外食など業務用需要に大きく左右される生クリームが北海道で10万6000トン、同101・0と前年をわずかだが上回っている。全国でも同様の傾向だ。
■生乳道外移出11月も低調
例年、夏場の生乳逼迫が大きな問題となり、大産地・北海道からの都府県への大量の移出で急場をしのぐが、今年は一変した。
気候変動で牛乳消費が伸び悩んだ半面、生乳生産は好調で需給ギャップが広がった。これに、コロナ禍での業務需要低迷が加わり、乳製品過剰が一段と深刻化した。
道外移出が不調だと、北海道生乳は道内の工場で保存の利く乳製品に加工せざるを得ない。道外移出回復には、首都圏、関西圏など大消費地の飲用牛乳、ヨーグルトの需要の伸びが欠かせない。だが、いまだに足踏みが続くのが実態だ。
11月になっても道外移出は低迷のまま。都府県の飲用需要を補う道外移出生乳は、10月も前年対比で約15%減の4万2000トン台と大幅に落ち込み、5カ月連続で前年割れの異常事態となっている。都府県で、需給不均衡から乳製品仕向けへ大量の余乳処理が行われているためだ。
■年末年始に危機感募る
こうした中で、酪農・乳業界の当面の最大課題は、生乳不需要期のピークとなる年末年始の処理不可能乳の発生だ。Jミルクでは生乳出荷抑制など緊急需給調整に2・5億円、消費拡大の取り組みの含め当面の緊急需給対策に総額3億円を支出する。このままでは5000トンの生乳廃棄の試算も公表し、業界全体の危機感を共有した。
■生産者団体で独自策
だが、何と言っても年末年始での生乳廃棄回避のカギを握るのは、指定団体の指導力を発揮し、酪農の生産現場での対応だ。22日の中酪理事会は、生産者団体としての独自支援策を示す。合わせて深刻化する乳製品過剰是正への抜本策も協議する予定だ。
中酪は1年前に、年末年始の緊急対策を中心に12月から翌3月までの期間限定で、乳価の差額補填に向け「加工リスク平準化緊急対策」として2億円を計上した経過もある。
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