【クローズアップ】畜酪政策23日に実質決着 焦点は脱粉2万トン、80億円への国支援 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年12月21日
2022年度畜産酪農政策価格・関連対策は、21日に論点整理し23日に実質決着する。最大焦点は生乳過剰問題だ。生処で合意した脱脂粉乳2万トン処理(現状約80億円相当)に、国がどの程度支援するのか。財政割合次第で酪農家負担は大幅に減る。政府・与党攻防は週明けから一挙に本格化する。
■生乳過剰問題一挙に全国課題に
生乳需給緩和から、年末年始の生乳廃棄が約5000トン出かねない異常事態が、12月中旬からマスコミで一斉に全国報道され、過剰問題は一挙に国民の関心事になった。SNSなどを通じさまざまな情報に転用され拡散した。
中央酪農会議、日本乳業協会、Jミルクと中央3団体も14日から消費拡大と生乳出荷抑制を幹部が呼び掛ける緊急動画ビデオを流すなど、年末に向け危機感が募る。業界に比べ対応が遅れていた農水省も17日から「NEW(乳)プラスワンプロジェクト」を立ち上げ、牛乳消費喚起に本腰を入れ始めた。
■自民江藤「算定通りにはいかない」
この年末年始の生乳廃棄危機の背景には、積み増す乳製品在庫と年間400万トンある飲用牛乳の消費伸び悩みがある。
畜酪論議に残された時間はわずかで、21日の臨時国会閉会を前後して今週一気に動き出す。正式決定となる24日予定の食料・農業・農村政策審議会畜産部会を前に、21日午後に論点整理を経て23日に農業団体の意向を踏まえながら政府・与党間で実質的な決着となる。20日からは22年度畜酪対策で大詰め調整に入った。
課題に酪農対策で、農水省は現行キロ10円85銭の加工原料乳補給金等(うち補給金8円26銭、集送乳調整金2円59銭)とかつての加工原料乳限度数量に相当する総交付金対象数量345万トンの扱い。さらには過剰乳製品対策がある。
農水省幹部は当初、「補給金、交付数量は算定ルール通り」としていたが、自民党内の反発が相次いでいる。中でも事実上、畜酪政策決定を左右する農林重鎮の発言に注目が集まっている。
自民畜産振興議連の森山裕会長は「算定方式は尊重した上で、コロナの影響をどう見ていくのか。生産者がこれから頑張っていける結論にしたい」と強調。江藤拓総合農林政策調査会長は15日の党畜酪委で「ルールに沿った計算式も使うが、その中に政治家の意見や判断を入れていく」と、あくまで政治判断を明言した。両者とも農相経験者であり、特に江藤氏は畜産部を畜産局に格上げした当事者だけに、発言の持つ意味を農水省は極めて重く受け止めざるを得ない。
■酪農3点セット絡み合う
今回の酪農は補給金・交付数量・過剰対策の3点セットが複雑に絡み合う。
生産者側としては、輸入飼料、燃油高に加え、生乳廃棄回避へ加工向けが増えている実態から補給金、集送乳調整金を引き上げ、補給金対象となる345万トンの交付数量を拡大、さらには過剰対策への支援も求めたいところだ。だが、全てに相当額の財政負担が生じる。コロナ禍の特殊事情をどう配慮し算定に組み込むかはまさに政治判断となる。一方で、生乳過剰深刻化という実際の需給も無視できないのが実態だ。
■「乳か肉か」両にらみ
一方で畜酪対策を議論する場合には、肉用牛など畜産と酪農との政策バランスも問われる。地域によって畜種が大きく異なり、利害が違うためだ。
また北海道と都府県との地区バランスも問われる。特に酪農のうち加工原料乳は北海道、家族経営や飲用乳環境整備対策は都府県、畜産のうち和牛対策は主要産地の南九州への配慮も欠かせない。有力農林議員の勢力図も畜酪決定は色濃く反映するのが通例だ。
今回は酪農、特に乳製品在庫問題が大きな議論になっているにしても、財政を伴う政策支援は、「乳か肉か」という〈両にらみ〉の行政と政治双方の判断が求められる構図だ。
■財源はどうするのか
こうした中で、先の酪農3点セットの〈連立方程式〉を解くには酪農経営を考えた場合、焦点は乳製品過剰問題の打開に向く。
特に過剰が深刻な脱粉で、生産者団体と乳業メーカーの生処間では2万トン在庫削減で一致している。2万トンは、2019年度末の在庫8万トンと21年度末在庫見込み10万トンとの差。さらには適正在庫水準とされる6万トン程度に近づける意味合いも持つ。輸入代替で国産を飼料用などに振り向ける仕組みで、輸入と国産との差額を補填(ほてん)することが必要となる。現状の試算だと価格差キロ400円として2万トンだと80億円の財源となる。輸入価格が上がっており、輸入品との差額が同300円となれば60億円で済む計算だ。
これに国が支援する。21日の論点整理で農水省は脱粉2万トン在庫削減の支援を明記する方向だ。問題はどの程度国が負担するのか。それによって生産者、乳業の負担は減る。既に北海道ではホクレンと生産者が独自に90億円をかけ、生乳需給是正に取り組んでいる。そこで国の支援額次第で酪農家拠出は大幅減にとなる可能性がある。
問題は国支援の財源。農畜産業振興機構(ALIC)がどれだけ捻出できるかも課題だ。
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