【座談会】 「実学主義」と「農」の進化を両輪にー生命産業の「農」を軸に人材育成(1)2019年6月10日
「実学主義」で知識を知恵に昇華(髙野)
秋田らしい伝統と「至誠」の心で(船木)
(出席者)
東京農業大学学長:髙野克己氏
JA秋田中央会・各連会長:船木耕太郎氏
東京農業大学名誉教授:白石正彦氏
東京農大は創立128年目の今年4月、東京農業大学稲花(とうか)小学校を開校しました。少子高齢化が進む中でも、東京農大の人気は高く、卒業生も各地域・分野で活躍しています。機械化やICT化で農業のあり方が変わりつつあるいま、同大学に対する社会のニーズも変化していますが、教育研究の理念である「実学主義」を貫きながら進化を続けています。髙野克己学長と1971年に農学部農業経済学科卒業のJA秋田中央会・各連会長の船木耕太郎氏に東京農大の教育・研究内容の意義や新たな取り組み、将来への展望、期待を語ってもらいました。
左から髙野学長、船木会長、白石名誉教授
白石 現在、日本の農業者・農家は377万戸。そして、単位農協の役員は1万8000人、職員は20万5000人でうち女性は7万8000人です。その中で、東京農大の卒業生も農業・農村づくりと農協改革などに大いにがんばっていますが、東京農大ではその使命である人材づくりにどのように取り組んでいるのか。まずは、東京農大の理念、歴史、それから3キャンパスの状況など髙野学長にお話しいただきます。
◆新しい農学へ
髙野 本学は1891(明治24)年に榎本武揚公が作られて、東屋というか農作業の小屋のようなところから始まり、現在は東京都世田谷区、神奈川県厚木市、北海道網走市に3キャンパスを構え、1万3000人の学生が学んでいます。農学を専門とする大学として発展してきましたが、農学自体が従来の「農学」という言葉では表せないほど広がっています。地球に生きるすべての生き物と、その生き物が生きるための環境、資源と全てに関わるのが農学。そういう意味では、生命と農の科学という表現の方がいいのかもしれません。
また、東京農大が関わる分野も広がり、農業生産だけではなくて、食品産業、あるいは物流に関わるいろいろな産業人、公務員等として卒業生が勤めています。「学生が就職したい会社100」というランキングの内66社に東京農大生が入社しています。そして、卒業生1人に対して5倍以上の求人が来ることからも東京農大生が高く評価されている。これは17万人の卒業生が社会のそれぞれの場で活躍していることが大きく認められているのだと思っています。
白石 この4月には「東京農業大学稲花小学校」が開校しました。稲の花とは名前がいいですね。
髙野 そうですね。普通は地元の名前を付けるわけですが、ここ世田谷区桜丘なら「桜」でそれもありふれている。そんなとき大澤理事長が「稲の花はどうだろう」と。東京農大らしい、いい名前だなと思いました。当初は小学校に人が集まらなかったら東京農大の評価がこの地域でよくないのだと心配していましたが、おかげさまで72人の定員のところ800人を超える応募がありました。
白石 髙野学長は、今年4月1日の本学広報紙「TheNEWS東京農大」に榎本公の「学びてのち、足らざるを知る」という言葉を引用していました。「冒険は最良の師なり」とも言いますし、チャレンジは東京農大の原点だと思います。
髙野 社会が高度化、複雑化してくると学校で学ぶ期間が長くなる。そうすると知識量は増えるが、その知識をどうやって生かすのか、高校でも大学でもほとんど行われていません。東京農大には「実学主義」という理念がある。知識を知恵にまで昇華させるためには体験、経験、チャレンジです。そして、榎本公が使われた「冒険は最良の師なり」という言葉も危険を冒しなさいというのではなく、チャレンジをしなさいという意味。教科書に書いてあることを丸呑みするのではなくて、自分でそれが正しいのか確かめなさいと言われたのではないかと思います。東京農大はそういう理念を実現するために教員たちも教科書だけでない、実験、実習、フィールド活動を通して知識を知恵に変えることを教えています。学生たちはしっかりと地に足をつけた学びを基に成長してくれているのではないかと思います。
白石 榎本公の倫理観(エシカル)と科学性、グローバル性を持って物事にあたり、自身の生き方、キャリアをつくり出していくのはとても大事です。
髙野 島国の日本は海で世界とつながっています。地域での一つの行動が世界にどんな影響を与えるのか、あるいは世界で一つの石を投げたことでその波紋が地域とどう関わるのかを考える能力を身に着けるのがグローバルな人材ということではないかと思います。1万年前に始まった農業は命を支える産業で持続可能に全ての命を支えてきた。だから、独り勝ちはできないし、一方的に環境を傷つけることもできず、他の生き物との共存を図っていかなければならない。そういう意味ではエシカルな倫理観を持って行動していかなければならないということを4年間で身に着けてほしいと思っています。
インドで行われている研究調査
◆SDGsで示す社会貢献度
白石 英国の教育専門誌Times Higher Educationの「The University Impact Rankings 2019」で、東京農大は世界総合ランキング301位(日本の大学で19位)ですね。国連のSDGs(持続可能な開発目標)との関わりでお話しください。
髙野 「SDGs」は2015年の国連総会で採択された世界共通の17の「持続可能な開発目標」で2030年までに達成を目指すものです。このうち大学と関係が深い11項目の取り組みを指標化したのが"大学の社会貢献度"で、例えば「すべての人に健康と福祉を」「働きがいも経済成長も」「つくる責任 つかう責任」などの目標があります。このSDGsの目標のほとんどが、東京農大の教育研究に関係しているため、このたび本学各教員の研究がSDGsとどう関係しているかを冊子にまとめました。東京農大の幅の広さ、奥行きの深さを見せることで高校生にも一般の方にも本学がどのような大学なのかを理解していただけると思います。
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