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2019.06.10 
【座談会】 「実学主義」と「農」の進化を両輪にー生命産業の「農」を軸に人材育成(2)一覧へ

「実学主義」で知識を知恵に昇華(髙野)
秋田らしい伝統と「至誠」の心で(船木)

◆実習で農業の本質体感

 

20190610 ヘッドライン ドローン調査研究(厚木キャンパス)ドローン調査研究(厚木キャンパス)

 

 白石 船木会長に、学生時代の東京農大での学びや、いろいろな活動をふまえて今日に至るお話をうかがいます。ご卒業後、秋田県農協中央会にお勤めになり、その後、平成15年から新あきた農協の常務理事、その後、組合長・会長(現在は合併で秋田なまはげ農協会長)になられ、平成29年から秋田県農協中央会会長や県連合会等の会長を務めておられます。

 

20190610 ヘッドライン JA秋田中央会・各連会長 船木耕太郎氏船木会長

 

 船木 4年間の学生生活では、一般教養的なものより日本の農業がどういう位置づけなのか、どういう歴史があって課題があるのかということを20人ぐらいのゼミで常に議論していたことが印象に残っています。また、農業実習を通じていろいろな体験をしました。ゼミで北海道十勝の芽室町に行ったときは、広大な畑作地帯で、1つの畝(うね)の除草作業も1時間近くかかる。大変な広さの中でこういう農業もあるのかと実感したものです。そういう経験が4年間の学生生活の中で勉強するというより、自然と農業を身近なものとして理解する機会をいただいたと思っています。
 卒業後は、こうした勉強を活かせる農協中央会に入りました。社会に出た時によかったのは「実は私、農大(出身)です」というと、それだけで何をやっていたかという前置きがいらないんです。それが農業関係で仕事をさせてもらう上で非常に心強かった。

 

◆100の産官学連携

 髙野 いま船木会長からお話があったように、東京農大と名前を出すだけでネットワークが作れてしまう。そういうよい関係の中、地方自治体や企業、農協を含めて東京農大生が活躍しています。ただ、いろんな学科が増えたことで東京農大のすばらしさが却ってわかりづらくなってきているのも事実。そこで全国約100の自治体、企業、教育・研究機関、農協などと産官学連携することで、それぞれの地域と東京農大の存在を知っていただく取り組みをしています。これは、東京農大生にも東京農大が地域に期待されているのだということを知ってもらう機会になります。
 それから、現代の情報化社会は、地方の状況も課題もインターネットですぐに知ることができますが、バーチャルですから実態を見ずにわかったような気になってしまうのが一番こわい。東京農大の実学主義の教育を妨げているものとも言えます。そういう意味で実学の教育研究のフィールドを数多く求めています。われわれが生きる場所でどんなことが起きているのかということを体験しないと知識は知恵に昇華できないと思います。

 

20190610 ヘッドライン 東京農業大学学長 髙野克己氏髙野学長

 

 白石 船木会長の在学の頃と違い、現在のキャンパスは世田谷に応用生物科学部、生命科学部、地域環境科学部、国際食料情報学部、厚木に農学部、北海道に生物産業学部と広がり、その中にいろいろな学科があります。6学部の特長は。

 髙野 1989(平成元)年に北海道に生物産業学部を作った時から始まり、1998(平成10)年には、一つの農学部を4学部に改編しました。そして、2017(平成29)年には生命科学部を世田谷に作り、「農」への社会からの見方を変えました。新たな学部名称にして、もともと「農」が持っている多面的機能を表に出しました。これにより自然科学・社会科学を包含する農学の素養を持った学生が東京農大で学び、卒業後、地域社会の様々な分野で活躍することを願いました。6学部の学びの内容を生命、食料、健康、環境、エネルギー、地域創成というキーワードで表現しています。

 

◆地域創成の機能発揮

 白石 地域農業・農協の現場から見て東京農大の研究・教育への要望はありますか。

 船木 いろいろな農家、特に法人組織が増えているのでマネージメント、マーケティング、ITといった取り組みを通してどうしたら農業経営を維持できるかを考えられる人、いわば、農業の現場に入って実際にプランナーの機能を発揮できる人材を育てていただければありがたい。

 

◆秋田型農業で革新

 白石 秋田県の農産物のブランド化の取り組みの現状はいかがですか

 船木 「秋田県は農業県」といわれていますが、東北の中でも農業の産出額が最下位の6位。米に依存してきた影響が残っています。他方、2014年から畑作振興のため園芸メガ団地づくりに県と農協グループが取り組み、1産地1億円をめざしています。2015、2016年の7~10月には、東京都中央卸売市場で秋田産えだまめのシェアが30・2%と出荷量日本一を達成。しいたけも販売三冠王をめざし、販売単価、販売数量、販売金額でトップをとろうと頑張っており、花卉もリンドウ、菊、ダリア等を中心に生産が拡大しています。

 白石 徐々に米依存ではなく、多様な品目を導入しているんですね。米自体も新品種の開発が進んでいますか。

 船木 まだ名前はついていませんが、「秋系821」というのがすばらしい食味です。色の白さ、ねばり、香りに優れており期待しています。あきたこまちの上の、つや姫、ゆめぴりかに劣らない品種を売り出したい。あとはネーミングを決めて種籾を確保して増やしていく段階でいま7、8合目です。

 白石 東京農大の10年後をめざした取り組みは。

 

20190610 ヘッドライン 東京農業大学名誉教授 白石正彦氏白石名誉教授

 

 髙野 農のブランド化といいますか、働き方改革やスマート農業と言う時代に、新しく農業参入者を増やすためにはどのように働くかも考えなければならない。作業自体を一般的な社会のサイクルに合わせていくような農業が必要になっていくでしょう。生き物が主体ですからそう簡単にはいきませんが、農業の後継者を定着させるためにも研究を進めていきたい。そのためには作物の研究、品種改良も必要ですが、やはり、機械化や自動化、スマート農業とマネージメントやマーケティングの能力を身に着けていかなければいけない。東京農大で経済や経営を勉強して農業に関わるコーディネーターや経営者として活躍できるような人材育成と研究の場を作りたいと思っています。そういう意味で東京農大が「農」だけではなく、広く人類社会を支える人材の育成に努めていきたい。

 白石 「農業者の所得・生産性の拡大」「地域社会の活性化」と「フードシステム」の3分野の持続的発展を連結・革新する「農協グループの改革」が大きな課題ですが、5年、10年後に向けてこれらの相乗効果を発揮する協同組合らしい取り組みを船木会長はどのようにお考えですか。

 船木 秋田県の農協グループは、これから5年かけて1県1農協改革と農業生産の拡大と農家所得の向上に本格的に挑戦します。まずは、米を中心としながらも、酒造組合と提携した加工用米の生産等も含めて米と園芸のメガ団地を中心に増やしていく。さらに、生産資材の肥料も70近い品目を3つまで絞ったり、共同利用で安く全農のトラクターを導入するなどコストを削減する方向でまとまっています。さらに秋田県では県立の総合病院が1か所という状況なので、県内9つの厚生農協連病院が地域医療を支える公的医療機関として重要な使命を果たしています。

 白石 農業者と農協がリンクしながら新たな目標に向かって行くということですね。

 船木 秋田県では石川理之助翁など明治期の農村リーダーの活躍で1878(明治11)年に「秋田県種苗交換会」が開催されました。戦後は、秋田県農協中央会が主催し昨年で141回目。1週間の会期中の参観者は約100万人で農産物の展示や談話会、農機具展示など多様なイベントを通じて県内外の農業者に有益な情報を発信しています。こうした秋田らしい伝統を引き継ぎ、私の好きな「至誠(謙虚に誠実に向きあう)」を大切にしながら、担い手を地域の中で確保し、法人や認定農業者がきちんとやっていけるような秋田型農協戦略とその具体策を実践していきたい。

 白石 髙野学長からは農の個性を進化させる農学の最前線の成果と方向を、船木会長は「至誠」を大切に農業の弱みを抑制し、強みを伸ばす新しい農協運動の方向を提起されました。SDGsの目標とする「我々は誰も取り残されないことを誓う」という誇り高い理念を注視し、農の果たす地球環境保全、心豊かな地域社会づくり、地域経済の活性化という3方面の総合的機能の発揮に貢献する東京農大であり、農協グループであってほしいと期待します。ありがとうございました。

 

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