JAとともに生産提案型事業を推進 栗原竜也部長に聞く2019年6月14日
JA全農は4月の機構改革で米穀生産集荷対策部を新設した。多収米など業務用米の契約栽培の拡大、担い手・JA推進の強化を通じたJA・連合会集荷数量の拡大をめざし、生産・集荷対応と販売対応を担うこれまでの米穀部と機能を分けた2部体制となった。2019年産米をめぐる最近の情勢と今後の課題、そして米穀生産集荷対策部がめざす事業などについて栗原竜也部長に聞いた。
◆四角適正な主食用米生産を
-令和元年産の作付けに向けては、主食用米の適正な生産のためJAグループは政府備蓄米に積極的に取り組むことを推進してきました。これまでの取組みへの評価と需給安定に向けた課題についてお聞かせください。
政府備蓄米の取組みについては主食用米の需給調整のためにも非常に重要だと認識し、農水省とともに備蓄米にしっかりと取り組もうとJA・生産者に働きかけてきました。現在、政府買入れ予定数量の9割程度の18万tほど落札しています。
農水省は今年度の入札の途中から、生産者との結びつけを必要とせずJAの判断で備蓄米に入札できるルールに変更しました。それを活用することも含めて、残りの入札に向け全農としても県本部やJAに対して需給調整のためにしっかり取り組む必要があるという働きかけは続けていきたいと思っています。
農水省が調査した令和元年産米の作付意向のまとめによると、7割ほどの県が昨年並みの作付けをするとしています。仮に作況が100であれば来年6月末の民間在庫がかなり増えてくる可能性があります。適正在庫は180万tとされていますが、200万t水準を超える可能性もあり、市場が敏感に反応することも想定されます。全農もしっかりと需給情勢を周知し、備蓄米などの取組みを呼びかけていかなければならないと考えています。
また、作付意向調査の結果から見えてきた課題として、備蓄米の取組みが増えても主食用からシフトしたのではなく、飼料用や加工用米からシフトさせるという、非主食用米のなかでの作付け転換にとどまっている地域も多いということがあります。生産現場では12月ごろ次の年産の作付計画を立てており、このなかで主食用、加工用等品目別の面積も決まってきます。こうした年間のスケジュールをふまえ、2年度、3年度に向けて早いタイミングで需給見通しについてのシグナルを何回も送っていく必要があると考えています。
備蓄米の積み上げだけでなく、飼料用米、加工用米も実需者にしっかり結びつけていくため、今後もJA段階でしっかり確保していただく取組みをお願いしています。
◆大規模生産者と関係構築
-それでは米穀生産集荷対策部が新設された経緯と具体的な事業展開についてお聞かせください。
専任部長として1年半ほど前から大規模法人など巡回する仕事を担当してきました。生産現場は今、大きく変化しており、同時に、流通においては業務用米が不足し生産者と実需者との間でミスマッチが起きているという問題があったからです。この課題に対応するため、全農は多収米の作付推進に取組み、全国の70以上のJAと大規模経営を中心に100近い生産者の方々を訪問しました。
そのなかで、JAと生産者との関係が大きく変わってきているということを実感しました。JAも合併で大きくなりましたが、大規模生産者への農地集積も加速度的に進んでいます。平成30年度ですでに20ha以上の水田経営が42.2%になっているというデータもあります。そして1軒あたりの生産者が大規模化するなかで、大規模な生産者自ら販売するなどJAとの関係が希薄になってきている地域があることもわかりました。こうした流れで農地の集積が進めば進むほどJAの取扱量が減ってしまっているわけです。もちろんTACなどの担当者が大規模生産者に出向き関係を深めているJAもありますが、それができていないJAもあります。
そうした状況のなかで全農の米の集荷量も減っていき、平成16年には主食用米だけで363万t扱っていたのが、30年では216万tまで減りました。この間、人口の減少などにより米の全体的な消費は減少しているわけですが、それ以上に集荷量が減ったというのが実態です。
一方、全農は多くの実需者と結び付きがあり、そこにしっかり供給していかなければなりませんから、やはり集荷量を確保していかなければなりません。
そのために大規模生産者や法人をJAと一緒になってJAグループのほうへ引きつけるのが全農の役割ではないかと改めて考えています。JAに出荷していただいた米を全農が実需者と結びつける、そういうマッチングを徹底してやっていく。実需者と生産現場を結びつけることで、生産現場に対しては、大規模生産者の経営の安定に貢献していきたいと考えています。多収米の生産提案や契約栽培は、その切り口のひとつです。
さらに生産者と実需者を結ぶ「線」を「面」に変えていく。つまり、生産者のみなさんに実需者をしっかり意識して作付してもらうような、契約栽培的な取組みを広げていきたいと考えています。
こうした生産提案型事業を展開することによって、生産現場としっかりつながり生産者の負託に応えていきたいと考えています。
◆事業部門の連携も促進
--具体的にどのように推進していく方針ですか。
多くの大規模生産者は米の生産だけしているわけではなく、麦、大豆や、野菜や果樹との複合経営をしています。
そういう経営者に対して10aあたりの所得をどう上げていくか、作付計画の提案をしていきます。また、多収米の導入による作期分散のメリットの提案など、労働力の確保の観点でも提案を行います。さらに所得を考えるなら肥料農薬などの購買品も含めて対応していかなければなりません。そこで、同じく4月に新設された耕種資材部や、耕種総合対策部等とも連携していくことを徹底していきたいと考えています。
今までの全農は、縦割りが強かったわけですが、それでは生産現場に対応できなくなってきています。全農の部署が連携するとともに、現場ではJAと一緒になって対応していくことが重要だと認識しています。
具体的には、技術支援に関して専門的な知識を持った職員を配置して、生産集荷対策課を設置しました。多収米を生産現場に提案するにしても、地域に合った品種を選定することが必要になるからです。そうした体制を強化していくということです。
本所だけでなく各地の事業所同士でも連携していこうとしています。県本部においても専任部署・チームの設置など体制が整えられつつあり、連携してJAとともに大規模生産者に働きかけをしていくというスキームを構築して取り組み始めています。
また、先ほど、JAと生産者の関係が変化していることについて申しあげましたが、地域の水田農業の担い手をどのように支えていくかは大きな課題だと考えています。大規模化していく生産者は将来的に地域を担っていく役割を果たす可能性が非常に大きいからです。JA、地域がばらばらになってしまうことに危機感を抱いており、JAととともに下支え機能を発揮して地域農業を支えていきたいと考えています。
JAは地域に根ざしているため、新たな事業に取組みはじめるときには動きづらい部分もあるかと思います。このため、JAにはこうした全農の事業をうまく活用していただき、全農とJAとが一体となって地域農業を支え、生産者が安心して農業経営できる世界を築いていきたいと考えています。
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