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【対談】八木岡努JA茨城県中央会会長×谷口信和東京大学名誉教授 「ニーズの変化見誤るな」2021年12月8日

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JAグループは先の全国大会で「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」を採択。「めざす姿」の歩みを始めた。これからの農業を考えた出口戦略、みどり戦略の捉え方、JAはどういった戦略を取るべきかといったことが重要となる。JA茨城県中央会会長の八木岡努氏と東京大学名誉教授の谷口信和氏に対談形式でそれぞれの思いを語ってもらった。

谷口、八木岡対談

八木岡 新型コロナによる影響などで、米の需要が低下し価格が大幅に下落しています。同時に食料安全保障面の重要性が増しています。『国消国産』というワードで国産の農畜産物を食べようと、いろいろなキャンペーンも展開しています。

谷口 いろいろな戦略を考えるときに、なぜ今のような状況になったのかを考えることが重要です。その経緯を分析して、専門家が集まって議論して戦略を作っていくというようにすれば、人々も動いてくれます。

食生活は大きく変化

谷口 例えば2013年頃から、食生活で大きな変化がありました。それは肉、畜産物消費の拡大です。1日に2,600カロリーを摂取しましょうという目標は1990年代に達成され、もう作らなくてもいいというムードになっていきました。政府側も人口減、高齢化により国内消費需要の減少、肉消費減少という見方をしていました。

そこに2001年のBSE問題の発生で牛肉消費がパタッと止まりました。ところが牛肉に代わって豚、さらに鳥肉へと変化しながら2013年頃から食肉消費が一気に増えています。人口が減ってきても世の中はやはり牛肉を食べたいという欲求が高まっているし、それが統計にも現れています。単なる人口統計などより、きちんと実情を見ることが大事です。

八木岡 確かに統計的な予想なら減るはずだとなるでしょうが、現実そうなっていませんね。

谷口 世の中の動きをよく見ると、小麦粉を使った昼食は必ずしもパンでなくて麺、しかもうどんでもなくラーメンです。スパゲティもあるけれど、国産小麦を使ったものはあまりありません。品質がマッチしていないんですね。これほど日本人がラーメンを食べているのであれば、それに合わせた小麦を作るべきだったのに、パンに合わせた品種に集中しすぎていたように思います。また、うどんは暖かくして食べるのが常識だと思っていたところに、腰があってゆでた麺を冷水でさらす讃岐うどんのヒットを見習うべきです。さぬきの夢はそれに対応した品種です。

街の中で起きている現実をよく見て、どういったものが好まれているかの研究を、技術面、生産面、流通面それぞれがきちんとすべきだと思います。

八木岡 出口戦略を消費の動向に合わせていくということですね。

米粉利用も多彩に

谷口 たとえば米も、粒でばかり売ろうとせず粉にして汎用性を高めるべきです。つい最近、全農広島県本部が「ひろしま米粉バウムクーヘン」を新発売しました。こういう取り組みは素晴らしいですね。芋も食糧難の戦争体験から、まだ芋を食べてるの?となって消費が減少しました。おいしい米の和食が一番だったのですが、今は洋食に人々の嗜好(しこう)が移って、和食を中心とするサツマイモの生食需要は大きく減少しました。

ところが芋はずっと需要が減ってきたかといえばそうでなく、ポテトの需要は高まってきていて、和食にも洋食にも使われています。コンビニにはポテト菓子が山ほどある。しかし、サツマイモの菓子は減っている。サツマイモを使った洋食や菓子をもう少し真剣に研究すべきではないでしょうか?

八木岡 確かに同じ芋でもポテトとサツマイモはだいぶイメージが違って感じます。

谷口 イメージは大事です。とんかつは西洋料理でなく日本料理、最初から切ってあるものを箸で食べているのですから。ではなぜビールで食べているのでしょうか?

日本食ならとんかつに合う日本酒を研究していけばいいのではないでしょうか。このように需要をきちんと作り出していくべきなんです。

また、こういったことが起きる根本原因には日本人の生食嗜好、加工食品軽視の文化があると思っています。例えばブドウも生で食べるものであって、ワインにして飲むといった考えに至らなかった。どうみても欧州のブドウの価値は生食よりもワインの方が上です。

八木岡 日本人は、どうしても生のものがいいんだとか、最初にこう食べたから、これはこういった食べ方をするものだという固定観念が強すぎるのでしょうか?

谷口 そうなんです、もっと考え方を柔軟にすべきだと思います。6次産業化する対象も一から考え直すべきで、加工に使うのは安いものだという認識を改めるべきです。その例はイチゴジャムで、フォションの3千円のジャムは良質なイチゴの粒がそのまま入っています。加工商品は貧しい人が保存食として食べていると勝手に決めつけてはいけません。ひたすら安いものを求めていた時代から、今日では本当にいいものへと嗜好が変化していることを知ることが大事です。

ただ、ここに来て格差が広がり、賃金が上がらないので食べ物にお金をかけることができないという事態になってきている部分も見られます。賃金を上げて国内で経済を回していく政策にすることがより大事になってきました。自給率を上げるということは、他方で賃金を上げて国民の健康福祉を高めていく方向にしていかなければだめなんです。

賃上げと自給率向上は両輪で考えるべきで、気候変動対応のためだけで高い価格の有機野菜を買ってもらえないですよね。おいしくて、安心できて、且つ地球温暖化対策のためにという状況をきちんとセットする必要があるのです。いきなり有機農業25%、CO2やメタン削減の話をされても生産者は誰も動かないと思います。

みどり戦略待ったなし

八木岡 確かにおっしゃる通りですね。

日本の農業従事者の8割が60歳以上です。今後は若手2割で現在の生産量を維持していく必要があります。高効率な農業と合わせて、農業にとって脅威となっている気候変動問題に対処していくために、地球温暖化への対応も必須となっています。JAグループ茨城として持続可能で高付加価値な農業を実現していかなければなりません。その施策として農水省は『みどりの食料システム戦略』を発表しました。

内容的にはどこから手を付けて、どう計画を具体化していけばいいのかと悩み始めています。

谷口 いきなりみどり戦略を提示されても「できるんですか?」という反応になるし、現在有機農法を進めている農家にとっては「なんだこれ」という感じだろうと思います。現場で実際にやっている人が「ちょっとここは違う」と言って議論できる環境が整備されていないのは問題です。

八木岡 そういう印象を農家も強く持つと懸念しています。

谷口 みどり戦略がEUの政策を後追いで真似しているところも問題です。すでに追いつけないほど差がついているのに、EUのモノマネになってしまっています。物事には順番があり、たくさん収穫できる技術を身につけた上で初めて品質を上げていけるわけです。

病害虫への対策などもできている上で農薬使用量を減らす議論になるのに、いきなり減らせと言われても誰もついていけない。時代に合わせた現実的で合理的な技術を持って、それをどう発展させていくかというプロセスが必要なんです。今回の戦略は、いきなりという感覚を多くの人が強く感じてしまっているのではないでしょうか。

農家目線を第一に

八木岡 なるほど。急に出てきた戦略に驚かず、実行していく農家の目線で、いかにやる気になってもらうかを考えることが大切なのですね。

谷口 みどり戦略では十分に説明されていないのですが、農業がCO2を減らすのに最も貢献できるのはたとえば食料自給率を大幅に引き上げ、輸入食料や飼料を国産に切り換えることなのです。

ある研究者の報告によると、米国から飼料用トウモロコシを輸入した場合と国産の場合を比較すると国産の方がCO2排出量は10%ほど少ないのです。生産の段階では米国の方が大規模で、遺伝子組み換えトウモロコシを使用していることから農薬や化学肥料の投入量が少ないため、CO2排出量は国産よりかなり少ないのですが、何と言っても太平洋を船舶で渡ってくる間の排出量が大きいため、国産の方が排出量は少ない結果になっています。

これは多くの輸入食料や農産物にも当てはまりますので、日本の農業と食料にとっては自給率向上が温暖化対策の最重要な武器となります。その上で化学肥料と農薬の使用量を少しずつ減らすということが重要だということになります。

八木岡 これからのJAグループのあり方としてヒントになることは何かありますか?

谷口 JAの協同組合という考え方の重要性です。コロナで一番印象に残ったのは子ども食堂のあり方でした。私は子ども食堂に対して二つの間違った認識があると思っています。一つは満足にご飯を食べられない子どもが集まるところだという認識です。親が食事を用意していってくれるけれど、一人で食べることにためらいがあり、みんなで食べることが楽しいから子ども食堂に来ている子どもが多数だという現実。こうなると母親は子ども食堂に行って食べなさいと言いにくいでしょ。

もう一つは高齢者で、これも同じ。デイサービスは週に1、2回で目的は誰かと話したい。そう考えると地域にとっての農協も同じ目的で機能する存在であるべきではないでしょうか。この人は組合員、准組合員でお金を払ってもらえる人と考えるのは間違いです。もっと広い視野で地域を支えているのは農協だというくらいに考えるべきです。

JAの役割を再定義

八木岡 私も新しい地域のあり方と、そこでのJAの役割は何かと再定義する時期だなと考えます。

谷口 そうするために現場に任せて声を聞くことが重要になります。現場はよく知っているのに、現場を知らない人間が集まって、すぐに横展開だというような施策は間違っています。子ども食堂の例のようにちょっと来て話せる場をどう作るかを考えることが大事です。そしてその場には食べ物があることは重要ですよ。昔から火の周りに人が集まるというのは食がそこにあるからです。コロナが深刻なのはその場さえ無くしているからだと強く感じます。

八木岡 ありがとうございました。

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