カンショと枝物で荒廃農地再生 「儲かる農業」へ茨城県の挑戦 新世紀JA研セミナー2023年2月16日
茨城県は農業産出額で全国3位を誇り、荒廃農地の再生では全国トップの県だ。2015~20年で約3600haの荒廃農地を再生させた。これは自然環境や大消費地に近いという条件を生かし、「儲かる農業」の実現に努めてきた成果でもある。新世紀JA研究会(代表=熊本県JA菊池三角組合長)は2月9日、茨城県水戸市で「荒廃農地復活日本一の取り組み」をテーマに、オンラインによるセミナーを開き、茨城県の荒廃農地再生の取り組みについて学んだ。
東京市場の入荷量の1割を占める青果物
セミナーでは、大井川和彦知事が茨城県の農業について報告した。同県は販売農家が4万4000経営体あり全国1位、主業農家は約1万経営体で全国4位、農業産出額は県南の青果物を主力に、令和3年で4263億円と全国3位にある。また東京都中央卸売市場における青果物取扱高は10.2%のシェアを持ち、全国1位をキープしている。
量と金額では全国トップクラスだが、販売農家1戸当たりの所得は393万円(令和3年)と、全国10位にあり、産出額とのギャップが大きい。この原因について大井川知事は、「産地間競争での競り負け、差別化・ブランド化の遅れにある」とみる。例えばハクサイ、11月の東京市場の入荷量はほぼ茨城産」が占めるが、高原野菜のイメージを持つ群馬や長野県の産地に競り負けしている。
そこで「儲かる農業」を目指し、①差別化・ブランド化、②販路開拓(新市場)開拓、③経営の大規模化による生産性の向上を掲げ、「売り上げ重視から利益重視に方針を転換した」という。差別化・ブランド化では有機農業もその一つで、令和元年度から県北地域で、モデル団地づくりに取り組み、約20haにまで拡大した。
また販路では茨城県の特産であるレンコンやハクサイ・キャベツなどの新品種開発などに力を入れてきた。水稲のメガファーム育成事業を立ち上げ、規模拡大に向けて農地集積・集約化を後押しした。
カンショの作付けが荒廃農地再生に
生産拡大で大きな成果をあげている品目の一つにカンショがある。焼き芋ブームもあって生産が急増し、令和3年度の作付面積は757haで全国のシェアは46%。知事就任後5年間で520ha増え、そのなかには再生した荒廃農地129haが含まれる。海外輸出も1.6倍増え5603トンになった。大井川知事は「引き続き「農業者の所得向上に向け、儲かる農業の実現と荒廃農地の発生防止に全力で取り組む」と決意を述べた。
枝物は荒廃農地再生に最適
茨城県の荒廃農地の再生による「儲かる農業」の実現している作目に枝物もある。茨城県北にあるJA常陸奥久慈枝物部会は耕作放棄の荒廃農地を活用して急成長した。2005(平成17)年に9人で発足し、14年目に売り上げ1億円を突破し、2022(令和4)年は2億2000万円を超え、バブル期のような拡大ぶりだった。部会員143人で栽培面積は約70haに達する。
この中で、元耕作放棄地は2割、同じく遊休農地が4割を占める。永年作物の枝物の樹木を植えるには抵抗があっても、利用しなくなって何年も経つ耕作放棄地なら抵抗感も少ない。また野菜などと違い、病害虫の被害が少なく、日常的な管理作業も軽くて済み、高齢者、特に定年帰農者にも取り組み易い。
セミナーで報告した同枝物部会の石川幸太郎部会長は「部会員は高齢化しており、耕作放棄地でなければできなかった。耕作放棄地・高齢者・枝物は経営転換が難しいという負の部分を逆手に取った戦略が功を奏した」と言う。
部会員は7割が60歳以上で、販売額の半分は70歳以上が占める。このため5~10年後、一挙に高齢化が進む。「リタイヤした人のほ場をどう継承するか、幸い40代の参入もあり、産地維持のためのシステムづくりを進め、日本一の枝物産地を目指したい」と、石川部会長は意欲を示した。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日