大規模・法人化は日本農業の課題を解決するか 東京農大の谷口教授2015年12月18日
JA出資型農業法人全国交流集会
JA全中は12月9日に東京都内で、27年度JA出資型農業法人全国交流集会を開いた。交流会では東京農大の谷口信和教授が「日本農業が直面する課題とJAによる農業経営の今日的役割」と題して基調講演した。そのなかで谷口教授は大規模な農業経営体の離農が進行している実態をデータで示し、多様な担い手による課題解決が必要になっているなどと強調した。

谷口教授は大規模経営体の「離農・自給的農家」への異動について分析結果を公表した。
それによると北海道で50ha以上の経営体が離農や自給的農家に異動した割合は「2005-10年」で16.9%にものぼった。統計データが異なるため厳密な比較はできないものの1990年から2005年までの5年間ごとの同じ異動が5%から7%台だったことにくらべると、近年で事態は「深化」していると指摘した。
さらに都府県では離農・自給的農家への異動は2005-10年では15ha以上の層が12.3%ともっとも高い。それ以前の分析でも大規模経営のほうが異動が多いが、近年は著しくなっている。
谷口教授は「大規模経営をつくればうまくいくというのは甘い。5年で止めざるを得ない実態がある」と強調した。
想定される問題として、地域の高齢化・担い手不足により一定規模の経営体が農地を引き受けてきたが、その経営が立ち行かなくなっている経営環境の厳しさを指摘。大面積農地の一挙的貸付の発生という問題が出てくるが、一方でそれを引き受けられるのは大規模経営しかないということならば、大規模な耕作放棄地が発生しかねない。
この問題は大産地である先進農業地域でもみられる。
2010年センサスによる全国の耕作放棄地率は平均9.8%で都府県では12.9%となっている。しかし、都府県で農業産出額上位を占める地域の耕作放棄地率をみると茨城14.6%、千葉16.6%、鹿児島12.6%、熊本12.5%、愛知13.5%など、農業先進地域で耕作放棄地率が全国平均よりも高い。
ただし一方で、こうした先進地域が大規模経営への面積集積率が必ずしも高くない地域であることも示されている。大規模経営への面積集積率(10ha以上)の全国平均は20.2%。これに対して茨城17.4%、千葉10.4%、鹿児島16.1%などいずれも全国平均を下回っている地域であることが示された。
こうしたことから谷口教授は「大産地だからといって大規模経営だけが担っているわけではなく多様な担い手が支えていることが分かる」と分析する。ただし、農業先進地域で耕作放棄地が増えているなどの厳しい状況について、▽農業は本当に食える職業か、▽農家でも、職業としての農業の選択地位が低下しているなどを背景としてあげ、農家も子どもの数が少なくなっていることから家族経営で後継者を確保し大規模化して経営安定を図っていくことが難しくなっているのではないかなどと指摘した。
また、アベノミクス農政が期待する一般企業の農業参入は2014年12月末で1712法人で、改正農地法施行後5年で約5倍のペースで増えている。しかし、2011年調査では黒字は30%にとどまり、ブームとして参入はしたもののいち早く撤退する事例も多い。
こうしたなか家族経営の代替としての集落営農法人が、構成員の子弟や非農家を雇用したり後継者として育成する動きがあるほか、JA出資型法人も「最後の守り手」から「最後の攻め手」として期待されている。
2015年センサスによる法人経営数2万7135のうち570がJA出資型法人で2.1%となった。また、JA直営型法人も50法人あるという。
JA出資型法人も水田農業の担い手としてだけでなく、野菜も含め耕種部門全体、さらに畜産・酪農へと経営内容が広がっていることや、さらに新規就農研修事業も展開していることに地域農業維持の役割が期待されている。谷口教授はJA出資法人は、地域が抱える課題に応じて多様な法人をつくることができることなどを強調した。
(写真)谷口教授
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