【JA全国女性協 加藤和奈新会長に聞く】「農と食」の大切さ発信 SDGsで運動の広がりを2019年5月23日
JA全国女性組織協議会の新会長に選ばれた加藤和奈さん=JAあいち女性協議会会長=に就任の抱負を聞いた。稲作農家として米づくりの経験から、食べ物の大切さを子どもや孫の世代に伝える食農教育の重要性を強調。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)を通じて、女性部による運動の広がりに意欲を示す。
加藤JA全国女性協会長
――稲作農家として農業に従事され、農業についてどのような思いを持っていますか。
昨日(5月21日)の大雨で、遅れていた田植えができほっとしています。他の地方では被害が心配された豪雨も、水不足の私の地区(愛知県JAあいち海部管内)では恵みの雨で、自然と共存する農業の難しさ、大変さを痛感しているところです。
自然相手の農業は工業と違い、毎年同じものが作れるわけではありません。懸命に作っても、無事に収穫できるかどうか分からないのが農業です。国は、その大変さ理解し、農家の努力をもっと評価してもらいたいものです。
実家はお寺でしたので、皆さんからいただいたお米は一粒でも粗末にしてはいけないと、小さいころから厳しく躾けられました。嫁ぎ先は金魚の養殖農家でしたが、すべて水田に転換しました。養殖池だった田んぼは肥沃で、最初の年は実りすぎてすべて倒伏して機械が使えず、手刈りしましたが、穂発芽した稲は、そのまますき込むと、さらに栄養がつくため、消防署に連絡して焼却しました。その時、発芽した籾ははぜてポップコーンのようになりました。
1年間手をかけた米が食べられず、肥料にもならない。それまでは農業について簡単に考えていましたが、何と大変なものかということを改めて認識しました。小さいころは、米一粒でも八十八の手が掛かる、だから大切にしなさいと教えられましたが、食べ物の大切さを子どもや孫、さらにその先の子どもたちに教えたいと考えています。
――それが加藤さんの女性部による食育活動につながるわけですね。どのようなきっかけで農協の女性部活動に加わるようになったのですか。
所属した農協は婦人部と女性部を一緒にした組織で、あまり活動はしていませんでした。農協が合併して、私たちの地区でも女性部の活動を強化しようということで設立委員会を立ち上げ、その責任者になったことから女性部に関わることになりました。その活動の中で農協の大切さを知りました。
今も子育て支援の活動をしていますが、子どものお母さんたちは、安全で安心な食べ物には関心がありますが、食と農のつながり、特に農の大切さについてはあまり興味を持っているとは感じられません。それを伝えるのが女性部の役割だと思い、食育活動に力を入れています。
JAあいち海部女性部では、2歳児が作るおにぎりを親が食べる「はじめての料理は『おにぎり』プロジェクト」を行っています。感受性の豊かな2歳児がおにぎりをつくり、親に食べてもらったことは一生忘れず、ご飯好きの子どもになるのではないかと期待しています。
孫の作った小さな丸いおにぎりを手にしたおばあちゃんが「もったいなくて食べられない」といって涙を流していたのが印象に残っています。また、子どもと一緒に来た若いお父さんが、「僕たちが来てもいいんですね。農協は年配の人や農家の皆さんが来るところかと思っていました」と言われたこともあります。今年の夏には、子どもたちの新しいスタートとして、小学校入学に同じようなイベントをやりたいと考えています。こうした活動で、食の安全に興味ある人が女性部に関心を持つようになり、あらたな入部のきっかけづくりにもなっています。
――JA全国女性組織協議会では仲間づくりで、部員の拡大が課題になっていますね。
フレッシュミズを立ちあげても、子どもが小学生になると、学校の行事などで抜けたり、年齢が上がると、女性部にスライドせず、やめる人がいます。フレミズ、ミドル、エルダー世代が活動をつなぎながら、活動する方法を模索しているところです。
エルダー世代は、生涯現役で健康な生活が送れるよう「健幸」活動として、ミドル世代にうまく移行できるようするなど、女性部として分れてはいないが、活動はそれぞれの世代の問題意識で独自に、というような活動を目指しています。
――男女共同参画が唱えられていますが、農協ではなかなか進みません。どんな問題があるのでしょうか。
農協の運営には積極的に関わるべきですが、女性の意識にも問題があるように思います。部員には意識改革を呼びかけていますが、皆さんはそれぞれ自分の考えを持っています。しかし慣れていないこともあって、会議などでそれを伝えられないのです。
ただ、JAの大会や総会などで感じることですが、話が難しくて、いったい誰に伝えようしているのだろうかと思うことがあります。皆に分かるようにしないと、言いたいことがあっても出せません。
農協は地域密着の組織ですが、規模が大きくなるにつれ、組合員や地域からどんどん遠くなっているように感じます。職員とも疎遠になっています。しかし私たち女性部員は異動がないので、農協のイベントなどのときは窓口になって、分かり易く組合員に農協のことを伝える役目があります。
――活動の広がりには社会的問題への取り組みが必要です。その意味でも女性部が国連の唱えるSDGsを取り上げたのは意義深いのではないでしょうか。
日本の健全で豊かな食と農を次の世代に伝える活動を広げるには、多くの仲間が必要です。50万人の女性部員が力を合わせれば大きなこともできます。SDGsは女性部の活動に当てはまるところが多くあります。それが自信につながり、足りないことがあると、新たな目標を見つけるきっかけとなります。自らの活動の見直しのツールです。
――いまJAグループは、いま自己改革に取り組んでいます。特に農協に変わって欲しいというのはどのようなことですか。
意識改革が大事ですが、職員の意識改革も必要です。職員の皆さんが、農協は命と食と暮らしを守るのだという自覚を持つと、やりがいも出て、もっと農協は輝くのではないでしょうか。農協では職員教育をやっていると言うが、本当に行っているかどうかを判断するのは組合員です。どうもそこに温度差があるように感じます。
若い職員は日々の仕事に追われてなかなか余裕がありません。しかし私たち組合員はそこから逃げることはできません。だから一生懸命です。それに応えるのは職員です。組合員も組合員の意識が希薄になっています。
JA改革は、女性部員はもとより職員、組合員の意識改革ではないでしょうか。組合員は農協が何をしてくれるかではなく、自分たちの農協だから、自分たちで良くしなければという思いが必要です。いま、その思いがそれぞれに伝わるような対話が求められているのではないでしょうか。
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