【水田営農への処方箋】子実トウモロコシを加えた輪作体系の普及が大規模経営を可能に JA全農米穀部次長 小里司氏に聞く2023年10月20日
今後、高齢者の卒農や小規模農家の離農に伴い、大規模生産者への水田集積が急速に進むことが予想される。JA全農では、水田営農における規模の限界を突破する手段として、子実トウモロコシ⇒大豆⇒水稲(直播)の大規模3輪作体系の確立・普及を目指している。その初手として、昨年から開始したのが、JA古川(宮城県大崎市)との子実トウモロコシ大規模実証である。初年度の課題を2年目で概ね克服し、「これまでの栽培体系を転換して日本の生産基盤を維持したい」と語る、JA全農米穀部次長・小里司氏に話を聞いた。
JA全農米穀部次長・小里司氏
水田農業の競争力強化には、輪作体系の普及が必要
――古川での子実トウモロコシの大規模実証の手応えは。
JA古川・農研機構・本会関係部門が一致団結し、初年の課題解決に向けた準備を整えて2年目の栽培に臨みましたが、収穫してカビ毒検査の結果が出るまでは正直心配でした。理屈と実践は違いますから、4月播種圃場の想定以上の結果を確認してほっとしました。ただ、これから5月植えを収穫して、最終的に飼料として給餌されるまで安心はできません。
実は、全農の歴史の中でも100ha超の実証は初めてで、単年度で多様なデータを獲得できる利点はありますが、失敗できないというプレッシャーもあります。今年は栽培や乾燥調製の課題を何とか突破できましたが、再来年の事業化に向けて、産地保管やバルク輸送への切り替え、その後の飼料利用など、課題は山積しています。
わが国は、飼料用トウモロコシ約1,140万tのほぼ全量を輸入に頼っています。全国の水田面積235万haのうち、例えば50万haで子実トウモロコシを栽培しても400万t程度しか生産できないので、国産を拡大しても輸入依存の構図は変わりません。しかし、世界的な穀物需要の増大、相対的な日本の国力低下、ロシアのウクライナ侵攻などの政情不安、SDGsなど、国内で飼料穀物を増産する機運は急速に高まっており、全農として挑戦しなければならないテーマだと思います。最終的に、国産トウモロコシを給餌した畜産物が消費者から評価され、安定した国産トウモロコシの需要や価格条件などが整わないと、本格的な栽培拡大には繋がらないので、まだまだ先は長いのですが...。
――今回は全農の部門間連携でスクラムを組みましたね。
個人的な話ですが、令和3年度に米穀部に着任するまでは経営企画部に所属していました。様々な統計データから、移植水稲単作が主流の水田農業で生産者の減少が加速すれば、労働時間的に手が回らない圃場=耕作放棄地が急増するだろうと考えました。ちょうど農水省からみどり戦略の話しも出てきて、有機物を土壌に入れていく仕組みも検討しなければならない。様々な課題を解決するには、単位面積当たりの労働時間が大幅に短縮され、経営面積を倍増しても総労働時間が減少するくらいの品目選定・輪作体系の確立・普及が必要になると考えました。
そこで単位面積当たりの労働時間が最も短い品目は何かと調べていたところ子実トウモロコシに行き着き、先進的に取り組んでおられた北海道、岩手、千葉の生産者を訪ねて課題やメリットを確認しました。その後、米穀部に異動して「今後の水田農業を維持する方策」として内部提案し、米穀部だけでは完結出来ないので、畜産生産部・耕種総合対策部の合意を得て、さらに耕種資材部、施設農住部にも応援要請して協議を重ねました。そうして、令和4年度から、全農の事業方針に掲げて取り組むことになりました。
古川(宮城県)での子実トウモロコシの搬出作業
――そこから大規模実証が始まるのですね。
準備を始めた令和3年度、千葉の先進生産者からアワノメイガによるカビ毒の問題を聴き、すぐに卓効農薬であるプレバソンの適用拡大をメーカー・関係機関に要請しました。また、輪作体系の確立には大豆と水稲直播がセットだと考えていたので、アワノメイガの発生リスクが少ない東北エリアで大豆生産が盛んなJA古川に相談し、全農の委託試験として令和4年度から大規模実証試験を開始することになりました。
残念ながら、初年度は豪雨による水害や予想以上のアワノメイガの発生で収量・品質ともに散々でしたが、その原因を一つ一つ解明し、着実に対策を検討・準備したことが今年の功奏に繋がったと思います。特に、5月24日に「プレバソン®フロアブル5」が適用拡大されたのは大きかったですね。
今、全国の大規模生産者の間で"望まない規模拡大"が問題になっています。地域差はあるものの、家族経営では20ha程度、農業法人では60ha程度が効率的な水田経営面積と言われていますが、そういう農家・法人に離農者の農地が集積して受託面積が急増し、新たな要員・機械・設備投資が必要となる=望まない面積拡大による経営悪化が懸念されています。
地域農業の受け皿となっている生産者が「もうこれ以上農地を受けられません」となる前に、労働時間を増やすことなく収益性、特に時間給を高め、経営面積を大幅に拡大できる品目・栽培体系が求められています。
――大規模経営への処方箋は。
10a当たり労働時間は、移植水稲で25時間程度。トウモロコシは2時間以下、大豆は6時間以下、乾田直播は18時間以下ということで合計26時間以下なので、子実トウモロコシを加えた輪作体系を普及することが出来れば、総労働時間を増やすことなく、今までの3倍の面積で水田経営が可能となり、さらに、その場合の時間給は試算ベースで2倍近く向上すると考えています。また、米だけでは作期分散が大変ですが、子実トウモロコシ⇒大豆(或いは麦)⇒水稲乾田直播という輪作であれば、作業時期を大きく分散することも可能です。
移植水稲栽培100haの生産者が、集積した農地をフル活用して300ha規模の輪作に取り組んだ場合、総労働時間は変わらず、作業時間の分散が可能で、時間給を大幅に向上することが可能となれば、多くの大規模生産者がチャレンジするのではないでしょうか?
――日本の農業生産基盤の1つの大きな柱になりそうですね。
そうですね。輪作体系による規模拡大で、①個々の農業経営を安定させながら、②水田を維持することは、日本の食料安保の観点からも重要です。現在の水田面積235万haのうち、主食米の栽培に必要な面積は100ha程度まで縮小するかもしれませんが、日本の自給率を考えれば、残り135万haの水田を如何に活用するか、畑地面積195万haも含めた日本の食料生産基盤をフル活用して、輸入に依存する作物を出来るだけ国内で栽培することが大切だと思います。
また、子実トウモロコシ栽培は、従来の機械体系・施肥体系を見直すきっかけになりますし、後作物の収量・品質改善にもつながります。先ず、機械体系では、これまでの時速3kmのロータリー耕から、時速10kmのプラウ耕+バーチカルハローへ、作業の高速化や乾田効果は絶大ですし、CO2の排出量削減にも繋がります。
施肥体系では、子実トウモロコシ播種前に堆肥2t、醗酵鶏糞500kgを施用すれば、トウモロコシ収穫後の大量の茎や葉を有機物として土壌に投入することで地力や土壌物理性が大きく改善することから、その後の大豆や水稲栽培での施肥は初期成育用の側条施肥のみなので、みどり戦略にも繋がります。
後作大豆では、圃場の物理性改善や難防除雑草であるアサガオの撲滅により、収量や品質の改善に繋がります。トウモロコシ栽培時の除草やトウモロコシ収穫時にアサガオのタネが未熟なうち刈り取るからです。こうした一連の効果は、引き続き実証中ですので、来年度中には、体系として報告したいと考えています。
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